1-9 新しい家族

 私のお披露目会から半年、新しい家族ができる。

 弟だ、お披露目がある。

 名前はシナワイ。

 公に子供と発表されるのが5人までだから、5人目と言うのは意味がある。


 話には聞いていた、おもにリンの先生からだけど。

 魔力量は公爵家の子の中でも飛び抜けて多いし、剣の腕も相当でもう大人も負かすって。

 そして頭がいい噂。


「話がホントなら天才だな」とヨンゼ。


「そうね、凄いと思う。

 大人と普通に話せるなんて、私には出来ない」


「そうか。

 大人相手にだいぶ命令してるじゃないか」


「彼らは返事しかしないんだから、会話じゃないわ」


 それに

 '頭を下げてるのは、公爵の血に対してだ。

 リイティア自身にじゃない'

 と前にヨンゼに言われてからは、無茶な事いわなくなったでしょ。


「しかし子供の頃は天才で、大人になると凡庸というのは良く聞く話しだし。

 そもそも10才に満たないガキに負けるだと、相手は剣を持つのが仕事のはずだよな。

 そのガキの周りにいる大人がどんな連中か想像つくな」


 相変わらず、物事をいやらしく見てる。

 もっと素直な目を持ちなさいよ。


 お披露目会場に出てきた弟君は、やる気満々鼻息も荒そうだ。

 もしかして私もああだったのかな、だとしたら恥ずかしい。


 なに、お姉様、何でそんな優しい眼差しで私を見るんですか。

 違いますよねお姉様、私あんな感じじゃなかったですよね、ね。

 笑って、視線を戻されてしまった。

 気になります〜お姉様〜。


 弟君ダンスは普通だ、お父様の方が断然うまかった。


 舞踏会で男性が2人で踊る曲はない。

 男性だけで踊るのは剣舞、ここは2人組バージョンを舞う。

 本来は勝ち負けのない踊りなのだけど、今回は主役に花をもたせる。

 エグバート兄様がシナワイに負けて一曲が終る。


 エドマイア姉様が上手にリード。

 シナワイは顔が真っ赤だ、エドマイア姉様をまともに見れない。

 その気持は判るぞ。


 またランデューが問題を起こした。

 シナワイに勝ちを譲らないの。

 本来終わる所でおわらないから曲が繰り返されている。

 お父様のため息が聞こえた時、剣が弾き落とされた。

 ランデューが手首を抑えてシナワイを睨んでいる、強引に勝ちにいったようだ。


 私と踊る時も、まだ息を切らしていた。

 シナワイ君、私には恥ずかしそうにしない、平然と踊ってる。

 なんか悔しい。

 もっともランデューを気にして何も見てなかったようだったけど。


 彼に送られたのは、私と同じ年100万スフルと宝石で飾られた短剣。

 領地はラズナル。

 税の事を聞いたからか、羨ましいとは思わなかった。


 ”古い街ほど変えるのは難しそうだ。

 しきたりや利権が絡んで、何か新しい事をしようとすればすぐに反対されるだろうからな"

 とヨンゼからも言われている。

 面倒なのは嫌い。



 数日後、お父様からの紹介状を持って男が訪ねてきた。

 私の護衛だそうだ。


 "フギズナを、リイティアに遣わす。

 元騎士で、近衛騎士団・三番隊隊長だった。

 優秀な男だ、使いこなせ"


 いつものように短い。


 お父様から何も言われていなかったが、

「公爵様の印があります。

 公式なご指示かと」


 代筆士が、読み上げた羊皮紙を私に渡す。

 彼はお父様が雇い、私の護衛に派遣されてきたのだ。


 私の視線が変えの左手に向かう。


 それに気づき

「賊との戦いでな。

 向こうに氷使いがいたんだよ、盾ごと凍らされて砕かれてしまったのさ」


 ほらと、左手を上げ見せてくれた。


「女を抱くには不便はないから問題ないが。

 これじゃ、騎士は続けられない。

 退団したところに公爵様が声を掛けてくださった。

 よろしくな、お嬢ちゃん」


「私はリイティア、お嬢ちゃんはやめてください」


「そりゃ悪かった。

 許せリイティアちゃん」


 前にも有ったやり取りだが、ヨンゼとは違うな。


「リイティアお嬢様とお呼びください。

 身分の上下は、ハッキリとさせて置かなければなりません。

 それがご自身のためでもあります」


 バスクスが注意した。

 彼は誰に対しても注意している。


「俺は、自分より目上に敬称をつけるていどの礼儀は持っているぞ。

 だが、この子は貴族の娘、元騎士と同じで何者でもない。

 自分を下げてまで、お嬢様と呼ぶ気は無い」


「なっ」バスクスが言葉を失っている。


 でも私は驚かない、前にヨンゼにやり込められたから。


「でもちゃん付けはやめてください。

 呼び捨てで構いません、私もフギズナと呼びます」


「リイティアは話ができそうだな。

 それでいいぜ」


 でも

「ソーマ様が良かったな」

 かなわない夢が口からでちゃった。


「ソーマって、あの四番隊の問題児か。

 アイツも騎士をお止めてこの敷地にいるぞ。

 お前の弟の護衛になってる。

 この前、お披露目したのそいつだよな」


「なんですって。

 なんて羨ましいの」


 ソーマ様と一緒にいられるなんて。


「リイティアの護衛は俺なんだがな」


 とフギズナが苦笑い。


「アイツを護衛にって話は、弟が言い出したと聞いた。

 それを公爵様が聞き入れて雇われた」


「自分で雇えばよかったのに」


 お父様じゃなければ、元騎士だなんて雇えるはず無いもの。


「公爵様が雇った護衛ってのが重要なんだろうな。

 そうなると、襲ってくる相手ってのも想像がつく。

 嫌だね〜、貴族のガキって言うのは」


「でも騎士を辞めてだなんて」


「違うな、ソーマの野郎は騎士を辞めなきゃならない状況だった。

 弟の母親とソーマの出身家が近いから決まるのが早かった。

 案外ソーマから出た話だったかもしれないな、騎士を辞めさせるだなんてガキや取り巻きは思いつかない」


 その日から、フギズナは屋敷の一室で寝泊まりし始めた。

 朝、私の予定を確認して出かけないと知ると、一日飲んでいる。

 敷地の外へ出る事もあるが、そんな時は凄い匂いをさせて帰ってくる。

 メイド達にはものすごく毛嫌いされていて、今まで屋敷で一番きらわれていたあの虫よりも嫌われている。


 でもヨンゼには


「面白いやつじゃないか。

 それに嘘は言っていない、悪いやつではなさそうだぞ」


 私の考えとは大きく違う。





「俺に守られてるガキが、そんなもん持ってんのは見逃せんな」


 初めて私の護衛をした時のフギズナが言う。

 私が剣を下げているのが気に食わないらしい。


「プライドが高いな」


 ヨンゼは新しい評価を加えた。


「怪我をする、外しな」と近寄ってきた、剣を取り上げる気だ。


 思わず剣を抜いて構えてしまった。

 最近ワンドは部屋に忘れる事が多い、剣の方が使いやすく感じているからだ。


 フギズナは、足を止めて

「なんの冗談だ。

 俺が片腕だと思って、バカにしてるのか。


 怪我されちゃ困るが、生意気なガキは大人の責任として躾なきゃな」


 殺される、と思った瞬間剣が吹き飛んでいた。

 痛い。

 何も出来なかった。


「わかったか、あんまり馬鹿にするものじゃないぞ」


 すっごく悔しい、なにか言い返してやりたい。

 でもナンて言えばいいの。

 耳飾りを触る、教えてよ。


「見てられないな」

 ヨンゼは期待を裏切らない。


「10才の女の子に勝って、何を嬉しがっているの」


「何!」


「だから、元騎士の貴方が私に勝つだなんて当たり前だって言っているの」


「剣を向けといて、それを言うか」


「足を止めたでしょう」


「は」


「私が剣を向けた時、フギズナは近づいて来るのを止めたわ。

 その一瞬は、優秀な護衛には十分な時間でしょう。


 そもそも同じ子供でも、剣を持っている子と持っていない子。

 貴方が襲う側なら、どっち?」


「生意気なガキを選ぶかな」


「賊と言われる者たちが、本当にそう考えると思っているなら。

 護衛失格ね」


「なるほどな、剣を持っている意味はあると言いたいのか」


 そんな理由、私も知らなかったわよ。


「私は貴方が強いことは知っています。

 でも襲う側は知らないかもしれない」


「襲う相手を調べないなんて三流もいいとこだ。

 それを奴らの人生最後に教えてやるさ」


「いい加減にしたら、いつまで過去の栄光にとらわれているの」


「なに」


「酒をいくら飲んでも、満足出来ないでしょ。

 元々貴方は今のような投げやりな生き方はしていなかったはず、そうでなければその強さにはなれないわ。


 お父様の紹介状には、'強い'とは書かれてい無かったわ。

 '優秀'と、使いこなせとも有った。

 使いこなせって護衛に使う言葉じゃないわよ」


「… これだから、貴族のガキは嫌いだ.

 たまに大人がまじっていやがる。


 しょぼい領地を与えられ期待されていない娘に、怪我をし使いものにならなくなった男を、お情けで護衛に付けた。

 って話じゃないんだな」


 頭をポリポリとかいた。

「子供のお守りを任されて、俺も終わりだなと思ってたんだがな」


「近衛騎士団の隊長は、強いだけでなれるわけではないでしょう。

 貴方は剣を持たなくとも、出来ることはたくさん有るはずだわ」


「判ったよ。

 俺が戻った後にも、娘の警護は大丈夫にしろって事だな。

 公爵様は言葉が足りなすぎる」


 ヨンゼすごい。


 お父様の考えを見抜くだなんて関心してたら

「デタラメに決まっているだろう」

 ですって。


 でもフギズナはそう思ったみたい。


「騎士を止めた時、俺の従士は他の騎士の元で新しい従士になった。

 だが、貴族の子で無いので受け入れてもらえなかったのが2人いる。

 腕は俺が保証する、雇ってくれ」


 せっかくやる気になってくれてのですもの

「いいわ」



「ダメです。

 これ以上の無駄遣いはできません」

 バスクスが大きな壁だ。

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