第四十四話 レフィ:ビギニング

 一先ず校庭に逃げ込んだマオ。

 雨上がりでぬかるんだ地面を上履きで走る。


「何なんだよもう、レフィどうしちゃったんだ……」


 後ろを振り向くもそこにレフィの姿はない。

 だが、突然の視界が暗く感じて空を見ると、巨大の鎧武者が頭上より落ちてきた。


「うおわあぁっ!?」


 地面の水溜まりが飛沫を上げて舞い落ちるその鎧武者はレフィの“ザエモン”だった。

 盛大に転んで泥だらけのマオがザエモンを見るとレフィが乗り込んでいた。


「何を考えてるんだ! さすがに冗談が過ぎるぞ?! 聞いてるのか、レフィ!!」


 叫ぶマオだったが、レフィは無視したザエモンの中へ入る。

 主を迎え入れたザエモンは足元のマオを見下ろす。


「おいおい……ほ、本気かよ!?」


 嫌な予感がして逃げるマオを踏み潰そうとザエモンは拳を振り下ろした。


「マオぉ!!」


 横から飛び込んできたミツキがマオの元へ飛び込む。

 間一髪、ザエモンの拳を避ける二人。

 振り下ろされた鉄拳は地面を砕き、数メートルものひび割れを起こす。


「大丈夫、マオ!?」

「み、ミツキ……重い」


 大きく柔らかな胸に押し潰されながらマオが言うとミツキはすぐに退いた。


「まったく、どうなってんだよ……レフィ、返事をしろぉ!」


 目を赤く光らせながら顔をマオに向けるザエモン。

 やはりレフィからの返事はない。


「…………これを、使うしかないのか?」


 マオはズボンのポケットに忍ばせていた、掌サイズのケースを取り出す。

 中には錠剤が二粒入っていた。


「それはもしかして……やめてマオ!」

「でも、レフィを止めなきゃ」

「だってマオ」

「これのお陰でセネス病も和らいでる気がする。やるしかないんだ」


 ミツキの制止も無視してマオは錠剤を飲み込む。

 効果は驚くほど早く発揮し、苦しみうずくまるマオの体は光に包まれた。



 ◆◇◆◇◆



 遊佐レフィーティアがマオを知ったのは小学生の時に見た、インターネットの動画であった。


 大企業の社長であるアメリカ人の父と日本人の母親との間に生まれたハーフであるレフィは物心ついたときから日本の文化に興味があった。

 特に戦国時代の侍や武将が好き、それらに関するあらゆるものを見たり聞いたり集めたりするのが趣味で現在も続いている。


 古いテレビドラマの影響で小学生に入る頃には日本語もかなり上達。

 日本のことが知りたくて現地に住む日本人とばかり遊んでいたが、それが災いとなりイジメに会ってしまう。


 家が大金持ちでなに不自由ない生活をするレフィにとって、友達だけは手に入れることが出来なかったのだ。


 不登校気味になってしまい自宅に引きこもっていたある日、動画サイトで偶然見つけた一本の動画がレフィの運命を変える。


 それは日本の一般人が撮影した事件映像。

 三階建ての建物を越える巨大な怪物と、それをも越える白銀のロボット──マオの操るマオウ──が戦っているショートムービーであった。


 初めは良くできたCGだと疑った。

 ジャパニーズメカアニメーションは世界に誇る最高の文化だというのも知っている。

 しかし、そのロボットが戦う動画があちこちで何十件と投稿されるのを見て本物なのだと理解した。


『ビッグ・メカサムライ……』


 アニメでも映画でもない本物の巨大物体が戦う姿にレフィの心は奪われた。

 

 今すぐにでも本物が見たい両親に相談するが、世界的大企業であっても無理な願いであった。


 そして、ある時期を境に白銀ロボの動画もなくなり、レフィの記憶からも段々と薄れてしまった。

 それから時が経ち、家の体裁を守るため親に無理矢理、高校生させられたレフィの運命が大きく変わることになった夏の日の出来事。


『危機が迫っている。私の息子と合体して欲しい』


 ショッピングを楽しんでいるところに現れた謎の人物。

 炎天下だというのに全身をロングコートで身を包み、顔や手を包帯でグルグル巻きにしている奇妙な男だった。

 包帯の男はレフィにあるプレゼントを渡す。


『これを持って、ここに行ってみるといい』


 袋に包まれたそのプレゼントは日本刀だった。

 そして、もう一つ渡された紙に書かれている住所はレフィがよく知る場所だった。


『この場所……ここは私の父が経営する会社の建物なんですが?』

『君は、お父上の仕事をもっと理解するといい。YUSAは大変に危険な企業だよ』

『貴方は誰なんですか?』


 レフィが聞くと包帯の男はニヤリと笑いながら言った。


『私の名前は真宮無量。託したよ、人類の未来を』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る