EP7「ヒットマンが、来る!」②
……足が重てえ。視界が歪んで地面が揺れている。
「うぅ……くっそ……! きっついの……もらっちまったっすね、ぐっ……無線は使えねえか」
無線はさっきの爆発で壊れちまった。奴らは俺じゃなくてレコードが目的だと言っていた。それは。それはつまり。俺だけじゃなくてみんなのレコードも狙われているってことだ。
「うっ……なんとか……なんとか大通りに出て……助けを呼ばなくちゃあ……ゾディアック・レコードを……アレスから受け継いだ大事なモンを……リカーのヤツに渡すわけにはいかねえ……」
ああ、なのに足が動かない。目が視えない。どうしてだ、俺はこの日の為に今まで戦ってきたはずなのに。力をつけてきたはずだったのに。どうして、どうしてなんだ。
「きゃあ!」
「おい、なんだ、あいつ」
「血まみれじゃないか」
誰でもいい。誰か、俺の代わりにこいつを。このレコードを守ってくれ。
「くっ……」
ダメだ……体に力が入らねぇ……。手足が冷たくなって、命の灯が消えていくのが分かる。死の間際だからなのか、ああ、話をしたかった相手を夢に見てしまう。
「アンタ、大丈夫!? 血が出てるわ……!」
いや、分かっているこれは現実だ。この声は……ああ、神様……どうして、どうして今なんだ……!
「って、やだ。アンタ、ハマルじゃないの……! どうしたの、この怪我。待って、今、救急車を……」
俺に駆け寄ってきたアリーの手を掴む。今更、救急車なんて呼んでも意味がないことは自分が一番良く分かってる。
「アリー……アンタに……頼みがある……がはっ……ゴホッ…」
「喋ったらダメよ。うわ、なに……これ、出血がひどすぎる……」
「俺、追われてるんだ……これをヤツらに渡しちゃあいけねえ……」
「何? アンタ、何を話しているの?」
……悪いっすね、アリー。今は喋っている言語とかよぉ、頭を使って話してられねえんすよ。
「ゾディアック・レコード……アンタに預ける、これを持って逃げてくれ……」
ありったけの力を集結させて体から取り出す。それが抜けた途端、体に残っていたものが本当に終わったのが理解できた。
「何……これ……? 光ってる……レコード……?」
「サラマンダーズ・ギルドのライオネル・コールドマンって男に、そのレコードを渡すんだ……いいか……必ず……だぞ……」
「ちょっと、しっかりしてよ。ねえってば。さっきから何を言ってんのよ、アンタ、何を伝えたいかちっとも分かんないんだけど。一体、何語で喋ってるの。ねえ、お願い……分かるように喋ってよ。ちょっと! しっかりして、ハマル!」
ああ、アリー。俺はよぉ、また会えるって知ってたぜ。けど、出来れば別の形で会いたかった……。
伝えたいことがいっぱいあるのに……。アンタの話をもっと聞きたかったのに。親父と上手くやってるかとか、学校は楽しいかとか、好きな食べ物は何だとか、はは、そんな他愛もない話をさ……。
でも言葉が……出ねえ……こんなことなら、日本語、勉強しときゃよかったっすね………俺はもっとアンタと一緒に……。
明里の目の前で、多々良はゆっくりと目を閉じた。
「く……なんだか分からないけど、ハマル。これを誰かが狙っている。アタシはこれをライオネルって人に届ければいいのね。分かった、言いたいこと、なんとなくだけど分かったわ。ねえ、そこのアンタ!」
遠巻きに眺めている野次馬に声をかける。
「え、俺……?」
「そう。ボサッとしてないで、救急車を呼んで!」
「は、はい……!」
明里が何人かに声を掛けるとようやく人を助ける空気になり、ハマルの身を預けて彼女はとにかく走り出した。
「その人の事、任せたからね!」
明里は駆けていく。
「言葉は分からなかったけど、これはきっと、命をかけるくらい大事なものなんだ。ハマル……安心して、アンタが守りたかったもの、アタシが必ず守るから!」
どこへ向けて走ればいいのかも分からない。それでも明里は足を止める訳にはいかなかった。
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