カカの書塔 七
追われているのだから人気の多い方へ逃げたろうか?
十字路では交番の見えている方向へ曲がったろう。
その交番は無人なので通り過ぎ、屋台の立ち並ぶ方へ逃げたかもしれない。
そうして走っていると、やたらと騒がしい集団を発見した。
カメラを構え、笑っている。そいつらは逃げている奴をワザと捕まえないように追いかけて楽しんでいるらしかった。
動画でも配信しているのか、ライトが眩しい。
シタは出来るだけ近づいてから、路駐されている車の陰に隠れて声を張り上げる。
「警察だ!」
それだけ叫ぶと、集団はあっという間に散っていった。
そこに残っていたのは、手を突いて荒く息をする、坊主頭のカカだった。
「シ、シタさん……?」
「あぁ。遅くなってすまなかったな」
そう声を掛けると緊張の糸が切れたのか、カカはその場にゴロリと寝転んでしまった。
「大丈夫か?」
「大丈夫なわけないじゃないですか……。坊主にしてもバレるって、僕どんだけ特徴的な顔してるんですかねぇ」
「車で来ているんだ。歩けるか?」
予想通りろくに食事をしていなかったカカを車に乗せてから、コンビニでパンやおにぎりを買った。
そしてポ助やボスと連絡を取るため、車を海岸沿いに駐める。
「どうして僕の居場所が分かったんですか?」
おにぎりを頬張りながらカカが聞く。
「お前、子猫にエサでもやらなかったか?」
「エサって程じゃないですけど、ソーセージを半分コしました」
「その子猫が教えてくれたんだよ」
シタが言うと、カカは嬉しそうに笑った。
「しかし、寝袋だけでよく六日も暮らせたものだな」
「本物のサバイバル術を、トイさんから教えてもらっていたので」
「あぁ」
それから人は怖いだの、十月の河原は寒いだのと話をしていたけれど、不意にカカが「ウナさんは元気でしたか?」と聞いた。
「元気ではなかったな。泣きながらお前の捜索を依頼されたよ」
「えぇ……ちゃんと手紙を置いて来たんだけどな」
「塔に戻るつもりは無いのか?」
「戻りたいですけど、今の騒ぎが落ち着かない事には……」
自分が帰るとウナが危ない目に遭うかもしれないから、とカカは唇を噛む。
「本当は僕、今すぐにでも帰って本の中に入りたいんです。契約書を探して、塔の主になりたいんです。そうすればきっとウナさんの事も守れるはずですから」
「お前が主になれば、今度はウナがお前と同じ目に遭うだろう」
「僕が代償を払えば、塔はウナさんの事を守ってくれるじゃないですか」
「だろうな」
なるほど、とシタは思った。
新たな契約を結ぶには本人がいる。
つまりカカは、塔の主であるウナが自分の為に代償を支払って塔と契約を結ばないように、一人で逃げてきたのだ。
「本の中にトイはもういない。うまく帰って来られるか分からんぞ」
「それでもいいんです」
「そうか。それならば行くか」
シタの言葉に、カカは「どこへ?」と首を傾げる。
そしてシタが持って来た最終巻を見せると、目を大きく見開いた。
いつの間にかカラスたちが車の周りに集まって来ている。
二人は、ポ助が戻るのを待って最終巻に入った。
無防備な体をカラスとポ助たちに守られながら。
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