不自由な僕らは 二
二人がグズグズとそんな話をしていると、花を抱えたウナが帰って来た。
「あ、シタさん。来てたんだ。はい、これ。花立て洗ってきて」
グダグダとしていたシタたちに比べ、ウナはてきぱきと掃除を始める。
その様子は、やはりどこか元気がないように見えた。
それから帰りは、三人で体を置いておけるような場所を探しながら町を歩く。
「シタさん、どうして来るまで来てくれなかったんですか」
カカが息を切らしながら文句を言う。
「こんな彼岸の初日に、墓に車で来るわけないだろう。見ろ、大渋滞だ」
墓の小さな駐車場からは、空き待ちの列がズラリと表通りまで続いている。
「漫画喫茶とかにしたら?」
ウナが提案する。
「あそこはダメだ。体の置き去りお断りって張り紙がしてあるからな。ちなみにカラオケも、バレたら警察を呼ばれるそうだ」
「全然ダメじゃないですかぁ」
確かにアバター利用のための専用施設はある。しかしそういう所は看護師を常駐させているために値段が高いのだ。
シタたちの安月給で利用できるような所ではない。
「うちの事務所でもいいんだが、クーラーが壊れていてな」
「あぁ、それは怖いですね。起きてるなら別にいいんですけど、もし寝ている間に熱中症にでもなったら」
カカが汗の止まらない頭を抱えると、ウナが「やっぱり塔しかないんじゃない?」と言った。
そういう訳で、結局は書塔のいつものソファーで仲良く眠る事にしたのだ。
トイに言われた通り二冊を開いて重ね、それを読む。
三人で順に読んでいき、シタが最後に眠りに落ちた。
「やぁ、来たね」
そこは天狗の持っているアレのような大きな葉の茂る、ジャングルと呼んで差し支えないような場所だった。
こんな場所にも、彗星石は生えている。地面からグッと突き出し幹を割り、青々とした草木の間からその黒く異質な顔を覗かせている。ある物は当たりの木々よりずっと高く伸び、まるで遺跡のようだ。
そこにトイは立っている。
腰のベルトにフリーズドをしっかりと装着して、反対側には小刀、手には長めの杖といった出で立ちだ。
顔はどの本のトイも同じ三十八歳だけれど、格好だけ見れば今回はだいぶ若い印象を受ける。
横には、先に来ていたカカとウナもいる。
「今日は初めから何もかも話してしまおうと思ってね。彗星石がこの星にやって来たところから何もかも」
そう言ってからトイは頭上を見上げ「ちょっと待ってね」と言ってフリーズドを構えた。
空からやって来るのは、ブーンと振動するような音をさせて飛ぶ大きな青色の鳥だ。
「あれは?」
「機械で作った鳥だよ」
シタの質問に、トイはフリーズドを撃ちながら答える。
あっという間に凍った機械鳥は、ガシャンと無残な音をさせて落ちた。体の中から出てきたのは赤く滴る血肉ではなく、彗星石を内蔵した機械だった。
「僕の生きた文明はね、けっこう科学が発展していたんだ。このフリーズドもそうだし、宇宙船なんて物も作った」
「宇宙船ですか⁉ 宇宙に行ったんですか⁉」
シタの話にカカが食いつく。
今の文明が始まって以降、宇宙への進出は人類の禁忌とされているのだ。
「行った人もいたよ」
するとトイは一呼吸おいて「彗星石を地球に持ち込んだのは僕の父なんだ」と呟く。
「父はね、宇宙ステーションに住み込んで彗星に探査機を飛ばした。何度も何度も失敗して、ようやく成功したんだ」
持ち帰った彗星石はほんのひと欠片だった。それが日ごとに大きくなるので研究者たちは喜んで、小さく砕いては様々な機関で研究が進められた。
砕かれた欠片はまた大きくなり、やがて誰かが『彗星石は繁殖を繰り返している』と言い出したのだ。
それがあって、研究者たちは自分も新たな発見をしようと躍起になった。
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