カカの書塔 六

 馴染みの警察に電話をした時は、事件に関与していなくても逃げられるのなら捕まえて話を聞かなければならない、などと言われた。

 なのでその警察たちが熱心に削除してくれているとは、とても思えない。

 どちらにせよ早く見つけなければ、とシタは焦る。


 もう六日なのだ。買い物に行くたびに見つかって騒ぎになるかもしれないのでは、まともな物を食べられている可能性は低い。

 考えるほどに、シタは苛立ちを募らせた。


 今となっては自分の人気でさえ腹立たしいものだが、聞き込みをするにはそれがとても役に立った。

 みんな悪人カカを英雄シタが捕らえる為に動きだしたと思い、喜んで協力してくれるのだ。

 しかし問題はその証言の内容だ。


『怪しい小人型アバターを見た』だの『おかしな動きをしている野良猫を見かけたので保健所に連絡しておいた。おそらくあれは人の魂が入っていた』だのと確証のない物ばかりなのだ。


 それはそのはずだった。

 多くの人は光水電池を憎み、それで動く製品の全てを捨ててしまっていたのだから。

 心霊カメラで見る事ができなければ、そこに誰の魂が浮かんでいるのかいないのか、そんな事が分かるはずもなかった。


 けれどシタは、カカは本体で逃げているだろうと踏んでいる。

 それは体を預けるほど信用できる相手がいないからだ。

 だったらバレようが見つかろうが騒ぎになろうが、自分の体を引っ提げて逃げるしかない。


 そうして町を駆けずり回り、陽が傾き始めるころにはかなりの証言が集まった。


『カカに似ている、本人だと言われて暴行を受けた人が病院に運ばれていくのを見た』

『俺がカカだ。文句のある奴は堂々と言いやがれ、と怒鳴っているアバターを見た』

『カカを泊めているというホテルの従業員を知っている』


 人間たちからはそんな情報が寄せられたが、どれも本物のカカではなかった。

 人間の情報なんてこんなものだ。

 気を取り直してシタは動物たちに聞き込みをする。


『カカのニオイのするタオルを拾った』

『公園で撫でてくれた男がその写真に似ていた』

『その男が橋の下で寝床を探しているのを見かけた』


 打って変わって動物たちの証言は、カカがこの町に来た事を証明する有益なものだった。

 本当に生き物たちは役に立つな、とシタは情報料のクッキーを支払いながら思う。


 カカは間違いいなくこの町にいる。

 シタは期待をしながら探すが、一向に手掛かりを掴めないままトップリと陽が暮れてしまう。


 野良猫たちの話によると、カカは変装をしているようなのだが、その証言が坊主だったりロングヘア―にキャップだったりと一定しないのだ。

 さらにはマスクやサングラスをかけ替えたりしてもいるようで、足取りは掴めない。


 途中でボスから連絡が入ったが、ボスもポ助も空振りだったそうだ。二匹はもう少し捜索範囲を広げると言っていた。


 すると、夜に紛れてしまいそうな一匹の黒い子猫がシタの前に現れた。

 その子猫はじっとシタを見上げてから、ひと鳴きして走り出す。

 その様子に何かあると思ったシタは後を追うが、連れて行かれた先の公園で見たのは、寝袋を取り合うホームレスと思しき三人のお爺さんだった。

 シタは三人に少額の札を差し出しながら「こんばんは」と声を掛ける。


「何だい、兄さん」

「バカにするだけなら帰ってくれ」

「俺たちゃぁ今それどころじゃねぇんだ」

 三人は口々に言った。


「その寝袋の事でお伺いしたい事がありまして。それを使っていたのは若い男じゃありませんでしたか?」

 シタが聞くと、男たちは取り合う手を止めて顔を見合わせる。

「友人かも知れないんです」

 シタのその一言が効いたのか、男の一人が「カツラを被った若い男だった」と言う。


 そして他の男たちも「写真を撮られて慌てて逃げて行った」とか「人違いだと騒いでいた」と言い出したのだ。

「その男、どっちへ行ったか分かりますか?」

「駅の裏口の方だ」

「ありがとうございます」

 シタはそれを聞くなり、カカが走ったと思われる道を辿った。


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