第四十五話 魔王覚醒

「…………やった、成功した!?」


 気が付くとマオは真っ白な空間に立っていた。

 どこまでも広がる何もない異空間にはマオ一人だけである。

 初めて見る光景だったが、どこか懐かしさすら覚えるのは何故なのか、今のマオにはわからなかった。


「操縦席で、いいんだよね? これで動かすのか?」


 目の前に浮かぶ台座に設置された二つの操作レバーのような球体に手を置く。

 すると意識が何かに引っ張られる強い感覚が起き、マオの視界は“マオウ”の目と繋がった。


「ぅぅ…………お……うわ、高っ……ぐわっ!?」


 校舎と校庭を見渡せる全長15メートルの視点が、いきなり引っくり返る。

 腹部にズシン、とレフィのザエモンが馬乗りになる。


『……覚悟』


 ザエモンは刀を逆手に持ち“マオウ”に向けて振り下ろす。

 刃が“マオウ”の顔面に刺さろうとした瞬間、ザエモンが何者かによって派手に吹き飛んだ。


「マミヤン、無事かァ!?」

「芦田先輩?! 補修に行ってたんじゃ……」


 まさかの登場にマオは驚いた。


「こんな騒いでたら何事かと思うじゃんか! だからだよ」

「でも、いつの間にそのロボットを持ってきたの?」

「アシバリオンは五台の重機が合体してんだ。町で工事中のを呼び寄せた……あぁ、あとで親父に怒られるかも」


 エンジン音を唸らせながら現れたターコイズブルーの人型重機。

 アユムの操るアシバリオンが、ザエモンに猛烈なタックルを食らわせたたのだ。


「どうなってんの一体? レフィが遂にご乱心か?」

「違う。あのレフィの目……まるで何かに操られているような」


 野球部の防護フェンスに突っ込んだザエモン。

 グシャグシャになって身体に絡むフェンスを引きちぎりながら立ち上がる。


「ダメージが浅かったか……」

「無茶苦茶すぎるよ芦田先輩」

「ようするによォ、目を覚まさせればいいんでしょうが!」


 そう言ってアユムのアシバリオンは右手の大型ドリルを天に掲げる。

 連なった四つのブレード付きホイールを左右交互に高速回転させ、ザエモンに突撃する。


「でぃやぁぁぁぁーっ!!」

『……』


 勢いよく突き出されたアシバリオンのドリルを、ザエモンは左肩のシールドで防いだ。

 バチバチと火花が激しく飛び散る


「大人しく削れらぁ!!」

『……甘い』


 するとザエモンは左シールドを切り離し、アシバリオンの懐へ飛び込むとコクピットに刀を向ける。


「しまっ……!?」

「芦田先輩ッ!!」


 とっさに手を伸ばしアユムを助けようと叫ぶマオ。

 その意志に“マオウ”が応えた。


「………………あ、あれ?」


 これは死んだ、と諦めたアユムは目を開く。

 正面にはザエモンの頭頂部と校庭の地面が広がって見えた。


「な、なんなんだよ……コレはァ!?」


 全身に感じる浮遊感。

 それもそのはず、アシバリオンは宙に浮いていたからだ。


「とととと飛んでるぅぅ?! おぉろろぉ下ろしてぇぇえ!?」


 あり得ない出来事にアユムは悲鳴を上げた。

 総重量50トンを越えるアシバリオンが空に上昇し続けているのだ。


「芦田先輩」

「そそそ、その声はマミヤンか? オマエか? オマエがやってんのか??」

「そうみたいなんです。段々と思い出してきました」


 そのアシバリオンの背後、さらに後方に雲を背にして浮かぶ“マオウ”のマオは言った。


「そこでなんですけど提案があります」

「何だよ! 言うなら早くしろよォ!!」

「……な、なんでそんな怒り口調なんですか?」

「あ、アタシは……高所恐怖症なんだよっ!!」


 震えた声でアユムは泣き叫んだ。


「ロボット乗ってるのに?」

「自分が操縦してる物はいいんだよ! だから、さっさと、早く言え、提案てなんだ、くだらねえことだったらブッ殺すぞテメーッ!!!!」


 操縦席の中でパニックになり涙を流しながら暴れるアユム。


「じゃ……じゃあ、やりますよ。マオウ《合体》だっ!」


 マオの号令で“マオウ”の両足からビームが放たれた。

 螺旋を描くようにして捻れていく二つのビームはアシバリオンを貫くと、重厚な四肢はバラバラに分離する。


「わぁっ!? 何すんだマミヤンッ!!?」

「行くぞ、人装身機ッ!!」


 咆哮するマオの顔はあどけない少年から残忍な“魔王”の表情に変わっていた。

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