カラスの依頼 六
「あの社長は知っていて救急車を呼んだのだろうな。もし間に合わずに病院に着いていたら、私の体はどうなっていただろう」
登山道を上りながら、シタは何度目になるか分からない質問をボスにする。
「間に合ったんだから良かったじゃねぇか」
「あぁ、そうだな。本当に助かったよ。ありがとう」
「いいって事よ! お前は群れの奴を助けてくれるために頑張ったんだからよ!」
「しかし、そいつは人間だぞ」
「それにしても、俺の群れのカラスに違いねぇ」
ボスはカァ、カァ、と高らかに笑った。
「ボスはいい奴だなぁ」
そんな話をしながら息も切れ切れに登っていると、すれ違う登山客が珍しい物でも見るように自分を見ている事に、シタは気付いた。
そうして思い出したのだ。自分の姿を。
首から猫のゆるキャラの手拭いを掛け、アバターの子猫を大事そうに抱きかかえ、肩に乗せたカラスと話しながら山道を登るスーツの男。
いつもの事か、と心の中で自分を笑いながら東屋に着くと、カイらしきカラスが落ち着かない様子で待っていた。
「依頼を達成しましたよ。証拠品はこのアバターの腹の中にあります。アバターごと差し上げますので、こちらに移って下さい」
シタの言葉に従って、カイはカラスからふわりと飛び出し子猫アバターの中に入った。
「あ、ありがとうございます。なんとお礼を申し上げて良いのやら。ところで、証拠品とはどのような物なのでしょうか?」
「裏従業員名簿です。進捗報告書もありましたよ」
シタが告げると「ヒヤァ!」とカイは悲鳴をあげる。
「その子猫のアバターは侵入した時と毛色を変えてありますので、決して白猫にはしないように。それから、あなたの体ですけどね、彼女さんが守ってくれているようですよ」
「ほ、本当ですか⁉」
カイは飛び上がるほど喜んだ。そうして何度も何度もシタやボスや、体を間借りさせてくれたカラスたちにお礼を言って山を下りていった。
探偵事務所の窓から大量の木の実が依頼料として放り込まれたのは、数日後の事だった。
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