第五十話 父と子、再会

「…………ふぅ、流石に食べすぎたかなぁ」


 五分ぐらいの用足し済ませ、洗面台で手を洗うマオ。

 高級ホテルだけあってハンドソープも見たこともない海外メーカー品で泡立ちも香りも良い。

 掃除も行き届いており、使うのが申し訳ないぐらいにピカピカだったがお腹の痛みが緊急なので仕方がなかった。


「………………僕、そんなに変わったかな?」


 大きな鏡に自分の顔を寄せてじっくり観察する。

 背はそこまで伸びた感覚はない。

 髪は若干伸び気味で、触覚のような髪の毛が二本、頭頂部から飛び出している。


「それにしても似合わないなぁ、このスーツ」


 普段、着ているブレザーの制服に近いが少し大きめでブカブカだ。

 ミツキには「成長するからいいの」と言われてプレゼントされたものだが、気分的に馴染めなかった。

 トイレを後にし、席に戻ろうと向かうマオだったがテーブルには食べかけの食事は綺麗に片付けられ、ミツキの姿もなかった。


「あの、すいません! ここにいた女の子は?」


 マオはすぐ側を通る若いウェイターに声をかけた。


「え? あれっ、君さっきその子と一緒に帰ったんじゃないんですか? それとも忘れ物でもした?」

「さっき? 一緒に帰った? 誰と?」

「誰とって……君じゃないの?」


 このウェイターが何を言っているのかマオには理解できなかった。


「………………わかりました。勘違いかもしれません」

「はい、ありがとうございました?」


 マオはウェイターに一礼すると駆け出した。

 上手く言葉に出来ないが、何か胸騒ぎがするのだ。


「ミツキ……ミツキっ?!」


 マオはエレベーターの前に立つミツキを発見する。

 傍らに立つもう一人の人物、白のスーツに白髪の謎の少年は、マオと瓜二つの顔していた。


「……あ、マオ!」

「遅かったじゃないか、我が倅よ」

「その声は…………もしかして、父さんか?」


 奇妙なことに自分と同じ姿をしている少年にマオは父なのと尋ねる。


「フフフ……」


 謎の少年は不敵に笑う。


「そう、パパだよ。我が名は真宮無量(マミヤ・ムリョウ)。君を生み出した者さ」


 その少年、ムリョウは人目も気にせず高らかに名乗った。


「アンタから生まれた覚えはない。だけど、その姿はなんだ!? どうして僕と同じ顔をしてるんだ?!」

「それは……遺伝かなぁ?」


 ムリョウは惚けた感じで答える。


「そういうことじゃないだろ!? 僕の記憶の中じゃ背はもっと高かった、大人だったはずだ!

「老化で背が縮むことだってある」

「老化じゃなく若返ってるだろ!」

「年だからアンチエイジングは大事なのさ」


 マオが何を言ってもムリョウは煙に巻いた言い方で返す。


「……で、結局なんで急に現れたんだよ? 海外出張はどうした? 母さんは?」

「海外出張? 母さん?」

「そこも惚けるのかよ……」

「フフフ……ハハハ!」


 ムリョウは高らかに笑う。


「返してもらう、我の“魔王”をね」


 次の瞬間、ムリョウとミツキ、二人の周りを包み込む空間が歪み始めた。


「ミツキ!?」

「マオッ!!」


 突然、壁が崩れだし、外の空気が突風突風となって建物の中に吹き荒れる。


「……なんだ、あれは?!」


 隙間から巨大な顔を覗かせるのは赤い目を光らせる黒いロボットだった。


「これは“ヴェスティード”……お前が“魔王”と呼ぶの巨神の“鎧装真器”さ。でも、これで十分なんだよ」

「 ま、マオーっ!!」


 ヴェスティード、と呼ばれたロボットの目が閃光する。

 数秒にも満たない瞬きの間にムリョウとミツキの姿は消え、ヴェスティードは壁から離れていく。

 父親にミツキが連れ去られた、と何の目的で父がそんな行動をするのか疑問よりも直感的に身体が動く。


「だったら、僕も……」


 崩れる壁から外を覗きながらマオはズボンのポケットをまさぐる。

 取り出したケースの蓋を取り、中身を口に放り込んだ。


「んぐ……あれ、これ薬じゃ……ない?!」


 口内に広がるパチパチと弾けるソーダ味。

 中を確認すると、そこにあったのはただのラムネだった。

 これでは“魔王”を呼び出すことが出来ない。

 しかし、実際はそう思う暇もなく“魔王”は直ぐに来たのだ。


『まぁぁにぃぃぃーっ!!』


 少女の叫びと共にヴェスティードは突然、現れた銀色の“魔王”の鉄拳の直撃をくらって吹き飛ばされた。


『大丈夫、まーにぃ?!』

『マオ君は簡単には死なない』

『……マミヤン以外にも動かせるもんなんだな』


 マオを助けるため三人の少女たちの声が“魔王”の中から響いた。

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