第四十八話 真夏の厄落とし
「オッスー! ビッグ海水プールのチケットの手に入れたから皆で行こうぜぇ……って、思ってたんだけど、どうやらミッキィに先を越されたみたいだな?」
家から浮き輪を膨らませてウキウキで真宮家にやって来たアユムだったが、家から飛び出してきたマオとミツキがバイクで疾走する姿を見て酷く落ち込んだ。
「何なんだよ、最近のマミヤン?」
「これのせい」
オレンジジュースを飲みながらレフィは錠剤の入ったプラスチックケースをカチャカチャと振る。
「ドラッグ」
「ど、ドラ……って、オイオイオイ!?」
立ち上がるレフィはケースの蓋を外し、流し台に錠剤を全部ばら蒔いた。
「あーっ! いいの、レフィちゃん?!」
「これはセネス病を治す薬なんかじゃない。普通の人が飲めば死んじゃう……鼻と口を塞いでて」
レフィは蛇口をひねりシンクに水を流す。
すると、錠剤は一瞬の内に溶けてなくなってしまった。
「マオ君が命の危機になるとき、魔王は現れる。今のマオ君は魔王に乗ってしまったことで意識を持っていかれてる」
「……そう言えばレフィもこの間、なんか刀振り回して暴れてたそうじゃん? そっちはどうなん? あっ、これ食ってもいいかな?」
先月に起きたレフィの暴走事件は、たった数日間の謹慎処分でことが済んだ。
巨大ロボット・ザエモンまで持ち出し、マオの“魔王”とアユムのアシバリオンとの戦いによって、グラウンドや校舎の一部が崩壊する事態に陥った。
それなのに、その程度で許されたのは、ある人物の力によってもたらされたからである。
「……レフィは、どうしてあんなことをになったのかよく覚えてない。でも、これだけはわかる。マオ君と合体しちゃいけない。あの人は間違ってた」
「アタシのアシバリオンも、どうしてマミヤンと合体できるようになってんのか親父に問い詰めたんだよ。それがさぁ、ビックリしちゃったよ……もぐ」
「魔王……ミャーは、まーにぃといつまでも一緒にいたい。けど、本当にただの妹として側にいていいのか?」
三人の頭の中に一人の人物が浮かんだ。
それが全ての事態を引き起こした黒幕ではないか、と思い始めた。
◆◇◆◇◆
「はい、お茶」
「…………おう」
赤信号の交差点で一時停止。
荷台から取り出した水筒をマオに渡すミツキ。
マオはたっぷりと入った氷で冷やされた麦茶を喉に流し込む。
「暑いよね」
「なぁ、どこに行くんだよ今から」
「お祓い」
青信号になり二人を乗せたサンライトイエローのバイクが発進する。
ミツキとのバイク旅はこれが初めてではなかった。
食べ歩きが趣味のミツキが連休にご当地グルメを食べに行きたいと無理矢理マオを連れていくことはよくある。
だが、レフィが転校してきたから二人きりでのバイク旅はしていなかった。
「何も呪われてなんかないし、憑かれてなんかもいないぞ」
「嘘だよ。マオ、おかしいもん」
ショートカットにした髪型だけでなく、ヘルメットもフルフェイス型に新しくしたミツキ。
一体、彼女が何を考えているのかマオには分からなかった。
「おかしいのはミツキの方こそだろ?」
「マオのがおかしい」
「ミツキだって」
「マオ」
問答を続けながらバイクは制限速度を守りながら加速していく。
周りの景色もマオの知らない建物が多くなるばかりか、いつの間にか山道へと入っていく。
「…………私も……合体したかった……」
「え? ミツキ、今なんか言った?」
「……なんでもないよ。ちょっと飛ばすよ」
ハンドルを握り、加速するバイクだが、勢いも徐々に落ち始めていく。
今日から夏休みが開始したとあって道路はかなり混んで、二人は長い渋滞に巻き込まれてしまった。
「進まないなぁ」
「進まないね」
「……」
「……」
「お祓いって、そんな遠くにあるのか?」
「県境の願福寺ってところ。厄除け、厄払いでご利益あるって有名なの」
「はぁ、厄とかどこに憑いてるっつーんだよ」
悪態をつくマオ。
それを横目で睨むミツキ。
「マオはマオだよ。魔王なんかじゃないんだ……」
バイクは数メートル進んでは止まり、数メートル進んでは止まりを繰り返した。
しばらくすると道路が途中で別れている区間に到着する。
「……あっ、前に来たパーキングエリアあるじゃん。ちょっと休んでいこうぜ」
「目的地、ここだよ? ここから降りて願福寺に行けるの」
「そ、そうなのか? でもまず腹ごしらえしないか?」
「うん、そうだね。なんか食べていこうか」
二人を乗せたバイクは横道に逸れ、訪れた観光客で賑わいを見せるパーキングエリアに入る。
そこで昼食を食べてからミツキがお祓いを予約した願福寺に向かった。
一時間近くマオは正座をしながら謎のお経を聞かされ、全身に塩を塗りたくられた。
そのあと、十数メートルの高さから水が激しく落ちる滝に打たれて、お経と塩を塗り、再び滝に打たれ、お経と塩を……その繰り返しを十回。
憑かれが取れるより疲れでクタクタになった状態のマオ見て満足したのか、ミツキは笑顔でマオを抱き抱えて願福寺を後にした。
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