第五十四話 プールに行こう
現代の8月。
「やって来たぜ! メカシマビック海水プールゥーッ!!」
真夏の暑さに負けないぐらいのテンションでアユムは叫んだ。
真芯駅から直通の高速バスに乗って約一時間。
マオ、ミヤビ、ミツキ、レフィ、アユムの五人がやって来たのは、中京地区で一番有名な複合型の巨大アミューズメントパークだ。
ジェットコースター日本一の台数を誇る遊園地やアウトレットパーク、日帰り温泉もあるホテルなど様々な施設やアトラクションが楽しめ、夏シーズンには海水プールも開業される。
「スライダーに乗りたい。でもレフィ、実は泳げない」
「それだったら大丈夫だよ、ミャーがみっちり教えてあげるから!」
「おっ? 気合い入ってるな妹ォ!」
「……」
「……」
プール入り口ゲート前。
妙にハイテンションな三人に対して、マオとミツキは朝からずっと低調子だ。
浮かない顔で、視線もどこか遠くの方を見詰めている。
「まーにぃ、泳げないんだよ?」
「馬鹿っ! 言うなよ、みゃー!」
「意外……でもないよなァ?」
「だから今日はまーにぃを泳げるようにするのが一つの目標なのです」
言ってやった顔のミヤビを睨むマオ。
人と接触できないセネス病であるため、プールなんてものはもってのほかだった。
直接的な肌と肌の触れあいがもっとも危険であるため、学校の水泳の授業も全て休んだ。
なので、泳ぐと言う行為が何気に初体験でもあった。
「昼前だけど流石に混んでるなァ? ほら、早く行こうぜミツキィ!」
「あ、うん……」
「まーにぃ男子一人なんだから先に水着に着替えて待っててよね?!」
「あとマオ君は浮き輪膨らませ係」
「……お、おう」
五人は特別招待チケットを係員に渡し、メカシマビッグ海水プールへと入園した。
◇◆◇◆◇
数日前。
マオの父ムリョウとの戦いに一行は勝利したかに思えた。
全ての真相を話してもらおうと満身創痍のムリョウにマオが近付くと二人の身体が突然、閃光する。
一瞬の出来事にマオは倒れ、ムリョウはヴェスティードに乗り込んで逃走した。
気絶したマオはムリョウに触れられた瞬間、膨大な量の記憶が頭の中に流し込まれてしまう。
それは真宮家の知られざる歴史と秘密。
セネス病とはなんなのか。
マオの危機に現れる巨大ロボット“魔王”が作られた理由とは。
目覚めてからマオは、いつも以上に人を避けるようになった。
特に幼馴染みのミツキに対して異常なほど警戒していた。
それをレフィたちが問いただすもマオは頑なに答えようとしない。
ミツキもミツキで何かを隠しているような素振りを見せる。
そんな二人の関係を修復するため立ち上がったアユムは今日、皆を連れて県外の巨大プール遊園地へと足を運ぶのだった。
◇◆◇◆◇
「おーい、まーにぃっ……あぁ?!」
この日のために買った水着に着替えてウキウキなミヤビたち四人がプール入り口の待合所に向かうと、そこにはベンチに座るマオともう一人いた。
「あぁん? なんでモンチッチ野郎がマミヤンと一緒にいるんだぁ?!」
金のサングラスに派手な赤いビキニのアユムは、マオに絡む名札付きのスクール水着なボーイッシュ少女、トウカを睨み付ける。
「マオちゃんヤバイね。ヤンキーがガンつけに来たよ」
「だぁれがヤンキーだよ、コラァ!?」
「……アユムはヤンキー? アユムはアメリカ人だった?」
顔を日焼けさせないよう被った大きな麦わら帽子に白いフリルの清楚な水着のレフィは首を傾げる。
「おう、やんのか? やんのかコノヤロー!」
「やってやるよ。マオちゃんは僕のだ」
「ここでケンカだめ。回りにメイワクだよ」
「やっちゃいなよ! そんな怪獣女なんか!」
白熱している四人を尻目にミツキがマオの隣にそっと座る。
五人の中で一番大きな胸と、花柄のパレオから覗く白い内股にマオは目を奪われそうになり、思わず浮き輪に顔を埋める。
「……そっちの風船、貸して?」
「う、うん……」
目を伏せながらマオは膨らませかけのビニール製ボールをミツキに渡す。
大きく息を吸い込み一気に膨らませると、その動きでミツキの胸も重そうに上下した。
「……あっ……間接キ」
「はい、風船」
「うっ……ありがと」
「…………」
「……」
ジリジリとした真夏の太陽。
来場客の賑やかな歓声と跳ねる水飛沫。
なのにマオとミツキ、二人の空間には永遠にも思える静かな時が流れていた。
「……マオ」
「父さんに何か言われた?」
「…………言われた。でも言わない、言いたくない」
ミツキは立ち上がりマオの右手を掴む。
「マオのことは私が絶対に守るから。例えマオが何者であっても変わらない、変えないでみせる」
どこか悲しげな笑顔をミツキは見せながら、二人はミヤビ達の元へ歩きだした。
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