第五十九話 DIE & BERTH
「…………ぷはっ!? はっ……はぁ、夢か?」
夢の中で恐怖に見舞われてマオはベッドから飛び起きると荒い息使いで周囲を確認する。
そこは見馴れた自分の部屋の中。
丁度、同じタイミングで時計のアラームが鳴ったので直ぐに止めて見せる。
「……まーにぃ、起きて……るじゃん!? どうしたの汗びっしょりで……変な夢でも見たの?」
今日から学校は二学期となり、いつものようにマオを起こしに入ってきた妹ミヤビが驚く。
クーラー完備の部屋だが、マオのパジャマやシーツやしっとりと濡れていた。
「まさから、その年でおねしょ?!」
「暑かったからだよ!? 夢でさぁ……ゆめで…………夢って、何見たんだっけ?」
どうして自分はこんなにも焦っているのか、何に恐怖しているのか。
覚えていたはずの夢の記憶がどんなものだったのかマオは忘れてしまっている。
ふと、顔に違和感があったので触れてみると涙で頬が濡れていた。
「覚えてないなら、大した事じゃないんでしょ? コワイ夢なら覚えてても良いことないよ」
「そうなのかなぁ……」
「…………」
何の夢を見ていたのか考え込むマオ。
そんな姿をミヤビは黙ってじっと見つめる。
「どうした?」
「まーにぃ、なんか背伸びた? ちょっと立って」
汗だくの兄を立たせるとミヤビは隣に立つ。
小学六年生から変わらないマオの背丈は、ミヤビよりも小さかった。
少なくとも今年の春には拳一つ分の差があったはずだが、それが今並んでみるとマオとミヤビの身長は同じぐらいなっていた。
「セネス病が治ったお陰かな?」
マオはミヤビの頬を両手で掴む。
「んなっ……まっま、まーにぃ?!」
「わかったことがあるんだ。問題なのは“意識”しないこと」
「……い、意識?」
「そうなんだ。簡単なことだったのさ。ミヤビは僕の“妹”だろ? そういう目で見るからダメなんだ」
「…………え?」
嬉しそうに話すマオの言葉にミヤビの表情は冷たく固まる。
「セネス病だから余計にそういうアレなことを思い込みすぎだ。でも、前に貰った薬が効いたのかな、つまり性的な欲がなくなったってコト。これで僕も普通の生活に……!」
バッチン。
痛烈な張り手が頬にクリーンヒットし、マオはベッドに沈んだ。
ミヤビは何も言わずにマオの部屋を出ていった。
「……………………う、へぇ??」
◇◆◇◆◇
朝食を済ませるとミヤビは何も言わずに支度して家を出た。
「マー君、今朝はミャーと喧嘩した?」
食器を洗いながら母メイコは居間で朝のニュースを見ているマオに尋ねた。
「何なんですかねぇ。思春期特有のアレだよ、アレ!」
「難しい年頃なんだから変に刺激しちゃダメよ?」
「ふぁーい……」
麦茶を飲みつつ時計を見るマオ。
「……家族か」
いつもならレフィとミツキが迎えに来る時間だが、二人とも現れる様子がない。
「……ま、いいや。一人で学校行ってみますか」
仕度をしてマオは玄関に向かった。
「じゃ行ってきます!」
元気よくドアを開けて外の世界へ飛び出すマオ。
その視界が急に歪みだし、いつの間にか暗闇に閉ざされてしまった。
◇◆◇◆◇
暗転からの復帰。
「…………え?」
マオは何をされたのか分からなかった。
気付けばそこは“魔王”のコクピット。制服姿だが持っていたはずの学生カバンは何処にもない。
そして、正面。
マオの“魔王”と対峙する奇怪な巨大人型のマシン。
屈強な体躯に頭部から二本の角が生えた“竜”のようなマシンは、何故か右腕が無かった。
「マオ」
「その声は、ミツキか?! なんで、そんな……て言うか僕もどうして」
「マオ……貴方は何もかも遅すぎたの。もっと早くに“合体”していればこんなことにはならなかったのに」
右手のない“竜”から不穏な声でミツキは言う。
「この“ダイ・バース”が人類の種を絶ち切る。もう人々が合体する必要なんてない」
「何を言ってるんだよミツキ!? もっと、わかるように説明しろ!」
「…………ズルいんだよ、マオは」
ミツキの“ダイ・バース”は、その鈍重そうな見た目とは違って軽やかな動きで翔び上がり、マオの“魔王”へと迫る。
「ねぇ、マオ……」
一呼吸置いて、ミツキは今まで心の内に仕舞い込んでいた言葉をマオに向けて言った。
「マオは“私と合体”したい?」
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