EP1「美しき悪の街」④

ヴィア・ラッテアの伝統的で美しき街並みは世界に誇るべき煉瓦組みの家屋として精細に並んでいる。ある種の規則性、16世紀客観的写実主義ルネサンスを積み重ねて建てられた街並みが今まさに崩れ去ろうとしていた。


 巨人が吼える。


「逃げて!」

「こちらです! はやく!」


 白磁の巨人が腕を振るった。家屋が砕けて瓦礫が道へと降り注ぐ。巨人は雄々しき体躯で市街地に君臨している。屈強な肉体と凄まじい膂力、その姿はまさしく神話で語られる狩人オリオンそのものであった。


「急いで!」


 漆黒に赤き焔のラインが入った戦闘服に身を包む隊員たちが民間人を避難させていく。


「うおりゃああああああああああっ!!」


 そんな中、燃えるような髪色の男、春間多々良だけが巨人へ立ち向かっていた。刀を振りかぶり巨人の肉体を切り刻む。



「くっ、のわっ!? クソ……全然効いてねーっ……!」


 まじかよ、手が痺れやがる。岩を両断するぐれえの力で斬りつけたはずなのに。なんつー硬さだ!?


「くっ!」


 飛んできた巨人の拳を避ける為に地面を転がった。アストラによる巨大化。シンプルで厄介な能力っすね。体格差がありすぎて、まともに受けたらひとたまりもねえ。ったく、このハマルくんがよぉ、まるで刃が立たないなんざ、逆に燃えちまうじゃあねえか!


「おいおい、ハマル。あんまり前に出るんじゃあないぜ。お前がヤツの攻撃を避ければ避けるほど、建物に穴が開いていくんだからな」


 ライアンがそんな風にとがめるもんだから、思わず振り向いた。火のユニオンのリーダー様は俺より建物の心配っすか。


「んなこと言ってもよぉ、ライアン! 避けなきゃ死んじまうだろーがよぉ! どーしろってんだ!! って、ぐわっ!!」


 喋っていたら勢い良く蹴飛ばされた。視点が上下左右にシェイクされる。サッカーボールみてえに地面を弾みながら家屋に風穴をブチ開けて止まる。いや、ほんとすごいパワーっすね。


「ぐふっ……うぐ……いつつつつつ……うぅ……なんつー力だ、ヤローッ…!」


 どうやらどこも折れてなさそうで、ラッキー……って言ってる場合じゃねえ!?


「っ! っと、アブねっ!」

「おい、おめーら、敵の注意をハマルからそらせ」

「アイアイサー」

「ファイヤー、ファイヤー」

「オラッ、こっちだバケモノ!」


 仲間が銃火器でビートル・ジュースを牽制してるけど効果は薄そうっすね。


「ったく、タチが悪いな。おめーら、あんまり街を壊すんじゃあないぜ」


 おいおい、ライアン。あんたが俺たちのリーダーなのは分かってるけどよォ、その言い分は我慢できねえなぁ。冷静に考えりゃあ確かにその通りだけどよォ。


「ぐ……周りのこと考えながらとか、やりづれーっての。…………避けるなっつーんならよぉ、さっさとたたっ斬るしかねぇよなあ!」


「おい、よせハマル。アストラを使うんじゃあない!」


 ライアンが止めてくるけどもう知ったこっちゃねえ。こうなったらスピード勝負だ。


「来い《アリエス》!!」


 空間が歪んで炎を纏う影が現れる。影は俺の声に応じて次第に形を持っていき、羊の渦巻くアモン角を持った亜人の姿へと変貌を遂げた。こいつが《アリエス》。牡羊座のレコードを持つ俺の自慢のアストラだ。


「っしゃあ、ぶちのめすっ!!」


アストラ……それはアストロローグと呼ばれる異能力者達が呼び出す、未知のエネルギー体。俺が呼び出すアストラ《アリエス》は、灼熱の炎を生み出し、それを操ることができる……!


「行くぜーっ! どおりゃーっ!!」


 アリエスから空気が揺らぐくらいの強烈な熱波が迸る。火力を出すなら一瞬でこんがりと。そうすりゃあ、さっさとケリがつくだろーが。


 アリエスの放った炎を愛刀魄溶へ纏わせ八双に構える。アストラで生み出した炎を武器に纏わせて撃ち放つ。こいつが俺の必殺技ってなぁ! 技の名前はまだないぜえ!!


「あつ、あっつぅ! うわあああっ!」

「ぎゃあああっ、こっちまで引火してるーっ!」

「ハマルさん、それヤバイって!! 退避、退避ーっ!!」


 後ろから何か聞こえている気もするけど、すっとろいことは言ってられねーでしょうが!


「くらえっ! うおらああああっ!!」

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