第五十六話 その美女、拳で語る

「……軍用機.、量産型アモン」


 騒ぎの見える近くまで駆け出したレフィが呟く。

 周りの被害などお構いなしにプール内を闊歩する全長9メートルの人型兵器。その数、三機。

 丸いスコープやセンサーの類いで飾られた頭部。

 厚い角張ったグレーの装甲で覆われている全体的に無機質な印象の機体。

 一部パーツのデザインはレフィの機体ザエモンと酷似していた。



「オイオイオイ、なんだよありゃァ?!」

「映画の撮影……にしては、みんな迫真の演技だね?」

「ダイダイ! お前まだ何か企んでるだろ!?」


 トウカの胸ぐらを掴み詰め寄るアユム。


「まさか。ボクよりもレフィちゃん方が知ってそうだよ?」


 掴まれていることには意に返さずらトウカはレフィに視線を向ける。

 トウカの言う通り、量産型アモンと呼んだロボットを見るレフィの表情は怒りに満ちていた。


「どこに行くレフィッ?!」

「あの軍用機は、レフィがやっつける……!」


 ザエモンを呼び出すための刀を取りに、レフィは更衣室の方まで走りさった。


「……まぁにぃ、みゃー怖いっ!」


 マオに抱き付くミヤビ。

 何故、軍隊のロボットがレジャー施設なんかに現れたのか理解できなかった。

 今のところ人に危害を加える様子は無さそうで、何かを探しているのか量産型アモンたちの視線は下を向いている。

 すると三機の内の一体が、道の真ん中で逃げずに言い争っていたマオ達を発見する。


「……もしかして、アタシたちのことを見てない?」

「こ、こっち来てるよ?!」

「マオっ!?」


 ミツキがマオの肩を掴む

 マオは逃げないわけではなかった。

 この状況を打破する為には“魔王”を呼び出せばいい。

 しかし、ムリョウとの戦い以来、マオの中で“魔王”という存在に恐怖していた。

 ムリョウに見せられた過去の記憶の続きを知ってしまえば、ミツキ達を“死なせてしまう”からだ。


「……でも、今の僕に出来ることは!」


 マオは迫り来る量産型アモンに向かって走り出した。


「ま、まぁーにぃ!? なんでそっちに行くのっ?!」

「止めとけマミヤン! 人間がロボットに勝てるわけねェだろ!!」

「そんなの……やってみなけりゃわからないだろぉぉッ!?」


 雄叫びを上げながらマオは量産型アモンに飛び掛かった。


 カンッ。


 量産型アモンの脚部にマオの拳の一撃が響いた。


 カンッ。

 コンッ。

 ゴンッ。


 何度も何度も殴り続けるが量産型アモンの装甲に僅かな傷を付けるだけで、マオの手が腫れて血が吹き出す。

 量産型アモンは軽く足を振ってマオをプールに蹴り飛ばした。


「ぷはっ!? ……く、くそぉ…………うわぁぁぁぁッ!!」


 マオは果敢にも量産型アモンを止めようと脚部にへばりつく。


 バン。

 ガンッ。

 ドンッ。


 だが小学生レベルの非力なマオでは巨大な鉄の塊を止められるわけがなかった。


「一体、何をやってんだよマミヤンは?!」

「君は知らないのかい、マオちゃんのセネス病の副反応を」

「……身体能力の異常な向上、だよね?」


 困惑するアユムと、トウカの問いに答えるミツキ。


「そそそ。マオちゃんは今、その力を引き出そうとしている」

「でも……まぁにぃのそれって病気が起こらないと出せないんじゃ?」


 心配そうに見つめるミヤビだったが、マオは無謀にも量産型アモンに挑み続けていた。


「止めてマオっ!! そんなのこと、マオが死んじゃう!!」


 見かねたミツキが遂に飛び出した。

 接近する人影に反応して量産型アモンは右腕を掲げる。

 袖部分の銃口がミツキを狙う。


「は……ミツキちゃん?!」


 手がボロホロのマオも駆け出すが、発砲からとても間に合う距離ではない。

 互いに手を伸ばすミツキとマオ。

 誰もが諦めかけた、その時だった。


「見ちゃいられないわね」


 二人まとめて撃ち抜こうとする量産型アモンの右腕が突然、現れた一人の女性によって砕かれた。

 風に舞う長い髪を靡かせるその女性は先程、マオたちがすれ違ったセレブ風の美女だった。

 そんな彼女を見て驚いたミヤビが叫ぶ。


「……ママッ!?」

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