2-2 蜂起、打倒、私?

 ラフトリア島へはお姉様よりお借りした小さな船で渡る。

 船乗りも2人お借りした。

 1人は風を操る魔法使いで帆を操作、もう1人は魔法使いの指示で舵を操作していた。


「もうすぐ着きます。

 ご準備を」


 桟橋が見えて、浜には大勢の人がいる。


 でも

「ありゃ、歓迎って感じゃねえな」とフギズナ


 剣の柄に手を乗せた。

 ケリとフォンシータも身構える。


 浜にいる領民なんとなく殺気だってる、だって何かを手にした者が見えるんですもの。

 それに人々の前に、ぐるぐる巻に縛られた人が転がっている。


「見た感じだと、圧政に苦しむ領民が蜂起したってとこだな」


 ヨンゼが嫌な予言をわざわざ言う。

 やめてよそんな事言うの、そう見えてきちゃたじゃない。


「どうするリイティア、戻るか」


「待って、それだと何の解決にもならない」


 もう何も知らないままなのは嫌。

 私はこの島の領主なのだから。


「話を聞きたいんだけど」


「大丈夫じゃないか。

 見たところ奴らが手にしてるのは農具や漁具だ、まともな武器を持ってるのはいない。

 それに平民だ、戦いになれて無い。

 数人もぶった切れば怖くなってにげだすさ」


 フギズナが物騒な事を言いだした。


「殺すのはダメ」


「血は嫌いか、リイティアらしいな。

 数人ぶっ叩いて、それでも向かって来るなら剣を抜く。

 それ以上は無理だ」


 船が桟橋に付くと同時に3人が駆け出した。


「逃げる準備をしてください」と風使いに言って後に続いた。


 でも、数歩進んですぐに止まった。

 フギズナも走っていない。


 振り向いて「俺達と戦う気は無いようだ」


 見ればもう数人逃げ出しているし、残った者達は手を握り合っていた。

 怖くて逃げ出したいのを我慢して立っている、って感じ。


「私はラフトリア島の領主リイティア。

 これは何の騒ぎなのですか」


 私はフギズナを追い越して大きな声を出してみた。


 襲ってくる感じはしない。

 でも集まっているには理由が有るはずだ。


「この騒ぎの責任者は誰なのですか」


 ザワザワとして視線が前にいる1人の老人に集まってゆく。


 その老人が一歩進んで

「私は、このブトン村の村長をしておりますトニと申します。

 貴方様が新しいご領主さまでしょうか」


「そうよ私はジュアンソン・シュサレア公爵の四子リイティア・シュサレア。

 この島をお父様にいただいたわ」


 人混みの奥から、'こんな幼いのか'とか'勝手にやり取りするな''俺たちは家畜じゃねえ'と聞こえてくる。

 言いたい事が有るのなら前に出てきてハッキリ言いなさいよ。


 彼らはフギズナの「はぁ〜ん」で黙った。


「ここには島にある4つの村の男衆が集まっています。

 領主様にお願いが有り、島の総意をお伝えするために集まっていました」とトニ。


「お願いと言う割には物騒な事をしてるじゃねえか」


 フギズナは剣を抜いていた。

 その剣先で縛られ転がっている男を指す。


 相当殴られたらしく顔が歪んている。


 ヒーッ。

 剣を見てトニが転んだ、腰が抜けたようだ。

 臆病にも程がある、よくこんな事をしようと思ったものだ、


「いつまで、リイティアお嬢様をこのような場所に立たせておくのです。

 話を聞いて欲しければ、それなりの礼儀を示しなさい。

 お嬢様の休まれるにふさわしい場所はこの島には無いのですか」


 今度はエルマが大きな声を出す。

 これで力関係が決まった、私の領主としての立場はそのままでいいみたい。


 人がぞろぞろと分かれ道を示した。


 倒れたトニを介抱していた青年が

「向こうに総統府の屋敷がございます。

 この島でまともな建物と言えばそこしかございません」


 行ってみると

 総統府の屋敷は豪華だった。

 だけど中の粧飾品は無残に散らかっていた。


 トニを介抱していた青年が

「俺はトニの孫、リトハ。

 じいさまが倒れたんで、俺がお話させていただきます」


「お前が実質の村長か。

 責任を年寄りに押し付けたな」とフギズナ。


「俺はいいって言ったんだよ。

 それをみんなが ……

 その騎士が言ったように、今は俺が村を束ねてる。

 責任は俺がとる、だからみんなには」


「まず何が有ったかを話して。

 誰に責任が有るのかは、その後よ」


 覚悟したのかリトハが話し始めた。


「どの村も限界だったんだ。

 これ以上、俺達に何を差し出せと言われるのですか」


 彼が言っている事が理解できない。

 フギズナを見た。


「税か?」フギズナには判ったんだ。


 税?


「はい。

 それと新たな課役です。

 島の少ない畑全てでイモを育てろだなんて、俺らに飯を食うなといっているようなものです。

 お願いですこれ以上、俺達を苦しめるような事はヤメてください」


 リトハは土下座した。


 イモ?

 .

 .

 .


「今、この島の税は安いはずだけど」


「は?」リトハの間の抜けた声


「それに、全部の畑でイモを作れだなんて誰が言っているの。

 この島でサツマイモを作っていた記録が有ったから、試して欲しい事を依頼はしたけど」


 リトハと私は、お互いを不思議なもののように見た。


「その命令だれが出したんだ」とフギズナ。


「ご領主様では?

 そう言われましたが」


「誰にだ」


「執政官様です。

 5日前いきなり全ての村に伝えて来たんですが。

 それでこれ以上は無理と、こんな事に」


「なるほどな。

 リイティアと領民の間にいるやつが、色々やってたみたいだな」


 ここでもなの、執政官なんて知らないわよ。


「私の代りに領地を管理するのは領主代行じゃないの。

 お姉様の所はそうだったわよ」


「普通そうだな。

 総統府や執政官ってのは、王が任命する。

 それも新しい国土が出来て、正式な領主が決まるまでの暫定的な機関だったと思ったがな。

 この島は王のものだったか」


「そんなはずないじゃない。

 その執政官って誰よ、連れて来て」


「さっき縛っていた男がそうです」とリトハ。

「いま連れてきます」後ろにいた男が走った。



 連れて来られた男はもうぐるぐる巻では無くなっていたが、両手は後ろで結ばれていた。


 彼は部屋へ入った瞬間に

「助けてください、コイツらは国に逆らう暴徒どもです」


 フギズナに助けを求め走り出した。


 紐が結んで有るんだよ。

 ほら、転んだ。


 コイツ頭良くない、私の中でそう決まった。

 それに、助けを求めるならフギズナじゃなく私だろう。


「お前は誰だ」


 見た記憶が無い。


「お前こそ誰だ。

 私はご領主様とお話ししている。

 子供がシャシャリ出てくるな」


「俺が領主に見えるか、目は良いみたいだな。

 リイティアは、もっと威厳とかを付けないとダメだな」


「リイティア様は10才ですよ。

 威厳なんてあったら、可愛げなさすぎます」


 フォンシータが微妙なフォローを入れてくれる。


「え、このガ…、いえ、お嬢様がご領主様?」


「お前は自分が誰に仕えているのか知らなかったのか」


 呆れた、誰どころかどんな人かも知らなかったんだ。

 この場に女の子なんて私以外にいないわ。


「そもそも、私はお前にこの島を頼んだ覚えはないですが」


「そんな、任命書はいただいております」


「知らない」


「そうだ、バスクス様にご確認ください。

 彼が私の身分を証明してくださるはずです」


 またバスクスか。


「なんでバスクスなの」


「彼を通してご領主様の元へ多くの贈り物が届いていると思います。

 それは今までさんざん私がお…」


 私の顔色を見て説明が止まった。


「お手元には…」


「知らないわ、そんな話。

 それにバスクスは横領がバレてクビになったわ」


「なんですって!」


 コイツが島から集めたお金は、バスクスの懐に入っていたのか。


「今島の税は、村から人数に応じた領民税だけのハズよ。

 それも国法で決められている最低限のはずだけど。

 それ以外の税を認めた覚えはないわ」


 元執政官の顔が青い。

 コイツも騙されていたみたいだけど、バスクスと同類よ同情はしない。


「サツマイモでの実験を頼んだのはかなり前だったはよね。

 なんで5日前にそれも全部の畑に植えろだなんて、言い出したの」


「それは…」


「お前がくる事になって慌てたんだろう。

 何を頼んでたか知らないが、遅くなったんで量でやってる感だそうとしたのさ」


 バカじゃないの。

 もう専売権がお兄様のモノになっている、何をしても手遅れよ。


「彼らをどうしようかしら」


 彼はこの世界のルールは知らないんだけど。

 耳飾り触わちゃった。


「元執政官をどうするかと言うより、この島との関係をどうするか考えたほうがいい。

 元執政官のせいだったとしても、リイティアに悪い感情を持っている領民もいるだろう。

 彼らとの関係を改善するために元執政官を使う。


 苦しめたられた者達に、罰してもらうのはどうだ。

 死刑と逃亡を禁じて、島に渡したらいい。

 リイティアと元執政官が関係無い事を判ってもらえるし、領民の怒りを鎮めるにも役だつ。


 自分達がされた事に応じて、元執政官達を罰してもらうのさ」


 ヨンゼの案、採用。


「総統府だなんて、私の知らないものにいた者たちは全員捕縛。

 島の人に預けるわ、それぞれの罪に応じて島のために使う事。

 ただし、殺しちゃダメよ。

 あと逃げ出さないように厳重に見張るように」


「「えー」」


 リトハと元執政官が同じ声を上げた、表情は全く逆だったけど。




「お前たちに聞きたい事がある」


 元執政官の件が片付いた所で、フギズナが話しに入ってきた。


「この屋敷荒れちゃいるが、争った跡がない。

 この惨状は、お前たちが腹いせに暴れた結果だろう」


「そいつは別に構わん。

 よな」と私を向く


 壊された物は勿体無いとは思うけど、元々有ったのも知らなかったのだし。


「今回はね。

 特別よ」


 領民に安堵する雰囲気が広がった。


「争わなかったなんてのはありえない。

 警護だって2〜30人はいたはずだ、お前達に死人が出てておかしくない。

 それなのに、お前らには怪我を負っているやつも見当たらない。

 捕まった奴らにも顔以外に傷がない。

 どうやった?」


 たしかにそうだ。

 目の前でビクビクしているこの領民達が、このお屋敷を制圧しただなんて考えられない。


「俺達に隠している事が有るよな?」

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