カカの書塔 五
考えるよりも、シタは急いで車を降りた。
するとそこへ走り込んでくるカメラマンとアナウンサーたち。それは一組だけではなく、シタを囲んだのはテレビマンたちだけではなかった。
動画配信をする若者たち、そういう手合いがテントからウゾウゾと這い出てくる。
「すみません! シタさんですよね⁉」
「今回の事件について一言お願いします!」
「逃亡中の塔の店主についてどう思われますか?」
「今日はどのような用事でこちらに?」
他人を押しのけ、我先にと開かれる口。いい画がとれるまでは行かせるものかと行く手を塞ぐ彼らに、シタは「退け」と吐いた言葉の棘を拭いきれなかった。
そんな言葉さえ、彼らにとってはいい画になるのだけれど。
そこへカラスの一団が空から現れ、彼らの構えるケータイやカメラを攻撃し始めた。
その隙にと階段を駆け上がるシタを笑いながら追いかけてきた奴らもいたけれど、なぜか階段を半分まで来たところで急に立ち止まり、首を傾げて降り始めたのだ。
「これは、どういう事だ?」
シタが呟くと、ポ助は「いつもの事なんだ」と答える。
その言葉を証明するように、階段を上りきった敷地内は静かだった。色づきはじめた紅葉にカラスたちが遊び、見知らぬ犬が渡り廊下で昼寝をする。
失せ物探し屋の看板はいつものように出ていて、洗濯物もいつものように干されている。
「ここだけ静かだよなぁ」
急に肩にとまったカラスが話しかける。
「ボス。久しぶりだな。会話の首輪はウナがつけたのか?」
「あぁ。これがないと不便だからな。退院おめでとう、って空気でもねぇか?」
「そうだな。ウナの護衛をしてくれてるんだって? ありがとう」
「気にすんなって。お前も俺の群れの一員みたいなもんだからよ」
そう言ってボスはカァ、カァと笑った。
そうして突っ立っていると、ガチャっと塔の戸が開いた。中から出てきたウナはずいぶんと不安そうな顔で、シタを見つけると泣きながら走り寄ってくる。
「ごめんなさい……退院したばかりで、でも私……頼れる人が他にいなくて」
「気にするな。具合が悪くて入院が長引いた訳ではないのだからな」
「ありがとう……。あの、依頼を受けてくれる?」
「もちろんだ。どんな依頼でも受けるよ」
「お願い。カカを探して」
ウナはシタの服の袖にしがみ付いて、震えながら言った。
シタは、二人は両想いだったんじゃないかなどと考え、思わず微笑んでしまう。
「ボス、ポ助。頼めるか?」
シタが言うと、二人は「まかせろ」と言って胸を張る。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「あぁ、それから……」
そうして塔を出たシタの車の後を数台の車が追跡してきていたが、カラスの大群に囲まれ動けなくなっていた。
ポ助は助手席だ。ここだけは誰にも譲らないと言いながら、暢気に毛づくろいをしている。
「なぁ、シタ。さっき何の本を借りたんだ?」
「あぁ、これか。最終巻だ」
シタはウナから借りてきた最終巻を取り出し、ポ助に見せる。
「カカを探しに行くんだろう? なんで本なんか持ってきたんだよ?」
「いるかもしれないだろう。備えあれば患いなしだ」
「ふぅん。で、どこから探すつもりなんだ?」
「まずは人のいない所をポ助とボスに手分けして探してもらうつもりだ。私は町の中を当たってみる」
「了解。俺からの連絡は猫かカラスだ」
「分かった。ポ助は三つほど廃村をまわって欲しい。一つ目はそこの駅から奥に見える太鼓橋を渡ってすぐの山の中だ。あとは地図に書いといたから」
「おぅ。じゃあ行って来るわ」
橋の手前で車を停めると、ポ助は勢いよく走り出て行った。
ボスには海沿いの町を探してもらうように頼んである。
これであとカカが逃げそうなのは、漫画喫茶にビジネスホテル、カラオケ店くらいか。
そんな事を考えていると、さっそくネットにカカの目撃情報が載っていた。
『〇〇町のコンビニで本人らしい人物を発見!』
しかし載った瞬間から情報が削除されていくのは、多少なりとも書塔の恩恵なのだろうか?
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