1-7 運命の人

 公爵家令嬢の私には仕事がある。

 お父様がお客様をご招待して開かれる舞踏会やお茶会へ、公爵家の家族として出席する。

 お客様をもてなすためだ。


 ご招待される人は、ご家族も一緒にこられるので私に年齢の近い子供もいる。

 その子と遊ぶのが、私の仕事なのだ。


 その間、お父様はお客様と大事なお話ができるのだから、立派な仕事よ。

 とお姉様に教えていただいた。


 大抵はお姉様が一緒にいてくださるので、今はその真似をしている。

 お姉様は本当に人気がある。

 子供だけでじゃない。

 来賓の大人の人ももれなくご挨拶にくる。


 大勢がご挨拶に来られると、私には何もする事が無くなってポツンとしてしまう。

 そんな時は、エグバート兄様があの細い目で「お疲れ様」とジュースをくれるのが最近のお決まりだ。


「エドマイアはもっと大変のようだけど」


 エドマイア姉様を心配そうに見ている。

 エグバート兄様とエドマイア姉様はお母様が同じ、より心配なのだろう。


「お姉様は、お綺麗ですから仕方がないです」


 エグバート兄様は、私を'おや'という感じで一瞬見た。


「人が寄ってくるのは、それも有るだろうけど。

 彼女の場合、名前を覚えてもらおうと近寄ってくるやつばかりだ、大変だと思うよ」


「何故、お姉様に覚えていただこうとするのです」


「現国王様はご高齢だ。

 王には弟がいて、王太子のもしもの時に備え、今も王家に席をおいている。

 未婚のままでな。

 もっとも認めていない子供は10人を超えていたはずだが。


 王がお隠れになり、王太子が次の王になれば備えはいらなくなる。

 そうなると、どこかの公爵家に降りてくる。

 父上よりも3つ年上の婿としてだ」


 それって、姉様の。


「その公爵家当主は新王の叔父になる、王家とのつながりは太くなると思われているのさ。

 あれは、そのおこぼれが欲しい連中だ」


 エグバート兄様はいつもの笑顔だったけど目が笑っていない、怖い。


「そして、王太子にも妻がいない。

 正式な妻は、玉座についた後迎えなければならないからね。

 その候補にエドマイアも入っている。


 どっちにしてもエドマイアの将来は約束されているのさ」


「兄様は?」


「父より年上の義弟ができれば、彼が当主になる。

 エドマイアが王妃になれば、弟が家を継ぐだろう」


 え?


「血が王家と近づきすぎるのを避けるためだ。

 王の妻は公爵家から上がり、そして王になれなかった王族は公爵家に下る。

 公爵家にはそうした役割が与えられている、王家の魔法の力を弱めないためさ。

 だが血は濃くなりすぎると問題が起きる、そのために色々と有るのさ。


 運が良ければ、何処かに婿として迎えてもらえるかもしれない」


「お兄様もお姉様も、大変なんだな」


「お前、他人事だな」と笑いお兄様は戻っていった。



 左手が髪をかきあげる。

 最近ヨンゼが、何か言いたい時にとる動きだ。


「姉とリイティアは3つ違い。

 姉に何かあれば、さっきの話は全部お前にくる」


 ゲッ!


「そんな顔を兄に見せなくてよかったな」


 こんな話をしたからか、自分の将来のお相手というのを気にし始めた。



 お父様がお出かけの時にお供するのは、妻のセリアヌル様とエグバート兄様、エドマイア姉様の3人。

 多くを連れて行っても迷惑になるからだ。


 でも、たまに全員が呼ばれる事もある。

 今回全員できたのは御前試合の剣士の部だ。

 ちなみに、手加減が難しい魔法使い同士の試合は行われない。


 私はそこに現れた1人の剣士に心を奪われた。

 風の魔法に乗り、踊るような剣さばき。

 相手の剣の上に乗ったり、重ささえ感じられない。


 決勝で負けてしまったけど、彼の美しさとその優雅な動きは会場にいた女性陣の心をガッチリと掴んだ。

 現に彼が出てくると、キャーと言う高い歓声が徐々に多くなっていったもの。

 私も「ソーマ様」と声を出し、セリアヌル様に睨まれてしまった。


「リイティア、公爵家の令嬢ははしたない声は出さないのよ」

 とエドマイア姉様にも言われる。

 だって、だって、ソーマ様って素敵じゃないですか。


「完全に恋心を持っていかれたわね。

 でもお姉さんから1つ忠告。

 そんな思いは口にしちゃダメよ。

 私達には公爵家という、他の令嬢が持っていない名札がついているんですから」


「はい」



 誰も話せないので、その夜はヨンゼに思いっきり相手になってもらったわ。


「決勝もう少しだったと思うの、ソーマ様って騎士団で一番強いんじゃないかしら」


「試合には、若い騎士しか出ていなかったぞ。

 新人同士が腕を競っていた感じだ」


 ヨンゼはあまり同意してくれない。

 つまんなくなちゃう。


「ん〜、じゃソーマ様はあれね、え〜と」


「ホープか?」


「そう、若手の一番。

 決勝でソーマ様に勝ったのは、新人ぽっくなかったよね、きっと上の人だったんだわ。


 ソーマ様は、いずれ騎士団で一番になるわよ。

 私の直感がそういっている」


「直感ね〜。

 あの会場にいた若い娘のかなりの数はリイティアと同じ直感が働いたんじゃないか」


 と相変わらずだ。

 でもヨンゼの言ったとおり、ソーマ様のファンはかなりいた。

 なにせソーマ様の姿絵が売り出されているんだから。


 無論手に入れたわ。

 パピルスに書かれたものだけど、結構なお値段だった。

 そこには、私の人生を決める一言が書いてあったの。


 理想の女性について

 '一緒に戦ってくれる人。

 背中を預けるなんて究極の愛だからね'と


「私剣を習う!」


「おい、魔法はどうするんだ」


「それについては最近思うことが有るんだよね」


「思うこと?」


「そう、魔法はヨンゼのおかげで呪文の意味が理解出来ているので、使えるのは人より早い。

 でも魔法の威力はあまり出ないの。


 伸び悩みとも違いみたい、なんかしっくりこないのよ。

 もしかして私魔法の才能あんまりないのかも、って」


 先生も見ていて特に問題を感じないみたい。

 もっと頑張ろうてきな事しか言わないし。


「それで剣なのか」


「貴族である以上、魔法か剣の腕が無いとね。

 目指せ騎士よ」


「何故そうなる」


「この国では騎士には2つあるの。

 1つは、各貴族の当主。

 王の命令で兵を率いて戦うのだから当然よね。

 剣か魔法が使えて当然と思われているわ。


 もう1つは、王に剣や杖を捧げる事を許された人。

 王に忠誠を誓い、自分の技を命の限り使う。

 エグバート兄様かエドマイア姉様が家を継ぐのだから、その先を考えておかないと」


「まともそうな事を言っているが、結局はソーマの側に行きたいだけじゃないのか」


「な、なんてこと言うのよ」


「図星か」


「違うわよ!」


 早速練習用の剣を用意してもらった。


「また、お嬢様は無駄使いをなさって」


 バスクスに小言をもらったが


「貴族として、魔法と剣は修練しないといけないものだわ」


 無理を通した。


 でも剣が重い、これ振り回すなんて無理よ。


「子ども用といっても、鉄の塊だかなり重いものだな」


「ヨンゼも初めてなの。

 実は剣の達人だって言ってもいいのよ。

 ズルとか言わないから」


「向こうでは、危険な事はしていなかった」


 使えないな〜。


「この剣は、重さで相手をへし折るタイプのモノだろう。

 他のタイプはないのか、例えば・・」


「例えば、何?」


「いや、無いらしい。

 オレは口にしようとして、言いよどむ事がある。

 こちらに無いモノを言おうとしても、それを指す言葉も無いので言えないんだ。

 最近判った」


「で、何を言おうとしたの」


「細くて、刺すや切るを目的とした剣だ。

 それなら今の剣に比べて軽い、もしかしたらリイティアでも使えるかと思ってな」


 バスクスにまた小言を言われたが、細い剣を特注で造った。

 形はヨンゼが教えてくれたモノ。


「憧れの片刃の剣にしたかったが、ここの刀鍛冶にその技術は無いからな」

 とゴモゴモ言っていたけど、大丈夫だろうか。


 持てる重さになった。


「まず刺すという動きだ。

 やって見せる」


 剣を前に突き出しただけだ。


「これだけ」


「そうだ、的に正確にあてれるようになったら、次はステップかな。

 この世界には無い動きだから、未熟な技でも相手は戸惑うと思うぞ」


「ステップって言うのは」


「思いっきり前に飛び込んで、上半身を倒し剣先をのばす。

 剣が届かない所から一気に相手を刺す」


「面白そう」

 で試してみたが、思った所ちゃんと当たらない。


「当たっている。

 すごいじゃないか、完璧だよ」


 ヨンゼはすごいって言ってくれるけど、しっくりこない。


「そうじゃなくて、何ていうか。。。

 思ったように動けてない、感じ。

 ヨンゼ何か悪さしてない」


 なんかしっくりきてないんだもの、考えられるのコイツしかない。


「ちょっといいか。

 試したいことがある」


「いいけど、なに」


「左手を広げて、テーブルに付けてくれ」


 言われたように左てをつく。

 ヨンゼが小枝を持って、左手の指の間をトントンと突き始めた。


「同じ事をしてみてくれ」


 やってみる、これが何?。


「もっと早く」


 だから、これが何になるの。


「もっと」


 判ったわよ、思いっきり早くしてやるわ。


 いたーい!

 左の中指をついてしまった。

 血は出てないけど、かなり痛い。


 私をはめたの?


「今度は左手でやってみてくれないか」


 真剣な声、からかってるわけじゃない。


 左手でやってみる。

 右手ほど早くは出来なかった。


「違和感あるか」


 そう言えば、右手に比べると

「無いわ。

 でも右手ほど早く出来なかったからじゃない」


「リイティアは体を使う才能が有るようだな」


 ?

「自分の体だもの、使えるのは当たり前でしょ」


 何言ってるの。


「実は思ったように動かす事は難しいんだ。

 リイティアはそれが正確に出来ている。


 右手で出来ないのは、本当にオレのせいのようだ。

 特に邪魔しているつもりは無いが、オレが途中にいるせいで動きにズレが出ている」


「それって、どういう事?」


「動かすのなら、左の方が上手く出来るって事だ」


 左で剣を使ってみたら、本当にしっくりくる。

 まだまだ遅いけど、これは練習すれば早くできそう。

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