1-8 お菓子とお茶会

 やっとサヤから調理場を使っていいと許可をもらった。

 お菓子作りの約束が果たしてもらえる。


 でも

「高価な砂糖を使うには、私もバスクスさんの許可がいります。

 特別なお客様をもてなす意外に、使うのは許されないんです」

 と砂糖が使えない。


 砂糖は鍵のかかるつぼに入れて、バスクスが持っているそうだ。

 特別なお客様って誰になるんだろう、今後も使う事ないかも。


「普段、お菓子に使うのは蜂蜜、イフルーツと黒砂糖です」と助言も。




「砂糖がそんなに高価なのか、予想外だったな」


「砂糖が高価なのは当たり前でしょう。

 錬金術士が'甘み'から取り出しているのだから」


「砂糖って魔法で作ってるのか」


「ヨンゼのところは違ったの。

 そうか、魔法が無いって言ってたものね」


 甘いものに関しては、ちょっと詳しいのよ。


「蜂蜜っていうのは、虫に花の蜜を集めさせたものよ。

 砂糖よりは手に入りやすいけど、それでも貴重品。


 黒砂糖は、南の大陸でしか作ってないわ。

 全部、交易で入ってきてる。

 大量に作れるらしいので、蜂蜜よりは安い。


 一番手に入りやすいのがドライフルーツ、果物を乾燥させて甘さを濃縮したものよ。

 元々の果実の味も含まれてしまうから、味が変になるのがあるわ。


 でも、魔法が使えないのに砂糖があるなんてどうして。

 どうやって作ってたの」


「魔法って便利なモノがあると、逆に技術が進歩しないのかな。

 オレのいた所じゃ魔法なんか使わないで、普通に作ってたぞ」


「だからどうやって」


「どうやってだろう。

 考えた事もないな」


「信じられない、そんな大事な事を知らないだなんて」


「たかが砂糖が大事か」


「大事よ」


 美味しいお菓子が、いっぱい食べられるんだから。


「まあいい。

 黒砂糖が有るって事は、サトウキビも有るんだろうな」


「何それ」


「黒砂糖を知ってても、サトウキビを知らないのか」


「知らないわよ」


「さっきの様子だと、甘味関係で忘れてるって無いだろうしな。

 だとするとオレの言葉の自動翻訳は、宿主であるリイティアの知識とは関係ないと言うことか。

 軽い鑑定機能だな」


「何言ってるか判んないわよ、判るように説明して」


「大きな声を出すな。

 オレのいた世界に有るものは、勝手に翻訳されると前に言っただろう」


 覚えてるわ。


「そうすると、オレの知ってる事は露見する。

 サトウキビって言うのは、黒砂糖の原料だ」


「黒砂糖の作り方は極秘で外に漏れてこないのよ。

 何を原料にしてるかなんて、この国じゃだれも知らないわよ」


「黒砂糖なんて、サトウキビから絞った汁を煮詰めるだけだ。

 秘密も何も無いだろう」


「すごい、すごいよそれ。

 そのサトウキビって何処にあるの」


 お菓子食べ放題じゃない。


「温かい地方だな。

 そうか、ここじゃ寒すぎる育たない」


 ダメじゃない。


「砂糖は使わないほうがいいんだろうな」


「約束覚えてるはよね。

 美味しくなかったら、どうなるんだっけ」


「判ってるよ。

 しかし蜂蜜も黒砂糖も、平民には高いだろう。

 彼らだって甘いものは食いたいよな。

 どうしてるんだ」


 どうしてるんだろう。


 調理場を使う時にサヤから、聞いてみた。

 彼女は私の周りにいる唯一の平民だもの。


「お嬢様の食べているような、お菓子は口にできません。

 ドライフルーツ入の菓子は、特別な日に食べるものでした。

 普段は料理すると甘みの出る野菜で我慢しています」


「その野菜って」と私。

 左手が耳元でささやいたからだ。


「カボチャとかサツマイモですね。

 蒸せば甘くなるので」


 それを聞いたヨンゼは作るお菓子を決めたようだ。

 材料を言ってきた。


「え〜と。

 サツマイモと寒天。

 それと黒砂糖も少し」


 サヤが材料を取りにいっている間に

「寒天ってなに」


「ゼリーで固められた野菜、食ったことあるだろう」


 あれ、嫌い。


「寒天はゼリーの材料だ。

 本来は、果物の汁と寒天だけでも菓子になるんだがな」


「汁が出るほどの水々しい果物なんて、蜂蜜くらい高価だよ」


「材料が高すぎて、調理人も手がだせないんだ。

 味が想像出来ないんじゃ、作るやつも出てこないか。

 リイティアも美味しい菓子が食いたいなら、作る者にも食べさせたほうがいいぞ」


 それって自分にも食べさせろって言ってる?


 ヨンゼが作ったのは、お芋のお菓子。

 甘み控えめって言ったからえーって思ったけど、悪くなかった。


 サヤやエルマ達の分と、明日の分を作り終えたところで、材料が無くなった。


「サツマイモはあまり作られていないんです。

 子供は好きなんですが」


「もしかして、寒いから。

 また南大陸から持ってきてたりするの」


「いいえ、単純に好きな人が少ないからだと。

 ジャガイモはたくさん有るんですが」


 良かった。


「サツマイモはほとんどが、イモ酒に使われています。

 ワインや果実酒は庶民が飲むには高すぎるので、安い酒が必要なのです」


 ーーーーー


 翌日、お迎えの馬車に乗りエドマイア姉様を訪ねた。

 ’お話がしたいので、一緒にお茶を飲みましょう’とご招待が有ったのだ。


 挨拶をする、お姉様も同じだが。


「堅苦しいのは止めましょう。

 せっかく妹ができたのだもの、殿方とは話せない事をゆっくり話したいのよ」


 その後は堅苦しいのはなし。

 私もお姉様とゆっくりお話をしたかったので、嬉しい。


「これ私の作ったお菓子です。

 お口に合えばいいのですが」


 私が作ったとは間違えではないが、公言するにはちょっと胸がいたむ。


「凄い、リイティアちゃんはそんな事も出来るんだ」


 思った以上に、お姉様が反応した。


 貴族の子女といっても同じ年ごろの女の子、流行のファションや美味しいものの話など時間を忘れて話した。

 残念だけど、男の人に関しては大きく意見が別れた。


「リイティアちゃんは、あの騎士に夢中のようだけど。

 私は好みじゃない。

 軽そうだもの」


「ソーマ様は、風の魔法を使うのだから、それでい良いんです」


 思わず声が大きくなってしまった。


「ぷっ。

 あははは、そうね。

 リイティアちゃんあんまり笑わせないで、お腹が痛い」


 何が可笑しいのだろう。


「あ〜、楽しい。

 リイティアちゃんと話すのは本当に楽しいわ。

 それに可愛いし」


「お姉様、褒め過ぎです。

 恥ずかしくなってしまう」


「いいえ、本当に可愛いわよ。

 それにこんなに美味しいお菓子も作れるなんて。

 私はお料理ダメみたいだし」


「お姉様、料理なされるのですか」


 食べてみたい。


「いいえ。

 私は作れないわ、アイディアを出すだけ。

 領地に何か特産品が欲しいの。

 でも、私が思いついたのは全部ダメだった」


「特産品?」


「リイティアちゃんは考えてないの、自分の領地の事」


「自分の領地ですか、私の領地は何もない島ですよ。

 考えもしません」


「そっか、まだ教えてもらってないんだね。

 執事は何してるんだろう。


 私達がもらった領地、税がかからないのは17才までよ。

 お父様がお隠れになった時、領地の税が収められなければ、領地は取り上げられる」


 お姉様、笑顔だけど怖い。

 エグバート兄様を思い出す、似ているからかな。


「私は嫌」

 お姉様は何かを宣言しているようだ。


「でも、お姉様は領地など不要なのでは」


 そうお兄様がいっていたはずだ。


「私はすべてを運命に委ねる気はないの。

 無意味でも、自分の立つ場所は確保しておきたい。


 魂まで触れさせる気はないわ」


 "カッコいい"と思った。

 硬い決意だけど誰に向けての宣言なんのだろう。


「こめんなさい、こんな話しをするつもりは無かったのに」


「いいえ、お聞きできてよかったです。

 もっと教えていただけませんか」


 私は知らなきゃいけない、何故かそうおもった。


「そうね。

 ’才覚を示せ’私もそう言われたけど、その意味を知るのに時間がかかった。

 お父様、難題出しすぎよ」


 私の知っている、お姉様に戻ってる。


「お父様はギリギリの領地を、私達に与えている。


 街は税が高い。

 私のキューレエス、今は貿易が盛んで安泰に見えるけど。

 最近貿易船が大型化してきて、桟橋に付けれない船がでてきた。


 それに操船技術が進歩して、長い航海が可能になってきている。

 キューレエスに寄らなくてもその先に行ける、北大陸の一番南の港という魅力は徐々に下がってるの。


 入ってくる船は、いずれ半分以下になってしまうかも。

 そうなれば、国に税を収めるのは難しくなるでしょうね」


 お姉様の領地、全然大丈夫じゃ無かった。


「リイティアちゃんの所は、街がないから税は安いけど、逆に売れるものもない。

 エグバート兄様の荘園は、広さが決まっているこれ以上開発できない。

 作る物を変えても数年で飽きられてしまう。

 要塞都市デリトリアは古い街で、その分税も高い。

 迷宮から取れる素材だけでは、税金で全部持っていかれるわ」


「だから、才覚を示せ、なんですか」


「そう。

 みんな何かをしなければ、いずれ領地を失ってしまう。

 お父様って、ひどいでしょ」


 色んなお話をし、楽しい時を過ごした。





「特産品か。

 私思いついたモノがあるんだけど」


 お姉様が話していた時、思いついた。


「サツマイモだろ、オレもいいと思う。

 ついでに試して欲しい事も有るんだ。

 手紙を出して欲しいな」

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