2-4 魔法の杖
「まて魔法使い。お前の怒りは、オレのためか、それなら勘違いだ」
左手が前に上がり、魔法使いを止めようとしてた。
「勘違いだと」
「その言い方だと、オレが何かが判っているのだろうが。リイティアのような子供に出来ると思っているのか」
魔法使いが構えをといた、話を聞いてくれる気になってくれたようだ。
「その子自身が出来なくとも、命じる事はできるじゃろう」
「この子が望んだのは動かなくなった腕を治す事だ。オレを閉じ込める気は無かった、そうだよなリイティア?」
名前を呼ばれて、固く口を結んでいたのに気づいた。
怖くて、体が固まっていたんだ。
「うん」
何とか声が出た。
そのおかげて緊張が少し和らいだらしい、持っている剣の震えが止まった。
「オレの意思に関係なく呼び出されたが、呼び出されなければ、オレは死んでいた。逆に言えば、オレは救われたんだ」
「嘘は言っておらんな」と魔法使い。
「左手に閉じ込められた怒りは無いのか」
「不満は有るが、怒りはない。たまたまこうなっただけだからな。それに、オレはこっちの世界の事情を何もしらない、いきなり放り出されるより身分のある人間に寄生したほうが楽だね」
「体を与えるのは、余計なお世話か?」
「どの体だ、お前の使っている体をオレにくれるつもりか。その体、お前のものじゃないだろう。その若さと術のレベルや口調が合わない」
「そうだ、この体は弟子のものだ。ワシが死ぬ直前に『師匠の術は、人々のために、まだまだ必要です』とぬかしおってな。こんな事が出来るようになっていたとは気づかなかったコイツは天才じゃった。ワシは、足元にも及ばん。あのまま生きておれば、ワシの歳には世界に知らぬものがいない魔法使いになっていただろうに、バカモノが」
「お前も望んでそうなった訳ではないんだ」
「当たり前だ。人は年老いて死ぬ、それが自然だ。魔法とは自然の一部、その道理から外れるような、モノは魔法使いには向かん」
「最初にそれを弟子に教えるんだったな」
「生きている間は弟子とは思っていなかったからな。身の回りの事をさせるつもりで買った奴隷だった」
「奴隷居るのかよ…」とヨンゼがボソリ。
私にしか聞こえない、小さな声だ。
「最初は便利な道具としか思っていなかった。楽をしようと物事を教えるとすぐに理解した。1を言えば10を知る、まさにそんな感じじゃった。ワシは面白くなって魔法も教えたよ」
「教えがいが有るっていいものだからな。オレにも似た経験がある」
今一瞬目が開いて、私見たよね。なんで!
「そのうちにワシにも欲が出てきた。全てを教え、ワシが死んでも術が残るように…
その前に、コイツを奴隷から開放する事にも気づかずにな!」
魔法使いの最後の言葉に、彼の後悔が有る。
「だから、その弟子の生まれたこの島にきたの?」
もう魔法使いは怖くない。
逆に可愛そうに見える。
「コイツがしたかった事をしているにすぎん。両親の墓参りにきた。住民を助けたのはついでだ」
「墓参り?」
「青島は、海で死んで遺体が無い者の魂が、ビルバーに乗り戻る場所だ。だから島の者に、神聖な場所とされている」
ここは墓所。
「母親は、コイツを生んですぐに海に身を投げた」
そう言って、視線をヨンゼから私に変えた。
「コイツは、前領主の子だったらしい。この島の領主は代々公爵家の者がなっているんだろう」
「そうよ」
記録には残っていた、でも今、彼は公爵家にいない。
この島を維持できなくて、何処かに行ってしまった。
私も失敗すればそうなるのだ。
「なるほど公爵家の血が入っていたから、その若者は魔法が使えたのか」
彼を若者って言うヨンゼって、いくつなの。
「この島に来て知った。島の領主は代々ロクな者がいない。今回の領主が、そうでなければいいと願うだけだ」
「期待していいわ」
そう言い返すのがやっと。
今は自信が無いけど、いずれ胸を張って言えるようになるわ。
「そのろくでもない領主が領民の女性に手を出し、女性は生んだ子を見るのが辛くなって、と言うところか」
「よく判ったな」と魔法使い。
ほんと、ヨンゼ気がつくよね。
「それでも父は残された子に愛を注ぎ、育てた。その子も、父を大切に思う優しい人に育った。父が病になり、その治療費のために、自らを売るほどにな」
チィ!
ヨンゼが舌打ちた。
それで彼が奴隷になったのか。
「彼の犠牲により病は治ったが、今度が父が彼を取り戻すため、無理をした。そして荒れた海に出て、帰らぬ者になった。
パルクファールはこの世に執着が無くなっていた。ワシも縁者はいない、同じだ、あんなバカな事をする理由にはならない」
誰も悪く無いのに、何でこんな事になってるのよ!
あ、いた。
「そのろくでもない元領主、見つけたら思いっきりぶん殴る。私の分と公爵家の名前を汚した分。それとアンタとその体の…」
「パルクファールだ名を覚えてやってくれ」
「そうパルクファールさんの分とお母さん、お父さんの分も」
「オレの分も頼む」とヨンゼ。
「判ったヨンゼの分も含めて7発」
興奮して指を折って数えてたわ。
「今度の領主は当たりかもしれんな」と魔法使い。
当たりよ、大当たりにしてやるわ。
「アンタは、これからどうするんだ」とヨンゼ。
魔法使いに今後の事を聞いてる、何でだろう。
「ワシか、何も思いつかんな。そういう右手はどうするんだ」
聞き返されてるし。
「オレか、オレは基本何もしない。宿主と一緒に居るだけで面白いからな」
え、面白いの。
「オレは、別の世界からきた。新しい体験の連続だ、楽しまなきゃ損だ。そのつもりで前の名前も捨てたしな」
「名前を捨てた?」
「名乗っても誰も知らない、意味のない音でしか無い」
「そうか、それは良いな、ワシもそうしよう」
魔法使いも名前を捨てるって事?
「見ていろ、パルクファールお前の名前を後世に残してやる。簡単には、殺さぬぞ」
「それ悪い人のセリフ」思わず、ツッコんじゃった。
一瞬、間があって、3人、笑い出した。
特に今のがおかしいわけじゃないけど。
「お前達に会えてよかった、この出会いはパルクファールがくれたものだろう。お嬢さんには脅かした詫びをしたい、何がいい?」
「私の名前はリイティアよ」
「オレはヨンゼ」ちゃっかり割り込んできた。
何がいいかな。
「相手は上級魔法使いだ」とヨンゼ。
「そうだ、私、魔法上手く使えないの。どうやったら、うまくなるの」
「上手くなるには修練しか無いが。一度見せてくれぬか」
そう言われたので、いつもの火炎系の魔法を使って見せた。
「なるほどな」と言って右手を触ってきた。
撫でたり、ジロジロ見たり、ちょっと遠慮無いの。
「ヨンゼと言ったか、お前の魔力が邪魔で、その子の魔力が触媒まで届いていない」
やっぱりヨンゼが邪魔してたの。
「オレのせいなのか。そもそも、オレの魔力ってなんだよ、オレの世界には魔法なんて無かったんだぞ。オレに魔力があるわけ無いだろう」
「自覚が無いのか。お前の魔力はこの子の数十倍は有るぞ」
「「え」」
また、ズル!
「魔法が使えないのに、その魔力無駄よ、私に頂戴」
「無茶言うな、オレに魔力が有るの、今知ったんだぞ」
「おぬし、そんなに魔力が有るのに魔法が使えないのか」
「何度も言っているが、オレの世界には魔法が無かっただからオレに魔力が有るなんて考えた事もない」
「お前に膨大な魔力が有るのは事実だ、ワシには感じられる。しかし、魔法の無い世界か、それなら魔法が使えぬという話も信じられる、呪文と言う概念も理解するのは難しいのだな」
「ところが、オレの世界には魔法が無いのに、呪文はくさるほど有ったぞ」
「それ、おかしくない?」
ヨンゼの言ってることがおかしい。
「あ、そうか、あれなら、翻訳されないかも…」
ヨンゼブツブツと独り言を初め、1人の世界に入ってしまった。
「ヨンゼはほっといて、私の魔法よ。結局、どうすればいいの」
「左手で魔法の杖を持てばいい」
「それだけ?」
「それだけじゃ」
「待って、それはダメ。だって、剣も左で持ってるのよ」
「魔法を使うなら、剣は要らないだろうに」
「ダメ剣も使うの。魔法もよ」
魔法使い私を面白そうに見てる。
しまったこれじゃ駄々っ子じゃない、もう子供じゃ無いのに。
「困りましたね」
魔法使い困ってない、笑ってる。
「ならこれを」
そう言って、自分の杖から青い石を外した。
「ブルーサファイアだ。リイティアは水系の魔法と相性がいい、これをあげよう。その剣につけるといい、杖の代りになる」
「相性?」
「師に言われなかったのか。魔法には系統がある、最初は相性のいい魔法を使うべきだ」
アイツそんな事一言も言ってないは、いや知らなかったんだ。
自分の使える、炎系の魔法ばかり私にさせようとしてた。
やっぱりあんなの師匠じゃない、もう顔も思い出せないからいいけど。
「パルクファール様に師事し、魔法を修練する事を誓います」
本で読んだ弟子の誓いをした、物語の中の話だったから、大げさかもしれないけど。
あれ、魔法使いが固まった、まずかった?
「リイティアをパルクファールの最初の弟子と認める。技を鍛えよ、術を覚えよ、その心に曇りを作るな。師パルクファールの名を広めよ」
空を見上げ、魔法使いが大声を上げた。
泣いてたけど、そこは見なかったふりしてあげる。
でも、今横切った跳びネズミは無視できない。
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