2-3 聖なる地・青島

「俺達に隠している事が有るよな?」


 フギズナが凄むと。


 リトハが慌てて

「隠していただんてとんでもない。秘密でも何もない、魔法使いがいたんだ」


「魔法使がいただと、そいつは随分と腕がいいようだな。雇うには金が必要だ、お前達に雇えるとは思えないが」


「雇ったんじゃない。パルクファールはこの島の生まれだ、俺とも幼馴染でガキの頃は良く遊んでいた。10年以上前に島を出ていったが、3日前ひょっこり帰って来たんだ」


 リトハの幼馴染ならまだ30代のハズだ。


 それが、何十人もの兵を無傷で捕らえたと言うの?

 凄いじゃない。


「来たのが、俺達が執政官の命令に我慢出来ず蜂起しようとしてた頃だったんだ。俺達が困っているのを知って、手伝ってくれたのさ」


「そいつは、どうしてここにいない?」


「元々島に用事が有って戻って来たらしく、そっちに行った。どこに行ったかは知らない」


「ふ〜ん。その魔法使いがいれば、俺達にも勝てたと思うが。やろうとは思わなかったのが」


 いなくてよかったじゃない、フギズナ何でそんな不機嫌なの。


「御領主様と対峙するか話し合った時、パルクファールが現状を訴えてみろと止めたんだ。

 領主様はバカじゃない、話せば判るだろうって」


「何でそんな事言ったんだ?」


 私がバカじゃないのは合ってるけど、話せる相手ってどうして思われたんだろう。


「この屋敷で元執政官の悪事の証拠を調べてから言い出したんです。何でそう考えたのか解りません」


「手紙かな?

 イモの手紙はそのまま届いていたようだ、金関係以外はリイティアのモノをそのまま送ってたみたいだ。それを選別してリイティアの性格を推測したんじゃないかな」とヨンゼ


 それ、文字が読めるだけじゃ出来ないよね。

 頭も凄くいいんだ。


「その魔法使い凄腕だったんだな、一度やってみたかったよ」とフギズナ


 やっぱりそんな事考えてたんだ。

 フォンシータと目が合うとお互い"仕方がないな"って顔になってた。

 ケリは知らん顔、彼って読めないんだよね。



 その後はなんとなく、この島をどうするのかって話になっていった。

 島の村長全員が居たので都合も良かったからだ。


「御領主様が新しく定めてくださった金額であれば、年内に税を収めるのは可能です」

 と言うリトハに1人の女性が手を上げた。


 さっき、ルゴ村の村長ミバリラと紹介された人だ。


「リトハそれは難しいかも。総統府に乗り込む事で頭が一杯で話て無かったのだけど、今青島が大変なの」


「青島に何があった!」他の村長が怪訝な声を上げた。


「私にも判るように説明して」


 青島がどこかも知らないの、そんなまま話を進めないで。


 取り残されちゃうじゃない、と焦って大きな声が出てしまった。

 私の剣幕に驚いた、村長達が説明を初めた。


「ルゴ村の少し離れた所に、青島と呼ばれる小島があります。泳いでも行ける距離です。

 そこは霊鳥ビルバーの繁殖地になっています。島では青島は神聖な場所とされていて、ビルバーがいる間は立ち入りが固く禁じられています」


「ビルバーは相手を見つける時、オスが綺麗な青い羽に変わるのです。その羽根は雛が生まれれば抜け落ちます。

 俺達は、ビルバーが飛び去ったあとに島に渡り、落ちている羽を先祖からの恵みとして集めています。

 装飾用に高値で買い取ってもらえるので、島の貴重な現金収入だったのです」


「最近その青島で、跳びネズミを目撃したと報告があるのです」とミバリラ。


「跳びネズミだと、本当か?」


 跳びネズミを私は知らなかったが、フギズナが知っていた。

 他の村長達も知らなかったようだ。


「ルゴ村には兵役を経験した老人がいて、砂漠に行った事が有ったんです」


「なるほどな」


「フギズナと元兵隊が知ってるなんて、そいつ物騒な生き物なの。跳びネズミだなんて言いながら、人の何倍も大きな魔物だったりする?」


「いや魔物じゃない。大きさも手の平に乗るくらいだ。ただなんでも食うし増えるんで厄介なんだよ」


「厄介?」


「跳びネズミは雑食性、何でも食べ餌が有ればすぐに数を増やす。東の乾燥地帯の岩場が本来の生息地だ、そこは餌が限られているんで数はそこまで増えない」


「餌が有るとどうなるんです」とリトハが私の代りに聞いてくれた。


「今は無い国だが、昔その国の将軍が兵糧攻めの手段として敵の街に解き放った事がある。結果は悲惨なものだ。食料どころか増えすぎた跳びネズミは街の住人も襲ったのさ。両軍全滅に近かったと言われている」


「なにそれ」


「それ以降、戦争に魔物や他の生き物を兵器としてつかうのは禁じられている。これに署名していない不食同盟の国は無いぞ。

 兵が砂漠で跳びネズミを見つけるたびに、繰り返し教えられる話だ」


 だから元兵の老人が知ってたんだ。


「彼は今村で青島の管理をしています。跳びネズミを見たと言う連絡と共に、その恐ろしさも教えてくれました。

 今ビルバーが飛来すると、跳びネズミに食べつくされてしまう」


「「何だって」」


 事の重大さが判った。


「青島の恵みが無くなってしまう、それじゃ税なんてとても払えない」とリトハ。


「税なんてどうでもいい。ビルバーが食われちまうんだぞ、何とかしなきゃ」

「島総出でそのネズミを駆逐しなちゃならん」


 年寄りのほうが熱くなっている。

『税なんて』と聞き捨て出来ない事言ったけど、そこ注意できる雰囲気無いよ。


「霊鳥と神聖な場所だ。リイティアがかなう相手じゃない」

 と言うヨンゼの忠告に従がい黙っていた。



 ビルバーが来るまでまだ時間があるので、まずは私が現状を把握する事になった。

 ホントはフギズナ達に期待してるようだったけど、悔しいからそこは気づかないふりをした。


 島の船で、青島に移動した。

 漕手が10人もいる島で一番早い船、だから漕手以外の乗員は、私とフギズナ達とミバリラの5人。


 青島は、ラフトリア島の北からほんの少し離れた場所にある小さな島。

 小島と言うよりは、高い絶壁の岩礁だった。

 青島と聞いていたからか、青い色を想像してたけど全然青くはない。


 絶壁を登るために螺旋状の細い道が岩肌に続いている。

 その道にそって、掴めるように鎖も打ち付けてあった。


 風が強い、スカートを履いてこなくてよかった。

 ここ領主が来るとこじゃないよね。


「リイティアはここに残ってていいぞ」って言うフギズナにムキになってしまった。


 何とか頂上につくと、そこは平らな広い場所だった。

 鳥の糞以外何もない。


 彼は私達より先に来ていて、私達が来た事に気づいていた。

 気配を完全に消していた、フギズナも彼に気づか無かったもの。

 そして全員が登り切った所で襲ってきたのだ。


 私とフギズナを除く3人がバタリと倒れてしまった。

 前のフギズナは何かを耐えているよう。


「いきなりなご挨拶だな」

 前方に立つ人へだ。


 着ている物からすると魔法使い。

 多分話に出ていた魔法使いだ。


「うっりゃー!」


 フギズナが一気に間合いをつめて迫る。


 魔法使いは応戦のため魔法を唱える。

 炎の魔法じゃない、ふわふわと浮いている水の泡にフギズナが体当たりしている。


 振り上げた剣が魔法使いに当たると思った瞬間、フギズナの動きが止まった。


 魔法使いがゆっくりと近寄ってくる。

 私は剣を抜いて身構える。


 この魔法使いに私の魔法が通じるはずがない。

 フギズナも敗れてるんだから、この剣でどうにかなるものじゃない。

 後は、見たことのないはずの私の剣筋にかける。


 魔法使いは少し離れた所に止まり杖を構えた。

 遠い、もう少し近寄って。


「貴様は何ということをしているのだ。人を何だと思っている」


 魔法使い怒っている!

 私何かしたの。


「人の魂を腕に封じ込めるなど、何を考えているのだ」


 え!

 ヨンゼの事?


「人は自由であらねばならぬ。たとえ奴隷の身であっても魂は自由だ。それを貴様は。

 やはり貴族と言うのはそんなやつばかりか。貴様が送ったと思われた手紙には領民を思う心が有ったと思ったが、勘違いじゃったか」


 魔法使いは杖で地面を突き呪文を発した。

 何をしたのかすぐに判った。

 足が地面から離れない、動けなくしたんだ。


「その魂を開放してやろう。この身はワシには重すぎる、くれてやる。良く使えよ」


「待て魔法使い」


 左手が上がって、ヨンゼが魔法使いを止めようとしている。

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