第四十一話 雨の日と幼馴染み
夜中から降り続く雨と風が窓を執拗に叩く。
布団を被ってどうにか眠ろうと試みたが、あまりにも激しい嵐のような天候はマオを眠らせてはくれなかった。
湿度も高く、ジメジメとした部屋の空気にイラついて寝返りを繰り返しているうちに時刻は朝の七時を過ぎていた。
「まーにぃ、起きてぇ!!」
「…………うるさいなぁ、おきてるよ……」
ドタバタと入室して耳元に近づき、元気一杯に叫ぶ妹ミヤビの声にマオはのっそりとベッドから身体を起こした。
「朝ご飯作ってもらったからね。早く降りてきてよ!」
「んっ……んん」
そう言ってミヤビはさっさとマオの部屋から出ていった。
「…………作ってもらったぁ……ふぁ~」
マオは眠い目を擦りながら背伸びをする。
パキパキ、と全身の間接が鳴った。
「…………台風か……」
あのYUSAコーポレーションによる誘拐事件から数日が経過した。
テレビやネットでは謎の爆発事故が起こったとして「怪物が出て、会社が襲われた」という情報は一切なかった。
マオは相変わらずセネス病で女の子に触れられない体質だが、以前よりも症状はゆるやかに感じていた。
もちろん、だからと言って自らに触れにいく変態行為をしていると言うわけではない。
無駄にスキンシップを取ってくるアユムやミヤビからのイタズラに身体が馴れてきているのかもしれない。
「いま……何時ぃ?」
机の上の時計を確認すると時刻は朝七時半。
マオは窓から外を覗き見る。
太陽の光を完全に遮る真っ黒な曇り空が町全体を覆い、出歩くのは困難なほど激しい雷雨が止めどなく降り注いでいる。
「マオ」
ノックの音と共に部屋に入ってきたのはミツキだった。
セーラー服の上にピンクのエプロン姿だ。
「ごはん冷めちゃうよ? 早くおいで?」
「ミツキ……なんで、いるの?」
「なんで、っていつものことでしょ」
ミツキはエプロンのポケットから取り出したスマホの画面を見せる。
メールの受信画面で差出人は学校からだった。
「今日は学校休みにするって。こんな天気だもんねぇ」
「なのに来たの?」
「カイナさん、居なくなっちゃったでしょ? 誰が真宮兄妹のご飯を作るの?」
ミツキはウキウキしながら言った。
どこか異様なテンションにマオは違和感を覚える。
「…………なぁ、ミツキ」
「うん」
「僕は何なんだ?」
「うーん、ちょっと質問の意味がわからないな。それよりご飯食べようよ」
はぐらかすミツキ。
だが、マオは続ける。
「この間の怪物、僕はどうして助かった? ミツキたちがやったのか? なんでミツキたちはロボットに乗ってる?」
「それは……その」
「僕は、自分が怖い……本当にセネス病はただの病気なのか? 違うだろ? みんな何かを隠してる。僕はそれを知りたい!」
ずっと溜め込んでいた思いの丈をミツキにぶつけるマオ。
薄々、ミツキが自分に対して隠し事があるのだろう、と感付いてはいた。
言葉にしなかったのは今の関係を壊したくないからなのだが、それもそろそろ限界であった。
「マオは、マオだよ。ずっと変わらない優しいマオ」
「……お願いだ」
「…………っ」
マオの真剣な眼差しにミツキは顔を伏せる。
「右京明里さんが死んだのは僕のせいなのか?」
「マオのせいなんかじゃないっ!!」
大声を出すミツキはマオをベッドに押し倒した。
マオの上に馬乗りになって両手を広げさせて掴み、動けないようにするミツキは目から涙を浮かべていた。
「また、そうやって僕を気絶させる気か?」
「そ……それは…………」
勢いで覆い被さったことでミツキの後頭部の髪留めが弛み、長い髪が垂れ下がってマオの顔をくすぐる。
「何をそんなに恐がっているんだよ。何を誤魔化したい? どうして隠したいのさ?」
ミツキの重さを直に感じながら、マオの冷静な口調で話すも心臓は鼓動を早め、汗が額から滲み出る。
態勢的には優位に立っているはずなのに、マオからの視線に耐えられずミツキは黙って俯くしかない。
「……マオは小学五年生からセネス病になったと思っている、でしょ?」
「うん」
「実は、そうじゃないの。マオの病気は生まれたときから……らしいの」
マオに乗っかったままの状態で、ミツキは包み隠さず昔話を始めた。
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