2-5 浅はかな計画
「跳びネズミだと、昔1つの街を食い尽くしたと言われたアレか」
「知ってるの?」
兵に伝わっていた話なのに、軍役についていた事が有るのかな。
「その騒動時の話は魔法使いにも残っておる。魔法使いは記録魔だ、詳しい状況も残っている。跳びネズミがどうした」
「どうしたじゃ無いわよ、このままだったらここの青い鳥食べられちゃうの。死者の魂を運ぶ鳥が全滅したら、あなたもいやでしょ」
「そんな慌てる必要はない」
「どうしてよ」
「ビルバーが飛来するまではもう少し時間がある。それまでには跳びネズミはこの島から居なくなるだろうな」
魔法使いは冷静だ。
その言い方は私を安心させる何かがある。
「砂漠で生きている奴らは水が嫌いだ。雨で濡れようものならパニックになって死んでしまう。見えていても本島に渡る事は出来ない」
しまった、それ考えていなかった。
そうか泳いで渡って来てしまう可能性が有ったんだ。
泳ぎが下手で良かった。
「全滅した街は川に挟まれていて、海までの距離も無かった。戦いのため街の近くの橋は落とされていたのも幸いし、跳びネズミの封じ込めに成功した。この時、魔法使いが借り出され、結界で無事な橋を通さぬようにしたのだ」
その記録を読んで知っていたんだ。
「一気に増えた跳びネズミは、小さな川も越えられず閉じ込められた。そして食べ物が尽き共食いを初め全滅した。何も食べるモノのないこの岩礁では10日もいきのびられまい」
「海辺には餌になるようなモノがあるかも知れないじゃない」
「登ってきた道を削っておけ。魔法障壁は3.6mほどの高さしかない、それを飛び越えられないのだ、ネズミにこの岩を登ってくる力はない」
あの細い道も、跳びネズミになら十分な大きさだったと言う事か。
島の人に言っておけばいいわ、大事な島だもの多少不便になってもやってくれると思う。
「跳びネズミを心配する必要はない。だが、何故ここに跳びネズミが居るのかは大きな問題だ」
ん、どういう事?
「水が嫌いな跳びネズミが泳いできたわけではない」とヨンゼ。
いつの間にか1人の世界から戻ってきてた。
「そうだ。心当たりは?」
「何人かいますね」
「ならいい。可愛い御領主様を大事にしてくれ、大当たりだそうだからな」
そう言うと魔法使いは岩をおりていった。
魔法使いが去るとフギズナ達が目をさました。
うるさい、フギズナが喚き散らした。
どこへ行ったって私に聞かれても知らないわよ。
今度は聞いていないと、怒鳴られる。
「リイティア様に言っても仕方が無いことです。今はリイティア様がご無事だった事を喜びましょう」
フォンシータが間に入ってくれて、フギズナの怒号は止まった。
この日からフギズナがお酒を飲まなくなったのを、訓練がきつくなったというボヤキと一緒にフォンシータから後になって聞いた。
その後は昼は視察らしい事をし、夜はヨンゼと今後の相談をした。
一応ヨンゼが提案して、領主の私が了承するって形だけど、言われっぱなしだからモヤモヤした思いがある。
最初にヨンゼが言ってきたのは、領民の教育だ。
島に文字を読み書き出来る者がいなかった、これを各村に1人以上居るようにすべきだと。
代官を置くにしても、私の手紙を読める人数を増やしたほうがいい。
各村から1人選んで、雑用係として私の屋敷で働いてもらう。
むろん読み書きの勉強をしてもらうためだ。
全員村長の子か孫、リトハの子供は私と同じ歳だった。
「こっちは子供作るの早いんだな」とヨンゼ。
そうかな、普通だと思うけど。
跳びネズミの対策。
でも岩礁の道を削ってるから、基本何もする事はない。
見張りを細かく行うだけだ、最近は漁の帰りに青島を一周するのが決まりになっている。
「バスクスか、その仲間かな」
跳びネズミは海を泳いだりしない、誰かが持ち込んだのだ。
最初に思いついたのは、私の元執事。
「違うと思うな。バスクスが兵役についていたとは思えない。跳びネズミを知っていたとは考えづらい。そこは第三婦人も同じだ」
2人の間では第三婦人と呼ぶようになった、最初私を気遣ってヨンゼが使い始めたが、今では私も言っている。
本当の母でないという事実は早い時期に納得できていた、愛された記憶があまりない逆に求め応えてもらえなかった事ばかり思い出したせいだろう。
「じゃ誰があんな事」
「考えがない短絡的な行動だ、まともな大人がする事じゃない。なら子供のやった事だろう。全く知らない人間がやった可能性もあるが、一番可能性の有るのが1つ上の兄だな」
ランデュー兄様!
「なぜ?」
「彼はお披露目会で2回立て続けにやらかしている。フギズナやヤエリーさんが護衛に雇われているので公爵が真面目に取り上げているのが判る。かなりキツく叱られているはずだ」
「その”腹いせ”?
私関係ないじゃない。それって八つ当たりだよね」
「他に関係者で思いつくのがいないな。青島の鳥が貴重な現金収入源だなんて、公爵家以外じゃ知りようもないし」
私の近くに犯人がいるのは確実か。
「ただしこれは話が単純だった場合だ。ランデューはただ実行しただけで考えたのが別の場合は、可能性が一気に増える」
「ランデュー兄様に罪をなすりつける罠という事?」
「そうだ、公爵家の子の4枠の内2つが空く。名前も知らない弟や妹あるいはその取り巻きがやった可能性も出てくる」
「そんな簡単じゃないはずよ」
色んな手続きが必要なはずだ、公称子の枠全部を埋めていない貴族だっているのに。
「可能性は"ゼロ"じゃない」
ヨンゼの言っている事は判る、でも〜。
「実は黒幕がシナワイで、子供のケンカだったってオチもあり得るがな」
ん〜、悩んでいてもしかたがない。
私に悪意を持って策を使ってくるのがいる、そう思って行動するだけだわ。
最後に領地の特産品。
これで目立てば何か動きも有るだろう。
お姉様に言われてからズーッと考えていた、でも何もない。
「何も無い事は無いぞ」
ヨンゼは私と違う考えみたい。
「何が有るって思っているの」
「この島に来てリイティアが喜んだものだよ」
私が喜んだモノ?
ここに王都の流行りは来ていないし、何だろう。
「この島に来て一番喜んだのは食事だったんじゃないか。美味しいと言いながらいつも以上に食べてた」
「確かにここで食べたお魚は美味しかったけど、それが」
「王都で人が口にする魚は干物か泥臭い川魚、この島では新鮮でその上料理方も豊富だった」
「そうだけど、それがどうしたの。生の魚なんて王都に運ぶ間に腐ってしまうわ、なんで干し魚しかないか考えたの」
「氷を詰めて、魔馬車で運ぶのは可能だろう」
「何言い出すの、それだと少ししか運べないし、魔馬車はそんな理由で貸してはもらえないはいくら掛かると思っているの。そんな高価な料理誰が食べるのよ」
「公爵家のパーティーに並ぶには問題無いと思うが」
アレがテーブルに並んだら城内で評判になる、その価値はあるかも。
お父様に提案していい案だ。
「それに海で取れるモノと言っても腐る速さはバラバラだろ。氷が有ればもう少し運べるモノもあるんじゃないか」
「凍らせて運ぶつもり、魔法道具は有るけど、魚程度じゃ使えないわ」
「この近くに洞窟はないか。氷洞ならもっと嬉しいが」
「洞窟ってなに、管理迷宮でも作ろうというの」
「管理迷宮ってなんだ」
あきれた、管理迷宮も知らないの。
そうかヨンゼの世界には魔力が無いんだった。
「魔力の源は魔素。それは知ってるわよね」
「ああ」
「魔素は何処にでも有るけど、濃さにムラが出来る。濃い魔素はより多くの魔素を集めるの。有る一定の濃さになった魔素は行き場を求め迷宮を作りますます魔素を濃くしてゆく」
「この世界の迷宮はそうやって出来るものなのか」
「常識よ。人が多く済む場所も魔素が集まるの、だから街には迷宮が有るのよ」
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