第五十七話 母と娘
その光景はまるで漫画かアニメでも見ているかのようだ、とマオとミツキは間近で感じていた。
「ふしゅうぅぅぅぅ……はぁぁっ……」
深い呼吸で気持ちを集中させ、一撃に込める。
「……ほはぁっ!!!!」
電光石火のスピードで巨大な軍用ロボット、量産型アモンに接近する。
奇声が上がった瞬間、量産型アモンの装甲がセレブ美女から繰り出される正拳突きで大穴が空けられる。
中のパイロットは衝撃で気絶。
機体も機能停止した。
「さっ、次……ッ!!」
後から加勢にやって来たもう一機の量産型アモンが両腕のマシンガンで水着美女を撃つ。
ズガガガガ、と床がくだける音を背後に聞きながら水着美女は量産型アモンに向かい高速で駆け抜ける。
高く跳躍するセレブ美女が蹴りが量産型アモンの頭部を吹き飛ばす。
更に飛んでいる状態から連続し、前方宙返りからの踵落としが決まる。
量産型アモンはバラバラになって地面に沈んだ。
「蝶のよう舞い、ゴリラのように殴り飛ばす……」
ボロボロの身体をミツキに抱き抱えられながら、思わずそんな感想が口から出たマオ。
セレブ美女は崩れた量産型アモンの割れた装甲からコクピットで気絶するパイロットを引きずり出す。
「飼い主に伝えろ。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて冥土に逝け」
「……お、女の人、後ろですっ!!」
何かに気付いてミツキが叫ぶ。
セレブ美女の遥か後方から、物陰に隠れてマシンガンで狙う量産型アモン。
ドラムのような発砲音が鳴り響く。
「日本人は馬に蹴られるとメイド喫茶に行く?」
間一髪。セレブ美女を守るように空から現れたレフィの侍マシン、ザエモン。
堅牢な鎧で弾丸を意に介せず、自機に似た量産型アモンを長刀で両断した。
真ん中より少し斜めにズレた為、コクピットはギリギリ外れている。
「……惜しい」
量産型アモンの胸部の中央に彫られたマークを睨み、レフィは本気でそう思っていた。
◇◆◇◆◇
謎のセレブ美女の正体。
その名前は真宮命子(マミヤ・メイコ)。
ミヤビの実の母であった。
メイコの運転で高速道路を走る黒の大型ワゴン車。
助手席にはミツキの手当てで両手を包帯でグルグル巻きにされたマオが、ぐったりとして寝息を立てている。
「ママ……どうして帰ってきたの?」
後部座席のミヤビが言う。
「どうしてって愛しい娘に会うのがいけない?」
「だって、今年は一度も連絡くれなかったよ……」
「そういうことだってあるわよぉ」
悲しげなミヤビに対して、メイコはおどけたような口調で言う。
車内が重い空気に包まれる。
「むぅ……メイコ、何者?」
「赤毛のお嬢さん」
「レフィはレフィ」
「じゃあレフィちゃん、良いこと教えてあげるわ。素敵な女ってのはミステリアスであることよ。探るのは野暮ってものよ」
謎の持論を展開するメイコ。
「そ、それにしても、まさか素手でロボットを倒すなんて!」
流れを変えようとアユムがメイコを持ち上げる。
「昔から色んな武道を嗜んでた。道場破りを殺ってたこともあったっけ……でもこの力を貰ったは最近よ? 貰ったというか感染(うつ)されたっていうか」
「まさか……メイコさんもセネス病を?」
「…………」
ミツキが質問するがメイコはそれについて答えなかった。
「うーん、よくわかんないスけど、さすが真宮君のお母さん、スゴいっすね!?」
「……ん? 真宮君? いま“くん”って言った?」
トウコの言葉が引っ掛かり、メイコは聞き返す。
「私はこの子を……」
「アァァーッ!!」
メイコの台詞を遮るようにミヤビが叫んだ。
「び、びっくりしたぁ! いきなり何叫んでるのさ?」
眠りかかっていたトウカは飛び起きた反動で、天井にぶつけた頭を擦りながら言った。
「しまった……まぁにぃ起きちゃった?」
ミヤビに言われミツキがマオの頬をつついて確認する。
どうやら、まだ眠っているみたいでミヤビは安心した。
「ミヤ」
「ママは黙ってて。絶対に言わないでよね」
「……はいはい」
「皆も今の事は忘れて!!」
スゴい剣幕で全員を睨むミヤビ。
ただならぬムードにぴりつく車は真芯市内にようやく到着。
話題変更を失敗してしまったことにアユムは深く反省した。
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