EP1「美しき悪の街」⑤
ライオネルはこっちにまで飛び火してきたアリエスの炎を払いのけた。
「くっ……ヤロー、手加減ってものを知らねえのか。俺たちは対象を捕獲しろと命令されているんだぞ」
「あつっ、ひぃ! 退避ーっ!」
「うぎゃああああああっ!!」
「はあ……後で説教だぜ、ハマル」
隊員たちの悲鳴を聞きながら、ライオネルが自分の眼を覆っていると、聞き馴染みのある声が耳元へ届いた。
「あーあー、ハデにやっちゃってるねえ。やっぱり、彼を前に出すのやめた方が良かったんじゃあないのお?」
ひょっこりと顔を出したのは、サラマンダーズ・ギルドの幽霊隊員。射手座のアストロローグであるアントニオ・フェルナンデスだった。
「アントニオ。てめえ、今までどこほっつき歩いてやがった?」
「まあまあリーダー、怖い顔しなさんなって。ちゃんと仕事はしてたよ。あっちの方で逃げ遅れた人たちを誘導してたんだよ。人命救助も大事な仕事でしょ?」
アントニオがお茶目にウィンクをこぼした。ライオネルは苦々しそうに瞳を伏せる。
「そう言っていつもフケやがる。今回は俺たちだけじゃあ手に負えねえ。真面目に手伝いな」
ライオネルの指示にアントニオは肩をすくめて口角を引き上げた。
「そう思って戻ってきたんだけどさ。どうやら、おじさんの出番はないみたいなんだよねえ」
「あぁ? どう言う意味……」
ライオネルが真意を問いただすより早く、見覚えのある顔が視界に入る。水のユニオン『オンディーヌ・ガーデン』の二人が現場に到着したのである。
「ごきげんよう、ライアン。それにアントニオも」
「久しぶりだな」
ライオネルはそのご丁寧な挨拶に息をもらした。帰ってくれと言いたそうな表情を浮かべているが、ぎりぎりの所で口には出さず我慢している。アントニオの方はそんなライアンを見て、良く我慢してるねぇ、偉いじゃないと感心している様子だった。
「はっ、珍しいな。水のユニオン・マスターが二人も揃って出てくるなんざ」
水のユニオン・マスター。蟹座のシャルロット。蠍座のセルゲイ。非戦闘施設を任されているこの二人がわざわざ前線に出てくるとなると、それはつまりそれだけのことが裏で動いているって証拠だと、ライオネルはすぐにリーダーとして思考を巡らせた。
「それだけの事態だということですよ。ご協力を」
ライオネルの思考を読み取るように、シャルロットは柔らかく微笑んで小首をかしげる。ライオネルはそれが癪で気に入らなかったが状況は理解していた。
「協力……か。俺は回りくどい言い方は好きじゃあねえ、邪魔だから退け……と言いてえんなら、最初からそう言うべきだぜ」
ライオネルが荒っぽく告げると、シャルロットは目を見張り、代わりにセルゲイが身を乗り出した。
「ああ。お前はそう言うやつだったな。すまない。あとは俺達がやる。下がれ」
そこまで言われたらもうライオネルが言えることは一つのみである。
「ッチ。おい、ハマル! 後退しろ!」
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