1-10 暗転 前編

 ヨンゼが

「おかしいぞ」

 と言い始めた。


 きっかけは、エドマイア姉様のお誘いだった。


 お姉様が学園に入学る前に、自分の領地を見に行く。

 その時に、私に一緒に来ないかとお誘いを受けたのだ。

 私の領地ラフトリア島はお姉様のキューレエスの沖にある、見えるほどの距離だった。


 私も一度見ておかないといけないなと思っていたので、お誘いを受けた。


 もう魔馬車を借りているので、それに乗せてもらえる。

 お父様のお持ち物で、鋼鉄でできた馬が宙に浮かぶ客車を引く魔法具。

 早いし乗り心地は最高と聞く。

 今まで乗ったことはない、4人しか乗れないので私の席はないからだ。


 キューレエスへ普通の馬車で行けば3日かかるが、魔馬車なら1日で着く。

 港街を堪能して自分の島へ渡る予定だ。


 その魔馬車の借受書。

 代筆士がサインをしようとしていたのを、ヨンゼが見つけ取り上げた。


 私は文字が読めないから、すべて彼女にまかせていた。


「お嬢様、いたずらはおやめください」


「いままでのお金に関する書類を、すべて持ってきなさい」


「何をいわれているのですか」


「私の指示に従わないの、クビにするわよ。

 すべての借受書や明細など、お金の支払いに関する全てのものよ。

 早く持ってきなさい」


 大きな声で怒鳴れとの指示つきだった。


「私が怒っているように思われたわよ」


「その方がいい。

 これは明らかにおかしいぞ」と残っていたパピルスを見ている。


 バスクスが飛んできた。


「どうしたのですお嬢様。

 突然訳の分からないを言い出すなど」


「バスクスは呼んでいない。

 書類を持ってきてと言ったのよ」


「館の管理に関しては私バ...」

「何度も言わせないで」


 低い声で、いかにも怒っている感を出して言ったら、全員逃げるように出ていった。


「フギズナを呼んで」


「はい、お嬢様」


 良かった、エルマがいた。


 すぐにきたフギズナは、室内の雰囲気を感じて


「お呼びがかかったが、どっか行くて感じじゃないな」


「護衛をお願いします。

 あの2人も一緒に」


 今フギズナの部屋には、雇うのをバスクスに反対された2人がいる。

 ケリとフォンシータはフギズナが雇っているかたちだ。

 でも'いずれちゃんと私が雇う'と約束をしているわ。


 フギズナはすぐに2人を連れて戻ってきた、3人とも帯刀して。


 メイド達が書類を山程持ってきた。

 それを左手が素早く分類する、何を基準にさばいているのだろう。


「ひでーなーこりゃ、やりたい放題だ。

 まともなヤツならもっと上手くやるぞ」とヨンゼ。


「何が判ったの」


「だまされている。

 バスクスを呼べ」


 ヨンゼが怒ってる。


 バスクスは、今は手が離せないと返事してきたがそれは許さない。


「このような時に何の御用デッ…

 何だお前達は、何故ここにいる。

 しかも武装してだと、何を考えていいるのだ部屋に戻りなさい」


 部屋に入ってきたバスクスは帯刀している3人を見て驚いている。


「彼らは私の護衛だ。

 その意味は、判るよね」


 そう言うと私は椅子を反転し、壁を向いた。

 全員に背を見てている状態だ。


 伝言が面倒くさくなったのでヨンゼが直接話せる状態にした。

 ヨンゼは私の声真似が上手い、私が話していると思うだろう。


「何のことでしょうか」


 バスクスの声は少し震えている。


「弟のお披露目会用に作ったドレス。

 仕立て屋が金絹で作った場合として言っていた金額より、2倍もするのは何故です。

 私は金絹より赤絹の淡い赤が好きだからと、変更して作ったはずですよね。

 赤絹は金絹の半値以下のはず、何故それが金絹の倍もしているのです」


「そのような事でしたか。

 あんな下賤の者の言うことを信じますとは、お嬢様は判っていらしゃらない。

 彼女は商人なのですよ、売る前には安くいざ売る時になって値段をあげるなど普通じゃないですか」


 あのドレス、そんなに高かったの。


「そうですか。


 では同じ時に購入した首飾り。

 チェーン部分はプラチナ。

 使われている宝石は中央に3.7カラットのダイヤが1つ。

 1.1カラットのルビーが2つと、0.6カラットのダイヤが4つ使われている。

 この明細にはそう書かれているわ。

 エルマあの首飾をバスクスに見せて上げて」


 エルマはバスクスの前で、首飾りを広げた。


「中央のダイヤ、3.7カラットあると思う?」


「どうなのでしょう、私は宝石には疎いので。

 有るのではないのですか」


「1.1カラットで220ミリグラムなんですよ。

 そのダイヤ、どう見ても500ミリグラムなんてないわ」


「お嬢様。

 どうしてダイヤの重さなどを知っておいでなのです。

 私は全く知りませんでした」


「今そんな事は関係ないでしょ。

 それにダイヤの数も合っていない、全部で3つしか無いもの。

 それに、ネックレスの素材は銀よね」


「本当でございますか。

 私には、プラチナと銀の区別は付きません」


「困ったわね、当家の執事は白金貨と銀貨の区別もつかないの。

 それでは贋金が有っても気づけないわ、金庫番は別に雇わなくちゃ」


「お待ち下さい、お嬢様。

 これは宝石商にはめたれたのです。

 直ちに厳しく処罰をいたします」


「王室御用達の彼らがどうして公爵家を欺くの、利は全くなないわ。

 こんなすぐにバレてしまうような事するはずがない。


 それに、あの店は王室と関係が深い、バスクスが彼らを罰っせれるの?」


 する気が無い、全て今口からでまかせを言っているに過ぎない。

 もう私にも判った、バスクスは私をバカにしている。

 そうでなければこんな事はしない。


「今までに支払った馬車の借用費用。

 支払い先はすべてお母様の館からだけど、いつ借りたのかしら。

 私がここに来て、馬車を使ったのはそんなに多くない、数えられるわ。


 ほとんどがお父様に呼ばれ、お屋敷へ行ったもの。

 お茶のお誘いが有ってお姉様の所にも数回。

 どちらもご招待されての事だから、全てお迎えの馬車がきていたわ。

 なぜその時まで馬車を借りているのかしら」


 バスクスは黙って聞いている。


「それに、借りるのにかかった全てのお金は、購入する金額より高くなってしまう。

 これなら買ったほうがまし。

 馬車を購入してと言った時に、値段が高いと反対した理由はどうしたのかしら」


 音がしたので、横を向くとフギズナが見えた。

 彼はこの状況を楽しんでいるようだ。


「それにフギズナたちが使っている部屋。

 使用料として支払いがあるけど、誰が誰に対して支払っているの」


 何それ?


「家庭教師の先生がたえの謝礼。

 ご出身の家の格が元になっているようだけど。


 リンの先生は士爵、魔法の先生は侯爵家、でも同じ金額が支払われている。

 演奏の先生は私がお願いした、でもその時言われた金額はこの30分の1だわ」


「お嬢様は文字がお読めになるのですか。

 なぜこのような卑怯な真似をなさいます」


「私が文字を読めるとなぜ卑怯なの」


 卑怯なのはお前だ。

 怒りで声が出そうなのを必死に抑えている。


「最後、この魔馬車の借用。

 請求額が書かれているけど、お父様に馬車を借りるのに本当にお金がかかるの?


 かかるにしても、魔馬車を借りたのはお姉様。

 借りる事が決まった後に、私はお誘いを受けたのよ。

 お姉様が、お金私を出してとお願いされたのかしら。


 私は聞いてない、お姉様に聞いてみましょうか」


 右手が椅子を回した。

 終わりらしい、やっとバスクスが見れる、どんな顔をしているのか。


 真っ赤だった。

 全身が震えている。


「このような辱めを受けたのは、生まれて始めてです。

 お嬢様に使えるのはもう無理でございます。

 今日限りで、全員辞めさせていただきます。


 またこの件は、ヒシア様にもご報告させていただきますので、ご覚悟ください」


 思わずエルマを見ちゃった。

 エルマは笑顔で、静かに横に首を振る。

 良かった、残ってくれるみたい。


 やめるのは、バスクスと一緒にきた人たちなのね。

 そうか、全員グルなんだ。


 ならいいわ

「どうぞ。

 勝手にしていいわ」


「では失礼します」


 と出ていった。


「おい、突き出せよ。

 アイツのやったことは犯罪だぞ。

 公爵家にさからったて事だ、死刑でもおかしくない」


 フギズナがまくし立てた。


「死刑はダメ」


「は?

 そんな理由でアイツを許すのか。


 ははは、こりゃいいや。

 お前やっぱりお子様だ、できるだけそのままでいろよ」


 それ褒めてない。


 ヨンゼには「最後まで、オレがやるんだった」とぼやかれた。

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