第四十二話 マオと魔王の目覚め
幼少期、五歳のマオは現在よりも病弱であった。
人に触れると身体に異常なアレルギー反応を示す特異な病気。
他の患者とは隔離され、家族と医者以外との接触はなく一人病室で日々を過ごしていた。
そんな毎日に嫌気が差して遂に病室を抜け出すマオが初めて出会ったのがミツキだった。
当時、同じく難しい病気で病院生活を送っていたミツキは、院内を迷子になっていたマオと偶然に知り合う。
初めての同世代と言うこともあり喜ぶマオだったが勝手に外へ出たことはこっぴどく叱られた。
その後、気の毒に思った医者からの許しを貰い、週に一、二度、透明なビニールカーテン越しならば会ってもいい、という条件付きの元で、ミツキと会えるようになった。
◇◆◇◆◇
ある日、日本全土を襲う謎の怪事件が多発する。
全国各地で目撃される未知の生命体。
最初の頃は未確認の新種が日本で次々と発見されたと世界的に話題になったが、それは日を追う毎に人類に危害を加え、その大きさも家屋を越える巨大な怪物へと進化する。
マオたちのいる病院も怪生物に襲われることになるのだが、そんな窮地を救ったのが突如として現れた白銀の鎧巨神だった。
白銀の鎧巨神はマオを取り込み、怪生物を撃退することに成功。
戦いを終えたとき、マオの病気は完治していた。
その後、誰がその名を最初に呼んだか“マオウ”と名付けられた白銀の鎧巨神は日本政府に接収される。
だが、マオウを操ることは誰も出来なった。
◇◆◇◆◇
そこから数年が経過し、マオたちは小学五年生になる。
息を潜めていた怪生物たちが再び出現した。
日本の危機に政府はマオにマオウに乗って戦うことを要請する。
だが、一人でない。
マオウの技術を参考にして製造された対怪生物マシン、それが右京重工の巨大ロボット、ライトニング。
それを操るのはミツキの姉、アカリだった。
マオとアカリ、そして途中参加したトウカの三人で日本中に出没する怪生物の退治に赴いた。
約一年に及ぶ長い戦いは一旦、幕を閉じる。
◇◆◇◆◇
「最後の……あの赤い怪物との戦いでマオは酷い怪我をして、目覚めた時には記憶も失ってて、セネス病も再発症していた」
「その時に明里さんを僕が?」
マオが姉の名前を口にするとミツキは微妙な表情をする。
「…………本当のことを言うとね、わからないの」
「わからない?」
「マオウの中から助けられたマオと違って、お姉ちゃんが……死んだことを聞かされたの」
「直接ら見てない?」
「うん……確か、お葬式もお姉ちゃんの遺体がないままで行われたから」
幼かったミツキは当時、それがどんなことを意味するのかわかっていなかった。
しかし、その時の幼いミツキが頭の中で思っていたのは姉の死を悲しむことではない。
姉に取られそうになったマオが自分の元に戻ってくる。それが嬉しくて堪らなかったのだ。
「戦ってる時のマオは私の知ってるマオじゃなかった。私はそれが嫌で……だから」
「思い出してほしくなかった?」
「…………うん」
ミツキは迷いながら頷いた。
「そっか……そうかぁ」
「あんまりよくは覚えてないけど怪物は僕が倒したんだろ? なら、いいじゃないか。もう戦う必要なんてない」
「そう……なのかな? でも私、ずっとマオに隠し事してたから……」
「泣くなよ、ミツキ」
マオは手を伸ばしミツキの目から零れる涙を指で拭う。
「それとさ」
「うん」
「そろそろ降りてくれない?」
「あっ、ごめん!」
馬乗り状態で数分間、小さなマオの腹に座り込んでいたミツキはようやく重い腰を上げる。
「だ、大丈夫?」
「セネス病は大丈夫になったっぽく感じる」
マオは身体を確認する。
じっとりとした汗がシャツを濡らすも、いつもよりシミの範囲は小さく感じた。ベッドのシーツもそこまで湿っていない。
心臓も少し心拍数が上がっている気がするも、今までのような苦しさは感じなかった。
「それよりもミツキ、僕はお腹空いたよ」
「そ、それもそうだよね。さっ、行こう。私、今日は張り切っちゃって朝から一杯作ったよ!」
「はは、それは楽しみだ」
服の袖で涙を拭きながら、差し伸べるミツキの手を掴んでマオはベッドから立ち上がる。
二人は仲良く手を繋ぎ、大量の朝ごはんの前で待ちぼうけを食らうミヤビの元へ向かった。
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