1-4 お披露目会
「ジュアンソン・シュサレア公爵様、第四子ご令嬢リイティア様」
名前が呼ばれ、大きなドアが開く。
広間には着飾った大人たちが並び、拍手で私を迎えてくれた。
興奮して鼻血が出そう。
この謁見の間は、普段はお父様がお客様とお会いする場所。
今日は私のお披露目の会場として、舞踏会場になっている。
お客様の視線を集めながら進むと、中央にお父様がお待ちくださっている。
その後ろには、お兄様が2人、お姉さまが1人控えていた。
右から順に、エグバート兄様、エドマイア姉様、ランデュー兄様と並んでいる。
お生まれの順にならんでいるようだ。
「10才の誕生日おめでとう、リイティア」とお父様。
「ありがとうございます」とドレスを摘み挨拶をする。
今まで、お見かけするのが精一杯だったのに、今日は直接お声をかけていだだけている。
嬉しい。
お父様が、私に腕を伸ばす。
その手に触れた瞬間音楽が鳴り出し、お父様と2人で踊りだした。
この日のために練習してきたのだ。
「うまいな」
お父様が褒めてくださった。
嬉しい。
ホントの事を言うと、いつも怒っているような顔をしているので、近づくのが怖かった。
うんん、あれは怖いんじゃなくて威厳が有るのだと教えてもらたんだった。
父様と一緒に踊っているのは嬉しいし楽しい。
お父様は、私が踊りやすいようにエスコートしてくださる。
「右腕を怪我したと聞いたが、大丈夫なのか」
ステップを間違えそうになった。
「ちょっと怪我をしました。
もう治りましたので大丈夫です。
ご心配をおかけし申し訳ありません」
「そうか」
誰に聞いたんだろう。
もしかして宝物庫に忍び込んだのがバレているの?
怒ってるのかなお顔を見れない、黙って踊る。
お父様と踊ったのは特別なダンスで、位の高い人のみ踊ることを許されている。
だからここで踊れるのはお父様とその相手だけ。
舞踏会での開演の曲だ。
会場を一回りすると、曲が変わる。
すこし早い曲になった。
これから踊る曲は舞踏会で男女がペアで踊るもの。
まずはエグバート兄様と。
「はじめまして、リイティア」
お兄様は17才で、すでにライアート学園に通われている。
初めてお会いしたがカッコいい、物語の主人公みたい。
女性達のうらやましそうな視線が集まっている、何だか恥ずかい。
「お手柔らかにたのむ、私はこの手の事が苦手なんだ」
本人が言われたとおり、エグバート兄様はダンスがあまり得意ではなさそうだ。
踊っている時に、ステップを数回間違えたもの。
でも私が上手くフォローしたから、失敗は気づかれずに踊れたと思う。
次はエドマイア姉様と。
曲がすごくゆっくりになる、主に女性同士で踊る曲。
「嬉しいな、こんな可愛い妹ができて」
「ありがとうございます。
でもお姉様は何倍もお綺麗です」
嘘を付く必要はない本当に綺麗だと思う、見とれてしまう。
エグバート兄様の時よりすごくて、会場の全て視線を集めている。
エドマイア姉様はもうすぐ13才になるので、お兄様と同じ学園に行くはずだ。
私は3年後に入学する。
お兄様はいなくなっているが、エドマイア姉様はいるので学園に行くのが楽しみになった。
曲が男女のペアのモノに戻る。
お姉様と踊った曲がゆっくりだったので、切り替えが大変。
ランデュー兄様はすごくキレのある踊り方をされた。
だけど振り回される、私が主役なのだから合わせて欲しい。
早くなったテンポにまだ切り替えができていないのだから。
ついていこうと頑張っていたが、転んでしまった。
どよめきが会場に広がる、笑いも含まれた。
顔が熱い。
恥ずかしくて、立てない。
「どんくさいな」と言うと、ランデュー兄様は戻ってしまった。
ちょっと笑っていた。
ランデュー兄様は嫌い。
「怪我しなかったかい」
駆け寄ってきたエグバート兄様が手を引いて私を立たせてくれた。
「こんな事して、何が楽しいのかしら」
エドマイア姉様が私のドレス汚れ払ってくれていた。
曲が終わっている。
悔しいし恥ずかしい、クーってなる。
エグバート兄様に手を引かれ、お父様の前に戻る。
そうだ、ご挨拶しなきゃ。
ドレスの裾を掴み、今度は上半身ごと頭を下げる。
これは最上位の挨拶の仕方、お声がかかるまで顔は上げれない。
最初私がお父様にしたご挨拶は基本的なもの。
ただし、身分のある方へするのは無礼になる、人前では家族でも公爵にするのは許されない。
幼い子供だからと許されていたのだ。
今している挨拶は、これからは分別を持って行動すると言う意思表示だ。
「リイティア、今日から我が子と認める、家名を名乗れ。
公爵の名を辱めぬよう励め」
これで私は公式にお父様の子と認められたのだ。
さっきまで失敗した事でドキドキしてたが、今は別のドキドキ。
顔を上げて、
「ありがとうございます。
リイティア・シュサレア、公爵家の名に恥じぬよう務めさせていただきます」
決まりきった形式の会話だが重要なこと。
「リイティア、シュサレアに"静寂な森のリン"を与え。
18才まで毎年100万スフルを」
私への褒賞だ。
「そして、領地としてラフトリア島を与える。
自らの裁量を示し、良く治めよ」
島!
なんで!
その後の事はよく覚えていない。
色んな人と踊ったと思うし、お菓子も食べたと思うが味を思い出せない。
欲しかった
それよりも
「なんで島なの。
ラフトリア島なんて、聞いたこと無いわよ。
きっと、お父様に嫌われちゃったんだ。
大事なお披露目会で転ぶなんて大失敗してしまったから」
ベッドの上にうつ伏せになって泣き叫んでいだ。
私にも枕で口を塞ぐ恥じらいはある。
いくら鳴き声を押し殺してもヨンゼには判ってしまう。
「そんなはずは無いだろう。
領地は以前に決まっていたものだ。
転んだからといって、変えられるものじゃない」
「なおさらじゃない。
私には田舎の島を与えるつもりだったの?
エグバート兄様は王都ガルベスフルに一番近いススの荘園。
エドマイア姉様には港都キューレエス。
ランデュー兄様は迷宮が近くにある、要塞都市デリトリア」
みんな有名な場所だ。
何で私だけ。
「私嫌われているんだ〜」
「大丈夫だ、そんな事はない。
こっそり見ていたが、オヤジさんはずっと優しい目でリイティアを見てたぞ」
「そうなの?」
私はお顔なんて見れなかったのに。
「そうだ。
リイティアが転んだ時も、転んだお前じゃなくランデューに厳しい目を向けていたしな。
あれはワザとやったと判ったんだろう」
「やっぱり、ワザとだったんだ」
曲が戻った時、合わせられなくて焦ってたから判らなかった。
「2回目のあの曲が少し早くなっていたぞ、気づいてなかったのか。
楽団もグルだったんだろうな。
しかもターンしようとしたあのタイミングで強引に引っ張られれば、誰でも転ぶさ」
「なんでそんな事」
「姉さんが言ってたじゃないか、何が楽しいのだろうと。
あの小僧は、あれが楽しかったんじゃないのか」
嫌い。
「ランデュー兄様は大っ嫌い。
もう兄様って呼んで上げない」
「それは、どんな仕返しだ」
ヨンゼが笑う。
「そうだヨンゼ。
お父様を見てたって言ってたわよね。
目は、目。
出してたら見つかちゃうじゃない」
「大丈夫だ」
そう言ってる口の上にホクロくらいの黒い丸が出来た。
「小さい目だったからな、気づかれないさ。
大きさも自由のようだ」
気持ちわるい、ほんとやめて。
いつの間にか泣き止んでた、ヨンゼのおかげかな。
「でも何で島なんだろう。
ラズナルを狙ってたんだけどな〜」
ラズナルはお父様の領地の第二の都市。
州都ユーゼ・エルフェスにも、王都にも近い。
「才覚を示せと言っていたな、あれどおゆう意味だ」
「お父様からいただけるお金は100万スフル。
それ以外は領地から集めなきゃならないの」
「兄さん達もそうしてるのか」
「荘園は食料を、王都ガルベスフルとラズナルで売れる。
港街キューレエスは貿易で、要塞都市デリトリアは迷宮からとれる素材がお金になる。
ラフトリア島って聞いたこと無いわ。
まともな街も無いわよきっと」
村が何箇所か有るだけだと思う。
私が住むんじゃないからいいけど、年1回くらいは行かないと駄目なんだろうな。
あんまり田舎だと嫌だな。
「そう言えば、屋敷もくれるって言ってなかったか」
「私の住む場所よ。
10才になったから、このお母様のお屋敷は出ないといけないの」
「引っ越すのか」
「そうよ」
「10才に、かなりな事をさせる世界だな」
「公爵家は上級貴族だからね。
昔からのしきたりなの。
それに新しいお屋敷に来てくれる人は、お母様が手配してくれているわ。
私は移ればいいだけ」
今まで私に仕えてくれていたメイドも、お母様が雇い主だ。
私以外に使えたことのないエルマとサヤも、それは同じだ。
今度は私が正式な主になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます