第五十八話 最後の晩餐
日が暮れて夜。
せっかくのプールが台無しになってしまったマオ達六人。
途中で『これから用事がある』からとミツキを降ろしたあと、一同は買い物をしにスーパーに寄って大量の食材を買って真宮家に帰ってきた。
「さぁ出来たわ! 皆もジャンジャン食べなさい?」
エプロンに着替えたメイコは車から荷物を持ち込むと皆に料理を振る舞う。
台所の食卓ではなく広い客間の和室に座って待つマオ達の前には和洋中、様々な料理がテーブルの上に次々と並べられる。
「そう言えば昼メシ食い損なってたなァ」
「レフィ、お腹すいた」
「僕、食べられないんだけど……?」
「マオちゃん好き嫌いあるの? ドレドレ?!」
「いや……これ」
マオは包帯で固められフォークも持てない両手を見せる。
打撲と骨折が酷く、治るのは少なくとも夏休みが終わるまではずっとこの状態だ。
「マミヤン、人間には215本も骨があるんだ。十本ぐらいなんだよ」
「割りと致命傷なんだよなぁ……」
「マオ君、レフィがアーンしてあげる」
「レフィちゃんズルいぞ! ボクもマオちゃんにアーンするっ!」
マオの左右からレフィとトウカがハンバーグと肉団子を口に押し付け合う。
その様子を台所から覗くメイコはうんうんと頷いていた。
「やっぱ、若いっていいわねぇ。まだまだ作るからね?」
「……ママ、こんなにあっても食べられないよ!」
「何言ってるのよ、十代でしょ? これぐらい食べられなくてどうするの?」
ドンッ、と揚げたてのカラアゲが盛られた皿を置いてメイコも食卓に座る。
その正面にいるマオをじっと見つめる。
「しっかり食べときなさいよマーくん。これからの戦いに備えて、ね?」
「むぅ……戦い?」
その言葉にレフィが反応する。
「あの軍用マシン、Usaの作ったアモン量産型」
「レフィちゃん、貴方はUsaコーポレーションの社長令嬢だったわね」
「うん、元。今のレフィとは何も関係ない」
顔色ひとつ変えずにレフィは言って見せる。
「そっか……なら、話すけどUsaは既にある男によって掌握されている。その男の名は」
「ムリョウ」
その名をマオが言うと一同は静まり返る。
「奴はまだ生きてる。ムリョウが攻めてくるんでしょ? 僕はアイツに見せられたんだ。このセネス病のことを」
正直、マオはまだ信じられなかった。
この奇病が本当に呪いの類いで、現代医療では絶対に治せないものなのか。
ムリョウが何故この“ビジョン”を見せたのか真相を知りたかった。
「そうね……じゃあ言うけど私もセネス病よ?」
「ま、ママっ?! それは本当なの!?」
驚くミヤビはメイコの肩に触れようとしかけた。
ついさっきまでは何となくスキンシップで触っていたのに、メイコがセネス病と聞くや否やそれを憚れた。
「別に触ってもいいのよ? すっごく我慢してるだけだから」
「……ママ」
出しかけた右手をミヤビを胸の前で握り締めた。
「ムリョウに触ったからか?」
「マーくん。お父さんを呼び捨てするもんじゃないわよ」
「お父さん……あれが僕の父親だって?」
マオの顔がドンドン険しくなる。
「アイツは父なんかじゃない! アイツは僕の……っ!」
マオの言葉を遮るようにレフィはシワが寄るマオの眉間を指でコチョコチョと擦ってやる。
「や、止めてよレフィ」
「マオ君ディナー中にコワイ顔ダメ」
「中々良いこと言うじゃないレフィちゃん。食事は楽しくなくちゃ」
「食事中にする変な話を振ってくる方が……もがっ?!」
レフィによって口の中にカラアゲを放り込まれ黙らせられるマオ。
醤油とニンニクが効いた味の濃い味付けは、直ぐにご飯が欲しくなる絶品のカラアゲだった。
「あんな人のいる所にロボットで襲うなんて、まったく正気じゃないよねマオちゃん!?」
「怪獣で暴れたオメーが言うなッ!!」
ゴチン、とトウカの頭にげんこつを食らわせるアユム。
「そんなわけだから、頑張るんだよマー君」
◇◆◇◆◇
午後十一時過ぎ。
食事がその後はプールで遊べなかった時間を取り戻すためにゲーム大会が始まる。
散々、遊び飲み食い歌い、疲れ果てたマオ達はそのまま和室の部屋で雑魚寝してしまった。
「……で、どうなのミャー」
台所に二人並んで洗い物をしながらメイコはミヤビに尋ねた。
「マー君に実の妹じゃないって言っちゃえばいいのに」
「だから、いいって言ってるじゃん……」
メイコの言葉をミヤビは洗い物を続けながら顔をしかめる。
そもそもミヤビが真宮家にやって来た本当の理由は、当時の戦いで記憶喪失となったマオの世話係だけではない。
「そりゃママにも事情があった。どうしても子供が欲しかったけど相手がいなかった。だから優秀な精子を買ってミヤビを産んだ」
「……うん、知ってる」
「でも一人で育てるのは大変でさぁ、そんなところにムリョウさんが現れたわけなのよ。昔のムリョウさんはカッコよかった。あたしに無いものを沢山持っててさ。でもね、このセネス病を移されてしまった。ムリョウさんとの子を作るどころじゃなくなったよ」
タオルで手を拭いたメイコはミヤビを後ろから抱き締める。
するとメイコの白い手が段々と赤くなっていく
「愛娘を抱き締めるのだって辛いんだ」
「なら、しなきゃいいじゃん」
「だからね、ミヤビも……そうしない?」
「……どういうこと?」
「マー君と居ればミヤビもセネス病になってしまうかも知れない」
「ずっと、私をこの家に放置しておいてよく言うよ」
「仕方ないじゃない。あたしはね、こんな身体にしたムリョウさんを……殺さないといけない」
耳元で囁かれる物騒な言葉。
ミヤビはそっとメイコの身体を剥がした。
「マー君と、そう言うことしてないわよね?」
「……」
「好きなんでしょ?」
ミヤビもタオルで自分の手を拭くと、少し考えてメイコに笑顔で言った。
「好きだよ。でも私は真宮雅。真宮眞央の妹だよ、これからもずっと……だから、この関係で良いの」
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