第五十五話 プールを楽しもう
「レフィ、スライダー乗りたい!」
「ねぇマオちゃん。ボクたちはあっちの流れるプール行こうよ」
「ダメぇ! まーにぃはみゃーとこっちで泳ぎの特訓するの!」
三人の少女たちに引っ張られて困惑するマオ。
生まれて初めての巨大プールにマオもパンフレットを見ながらどこに行こうか前日から楽しみにしていたのだ。
しかし、男子一人に女子五人である。
発言権を与えては貰えないマオだった。
「おいオマエら! あっちこっち行くんじゃねえ! 団体行動ってモンを知らないのかッ!?」
「マオ、水分補給はしっかりね」
「はぁ……勘弁してくれよ」
テレビや雑誌でも特集される日本最大級のアミューズメントプール。
夏の一番人気施設と言われるだけあって、少し見て回るだけでも様々なアスレチックが満載でどこで遊ぶか悩んでしまう。
皆、思い思いに行きたい場所を提案する意見が纏まらない。
別行動して迷っては大変だ、と園内マップで吟味しながら奔走する六人であった。
◇◆◇◆◇
「……いえーい!」
「ちょっ、レフィ! 揺らすんじゃェ!!」
「回るぅぅぅ! 世界が、ボクを中心にぃぃぃ!」
メカシマビッグ海水プール名物のウォータースライダー。
竜巻のように渦を巻いたスライダーの姿から名付けられた、その名もサイクロンエクストリーム。
高さ30メートルで長さは500メートル。
水が勢いよく流れる急激な坂を下りながら、グルグルと回転する六人乗りのゴームボート。
執拗に曲がりくねったパイプ状のトンネルの中で壁に何度もぶつかり合いながらをボートは滑走していく。
「ま、マオーっ?!」
「まーにぃぃ!!」
「僕に抱きつくな!! おぉっ、おちち、落ちるーっ?!」
ざっぱーん。
激しい水飛沫を上げながら下層のプールにゴールした6人だったが、マオだけがボートから投げ出されて水の中に沈む。
(……私が守る、とはなんだったのか?)
◇◆◇◆◇
正午、ランチタイム。
売店コーナーにやって来た一同は大きなパラソルの付いたテーブルへ各自座る。
疲れから椅子に座るなりボーッと辺りを見つめるマオ。
ふと目の前を通り過ぎた家族が気になった。
親子四人で仲良く談笑しながら次はどこに行こう、と楽しそうな雰囲気にマオは羨ましく思えた。
「家族っていいよな、ミツキ」
「……そう、だね。うん良いものだよ」
マオの前の席に座るミツキが言った。
「僕、何な間違ったことしたのかな」
「マオは何も気にしなくていいんたよ。だって、 マオは……」
ミツキが何かを言いかけたその時、マオの座る椅子に女性がぶつかった。
「ごめんなさい。ドリンクとお財布で手が塞がってたもので……」
「あっ、大丈夫ですよ」
鍔の広い真っ白な帽子に金縁のサングラス。
かなりスタイルのいい大人の雰囲気を醸し出すその女性は、まるでハリウッドセレブかと思うぐらい気品に満ちていたセレブ風の美女だ。
女性は軽く会釈するそのまま何処かへ消えていく。
「……マオ、あぁ言うのがタイプなんだ」
ジト目でマオを睨むミツキ。
「は、はぁっ?! そんなんじゃないよ!」
「うーん、あれは三十……半ばか後半ぐらいだなァ」
「……マオちゃん熟女好き?」
「みゃー、ジュクジョってなに?」
「スッゴい年上の女の人のことだよ」
「だから違うんだって……」
必死になって否定するマオをからかう一同。
「ははは、それより腹へったよなァ。メシ、なに食うべ?」
「みゃーはコーラフロートのLサイズ」
「レフィ、宇治金時抹茶」
「ボクはトリプルチーズバーガー、ピクルス抜きで」
「メシだっつってんだろォ!? あとダイダイ、オマエは自分で払え」
トウカ──橙花の名の橙(ダイダイ)色から付けたアダ名──にだけ厳しく当たるアユム。
先日の戦いのあと、トウカはマオの父ムリョウによって住まわされていたマンションを追い出され真宮家に転がり込んできた。
今まで敵としてマオ達の前に立ちはだかったトウカを簡単には許せるはずもなく、本来なら然るべきところへ送ってしまうのが正しいのだが、今の驚異であるムリョウがまた何かを仕掛けて来るかもしれない。
そう考えたマオはトウカを仲間に引き入れるのだった。
しかし、流石に真宮家に他人を住まわせるのは気が引けるのでレフィの家に居候することになった。
「ったくよ……マミヤンとミツキィは? 奢るよ」
「あぁー僕は、お好み焼き」
パッと目に入った店のを選ぶ。
頭にタオルを巻いた男性店員が、馴れた手つきでお好み焼きを一度に十個も焼き始める。
人気店なのか既に数人の行列が出来ていた。
鉄板で焼けたソースの香りが風に乗って数メートル先のマオ達まで届いてくるようで腹の虫が空腹を知らせた。
「私もマオと同じのでいいよ」
「あいよ。アタシもそれにしようかな?」
購入をアユムに任せて席で待っているマオ達だったが、事件は唐突に起こった。
突然、園内を激しい爆発と悲鳴が響き渡る。
「なんだよ、あれは?」
マオ達が見たのは看板や植林を踏み潰しながら無理矢理、突き進もうとする人型兵器の姿だった。
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