EP7「ヒットマンが、来る!」③
……大切な何かが零れていく。
「う……あれ……俺、なんでこんな所で倒れてるんだ?」
身体中が痛い……何か大事なものを守らなくちゃいけなかった気がする……。
なのに、何も思い出せない。
【頭に血が上るのはおめえの悪い癖だぜ】
誰かにそう叱られても仕方ねえ、そんな馬鹿な真似をした気がする。
それに誰か、大切な人に会っていたような……なのに思い出せない……だけど、何故だろう……どうして。なんで俺はこんなに悔しいんだろう……誰かに伝えたかったことがあるはずなのに…思い出せない…ちく……しょう……。
ふと気付けば、金髪の美しい男がこちらを覗いて微笑んでいた。
「ふう……みーつけた」
「あーあ、無様できったない姿ねぇ。せっかく美しい姿のまま殺してあげようと思ったのに」
嘲笑う声が降り注ぐ。
「デイジーカッター。そんなボロ雑巾、放っておきなさい。さっさと行くわよ」
「あら、でもまだレコードが」
「その肝心のレコードがもうそいつの中から抜けているから言っているのよ」
「何ですって?」
「大方、ギルドの連絡員か誰かに渡したんでしょう。追わないとリカたちの仕事もパアね」
「冷静に言ってるんじゃあないわよ、もうっ! それならそいつも見つけ出してぶっ殺さないといけないじゃあない!!」
二人の気配が遠のいていく。
「…………まち、やがれ」
足が軋む。背中の灼ける痛み。血が足りない。脳みそが激痛でどうにかなっちまいそうだ。
「げげぇっ! あいつ起きやがったわ!? アタシの《フォルナックス》を二発も喰らって立つなんて信じらんない!」
「……ハマル」
金髪のそいつがこちらを哀しげに睨んでいる。
「そこで寝てなさい。じゃないと本当に死ぬわよ」
……冗談じゃあねえ。柄に手が自然と伸びる。何もかも忘ちまったけど、こいつの握り方だけはどうやら忘れないらしい。
「いかせねえ……てめえらを、あいつのところへ行かせたりはしねえ」
「レコードを失えば、記憶も能力も失うはずよ。なのに、なぜ立ち上がるの、ハマル」
俺の体はどうなってもいい、欲しいなら命まで全部くれてやるよ。その代わり一分一秒でも長くこいつらをここに引き止める。理由はわからねえが、そうしなくちゃいけねえ気がするんだ。
「行くぞ……《アルゴ》……!!」
「懐かしいわね。レコードを継承する前の貴方のアストラ。確か身体能力を高めて高速移動を可能とするアストラだったわね。その副作用は筋肉と靭帯の断裂」
金髪の男が刀を構えた。分かっている、実力の差は歴然としている。奴は俺よりも何倍も強くて、俺はそんな奴を尊敬していて、俺の刀が奴に届くことはないんだろう。だけど、それがどうした。俺は必ず守る……を守る……あの子の進む道を繋げる……!
「自分が死んでもってやつかしら……もうリカが誰かも分からないでしょうに。まったくどこまでもおバカさんね、ハマル!」
「おおおっ!!!! アルゴォォォォォォ!!!」
筋肉が文字通り爆ぜる。靭帯がぶちぶちと千切れる音が聞こえる。
ここで命を燃やし尽くす。
「あははっ! 馬鹿ねえ……アタシがいることを忘れるんじゃあないわよ!!」
残酷なほど綺麗な白い花弁が舞っている。
「粉々にしちまいな! 《フォルナックス》!!」
花びらが爆発するよりも早く、敵の懐に潜り込む。
「なにっ!?」
驚くそいつの顔面を蹴り飛ばして跳躍する。
「ごべっ!?」
金髪の男は当然のように刀を構えて、アストラによる水の刃も発動させて待ち構えていた。剣術とアストラによる予測不可能な二重の斬撃。それがこいつの得意技だったような気がする。俺はこの攻撃をどうしても防ぎきることができなかった。
こっちの動きは全部読まれている。
「そんなことは……分かってんだよ!!」
刃が来る。二重の斬撃が防ぎきれねえっていうならよぉ……
「防げねえなら、防がなければいいだけの話だろうが!!」
「なにっ!? リカの二重斬撃をもろに喰らって……貴方、最初からこれを狙って!?」
「リカァァァァァァァー!!!」
「くっ!」
もう少しで刃が届く、届け、あと少し、手を伸ばせば届く……を守れる……俺は……おれ、は……!
「……ハマル、アンタってやつは」
あと一歩のところだった。リカーの顔を掠めて、俺の刃はぴたりと止まる。
「……ほんとバカな弟弟子ね」
「いたたっ、ちょっとそいつどうしたのよ、刀を構えたままぴくりともしないじ
ゃあない」
「立ったまま意識を失ったのね。そもそもあの傷で動いてる方がおかしいわ」
「あっそ、アンタをここまで追い詰めるなんて侮れないわね、ゾディアック」
「……そうね」
「やっば! 人が増えすぎだわ。早くレコードを追うわよ、リカー!」
「ええ……さようなら、ハマル」
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