第四十六話 人装身機
「……マオ…………」
空に渦巻く光を球を見上げながらミツキは唇を噛んだ。
「私だって……私だって、合体を……」
ふと、足元の水溜まりに写る自分の顔を見てミツキは我に帰った。
「…………ダメだぞ、右京光希。こんなの私らしくない」
顔を叩き、眉間のシワを伸ばそうと指で擦る。
心の中でモヤモヤとした暗い感情が、マオの“マオウ”が《合体》することを疎ましく思ったからだ。
記憶を失う前、戦いに身を投じるマオはミツキにとってマオではなかった。
何か別の存在がマオの身体を乗っ取っている、とそう感じてしまう。
「…………マオは絶対、私が……」
そして、二つのマシンを包み込んでいた光球は飛散し、一つのマシンへと生まれ変わった。
◇◆◇◆◇
「これが、マオウ人装身機、デュアルフェノメンだ!」
「……なんなのマミヤン、そのテンション」
ズシン、と校庭を大きく揺らしながら降臨した“マオウ”の新たなる装い。
アシバリオンを取り込んだターコイズブルーの堅牢な下半身。
「なぁ、これどう見てもデッドウェイトじゃあ……来るぞ!?」
重そうに歩く“マオウ”を背後から回り込むザエモンは剣で飛び掛かる。
両断。
だが、振り下ろされた刃は空を斬るように手応えがなかった。
「残像さ」
いつの間にかザエモンの背後に移動していた“マオウ”はザエモンを上空に蹴り飛ばす。
空高く舞い上がったザエモンに“マオウ”は追従して今度は頭部を掴み、地面に叩き落とした。
「ちょっとマミヤン! そんなにしたらレフィが死んじゃうだろ!!」
「アユムも自分で言ったじゃないか。目を覚まさせてやればいい」
「それは……そう言ったけど、さ…………まぁ、うん………………アユム?」
いつもと様子が違うマオの声に違和感を感じアユムは動揺した。
「……ヤツの殺気は術による洗脳だ。少し頭を冷やさなきゃならない」
「じゅ、術ぅ? 何言ってんだよ!?」
「だがもう十分だ。もう一度やるぞ《合体》をなッ!」
そう言って“マオウ”は左手をザエモンに向けてかざすと、掌に光が溜まっていく。
「来い、レフィ……人装身機ッ!!」
バシュウ。
左腕から放たれた“マオウ”のビームは、よろめき立ち上がろうとするザエモンとレフィの身体を貫いた。
◆◇◆◇◆
「……ん、え? えぇ?! ここは、どこォ?」
ほんの一瞬、瞬きをした瞬間の内にアユムたちを取り囲む世界は無となった。
心と身体がフワフワと浮かんでいるよう不思議な空間にいるのはたった三人、生まれたままの姿で存在している。
それ以外は光の粒となって“マオウ”の作り出した精神空間を認識することはできない。
「…………真の合体は、心を繋ぐこと。レフィ、誰に何を吹き込まれた?」
足を抱えて座った体制でレフィにゆっくりと近付き、マオは優しい口調で話しかける。
「マオウは危険な存在……マオウは全てを奪っていく」
「僕はマオウじゃない。僕はマミヤ・マオ」
俯いていたレフィの顔がマオをじっと見つめる。
「ずっと……あの日、見たときからレフィは憧れてた。独りぼっちのレフィにとってマオ君は仏様に見えたよ…………う、うぅっ!」
突然、レフィは頭を抱えて苦しみだす。
その身体から黒いモヤがレフィを覆い隠そうとする。
マオが触れると手先に電撃が流れたかのように痺れてしまった。
「マオ君は……マオウ…………違う! マオウを……せ、セネスは……」
「大丈夫だ。レフィの苦しみは俺が背負う! レフィのヒーローに俺はなるよ。だから、もうレフィは一人じゃない」
全身の痺れをものともせず、マオはモヤごとレフィを抱き締める。
「……マオ君……」
その時、レフィの過去の記憶がマオの中に入り込んでくるのを感じ取ってた。
それは“マオウ”と合体しているアシバリオンのアユムも、同様にレフィの過去を心の中で受け止める。
「さぁ、行こう。レフィ……合体だ!」
「……うん!」
◆◇◆◇◆
戦いがどうなったかミツキを含め学校の生徒や教師が見守る中、再び三機を包んだ光球。
「マオ……」
呟くミツキ。
程なくしては爆散する光球から現れる巨神。
それは、ら黒く巨大な剣を携えた“マオウ”の新たなる姿。
ザエモンが変形して“マオウ”の左腕となり《合体》したのだ。
「……そして、これがマオウ人装身機トリニティフェノメン……あと一つ、右腕だけだ。ふふふ…………ハハハ……ハァーハッハッハッ!!」
着実に姿を取り戻していく“マオウ”の姿を感じて、マオは高らかに笑うのだった。
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