第五十一話 魔王VS魔王

 突然の“魔王”登場に最初は驚くマオだったが、ミツキを助けるのに今は考えている余裕はない。

 崩れたビルの隙間から思いきって飛び、鉄の巨腕の上を伝って胸のハッチから“魔王”の中に進入する。


「交代ね、まーにぃ」


 コクピットの天上から降りてきたマオに、妹ミヤビは操縦席を明け渡す。


「どうして、皆がこれに?」

「実はね、家の下に隠してあったの」

「家の下ぁ?! それ、いつからだよっ!?」

「うぅ……だって、カイナさんがまーにぃには言うなって」

「いやいやいや、僕らの家だろ!? なんで、そんな必要があるのさ!!」


 何年も住んでいた家に巨大ロボットが隠してあった、と言う信じられない事実に出来事に声を荒げるマオ。


「なぁマミヤン、本当になんも知らないのか? 知らないで動かしてたのか?」

「う、うーん…………知らないと言えば嘘になるけど、あぁもうワケわかんないよ!」


 変わった病気を持つ普通の高校生だった思っていたはずのマオ。

 その現実は色々な真実が日常の中に隠されていたのだ。


「それに……狭いよ!?」


 広く思えたのはマオ自身が小さいからだと言うのと周囲のディスプレイが錯覚させていたからであった。

 四人も乗っているとコクピットが広さ二畳ぐらいの球体状で、そこまで大きくないことが実感できる。

 後頭部にアユムの胸が押し付けられ、両サイドをミツキとレフィがマオの身に寄せるようにくっついている。


「魔王……いいえ、この“ブライダラー”は真宮家に伝わる秘密だ、ってカイナさんから聞いたよ」

「ブライダラー? ダイマオーでしょ?」

「どっちでもいいんじゃない?」


 と、レフィが毒づく。


「いいや、レフィ。名前ってのは大事だぞ? やっぱり名がないと格好が付かないからね」


 アユムはマオの首に胸をぎゅっと押し付け抱きながら言った。

 

「ともかく、それを今まで隠してたってのが問題だよ」

「だって、まーにぃがこれに乗るってことは……その」


 ミヤビは口ごもる。

 不安がる妹の頭をマオはそっと撫でた。


「心配するな兄ちゃんを信じろ」

「マオ君、大丈夫?」

「つまりだ、僕が人に触れられない……セネス病だからってことでしょ。今の状況を見てみろよ? 何にもなってないぞ」


 互いの息がかかるぐらいなコクピット内の高い密度。

 数ヵ月前のマオなら一瞬で卒倒しているような超接近状態であったが今は平気だった。


「正直ワケわかんないことだらけだよ。僕が忘れてるだけかもだね……でも、あの父さんに聞けば何かわかるかもしれない。今はそれだけさ」


 長話はさておき、マオは操縦桿に手を置く。

 ダイマオー、プラチナムルシファー、ブライダラー……複数の名を持つ“魔王”とマオは精神をリンクさせると視界が外に繋がった。

 目の前に仁王立ちする父ムリョウの操る漆黒の機体。

 まるで花のドレスのような幾層にも重なったロングスカート型のアーマーを靡かせ、ヴェスティードは拍手をしてマオたちの会話を待っていた。


『マオ、理解のある彼女を沢山持ってて父さんは嬉しいぞ』


「うるさいっ! そんなことより僕に理解できるよう全部、説明しろ!」


『古より、こう言うときのやり方は決まっている……知りたきゃ父を越えてみろ!』


 先制攻撃を仕掛けるムリョウはヴェスティードのスカートから無数の小型ミサイルを吐き出した。


「ど、どうするのまーにぃ?!」

「町に被害が出ちゃう……だったら」


 足を屈伸させ“魔王”が思いきりジャンプすると、小型ミサイル群もその軌道を上方へと変える。


「人装身機……!」


 マオが念じるとレフィとアユムの身体が光に包まれ一瞬の内に消えた。


「あ、アユムさん?! レフィちゃんまで!?」

「落ち着けよ、ミヤビ。二人はいるさ……ここにな!」

「え?」


 マオの言葉と同時に“魔王”の左腕と下半身に浮かぶシルエット。

 それはレフィとアユム、二人の機体であるザエモンとアシバリオンが手足に可変した姿だった。


「使わせて貰うぜレフィ、ザエモンの刀をっ!!」


 大刀を腕の軸で回しながら、下から向かってくる小型ミサイル群の中へ飛び込んだ。

 高速回転させる刀の刃がミサイルを切り裂き、爆風も吹き飛ばして“魔王”はヴェスティードの元へ突撃する。


「やっちまえー、マミヤン!」

「あぁ! 奴に知ってること全部吐かせて、望み通りスクラップにして、やる……っ!?」


 威勢の良い言葉を吐いたマオだったが、その顔は苦悶に満ちた表情に変わっていき、それは“魔王”にも伝わった。

 身体から力が抜けるように回転する大刀は手から溢れてしまい、ヴェスティードに届くことなく“魔王”は落下する。


「なんで……うっ、吐き気がする……眩暈まで!? ど、どうして、セネス病がっ今……うぅっ」


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