第四十話 マオウと結晶の眠り姫
「……ま……お……マオ……起きて、マオっ!」
「アカ…………ミ、ツキ……?」
耳元で叫ばれる聞き馴れた少女の声にマオの意識は現実に引き戻された。
「……また、か……」
マオはバスタオル一枚だけの姿でミツキのバイクのサイドカーに座らされていた。
この気絶して気が付いたら誰かが自分を看病している状況はこれで何度目だろうか、とマオは少しうんざりする。
「やっと気がついたかマミヤン!? 全くどうなることかと思ったぜ」
アユムは自分の胸を押し付けるようにマオの頭をぎゅっと抱き締める。
「むぐぐ……く、苦しっ…………うぅ……ここは、どこ?」
「見りゃわかんだろ、PAだよ」
「PA?」
「パーキングエリアだよマオ」
代わりに答えたのはミツキだ。
見渡せば木々に覆われた敷地内は一面、駐車場で大型トラックや観光バスばかりが止まっている。
奥に見える売店には人だかりが出来ており、旅行者が食事を楽しんでいる。
「はい飲み物」
「あ、ありがとう……」
ミツキは買ってきた紙カップ入りのドリンクをマオに受け渡す。
とりあえずマオはドリンクを一口飲んだ。
烏龍茶である。
「あの……二人だけ?」
「あぁ途中までレフィが居たんだけどな」
アユムが状況を説明する。
銀色の鉄巨神から元の姿に戻ったマオを救出してYUSAコーポレーションを脱出するミツキたち。
しかし、レフィは『やることがある』と一人残ったのだ。
巨人と怪獣の戦いが終わったのを見計らい、YUSAの職員が次々と現れたのでミツキたちは急いでその場を後にした。
「……そんなこんなで、まあ何とか逃げ切ってここに辿り着いたってわけさ」
「そうなんだ……」
「マオ、レフィが気になるの?」
ミツキが言う。
「え? それは……だって」
「レフィは元々YUSAの人間だった。だって、そもそもなんでレフィは転校してきたの? マオがどこに誘拐されてたのも知ってた。こんなの絶対おかしいよ!」
感情的になりミツキを声を荒げた。
「ちょっと落ち着けって。とりあえず追ってくる奴もいないみたいだしさ、なんか食って帰ろうぜ? もう日が暮れる」
年長者らしく取りまとめるアユム。
マオもこの場の空気感を変えるために立ち上がった。
「僕はもうなんともないぞ! 今日は助けてくれてありがとう二人とも。僕もお腹すいたよ! ミヤビのお土産物を買って帰ろう!!」
「マオ……」
「ミツキ!」
見つめ合う二人。
しかし、ミツキの視線は下の方をチラチラと見ていた。
「…………タ」
「た?」
「……タオルが、落ちてる……っ!」
駐車場にマオの悲鳴が響いた。
◆◇◆◇◆
三日月が浮かぶ夜空の下。
壊滅状態となったYUSAコーポレーション研究所施設の職員たちは一時、退去を命じられ辺りは静まり返っていた。
般若の仮面を被った遊左レフィーティアは割れたガラス窓から建物に侵入する。
電力が絶たれているせいか防犯システムが死んでいるため内部への侵入は容易だった。
レフィが目当てとするのは“DMO666”という新薬の破壊だ。
「マオ君はレフィが助ける。あんなのは必要ない」
仮面の下で下唇を噛みながらレフィは施設内の被害が少ない機械を手当たり次第に破壊していく。
そうして約一時間が経過する。
地上は一通り探索を終えると、今度は地下に降りる。
途中階がないのか長く暗い階段を黙々と進んでいくと明かりが見えた。
「……誰か、いる……?」
物陰に隠れつつレフィは様子を伺う。
地下では電力が生きていた。
煌々と明るい通路に人の気配はなく、防犯カメラやセンサーらしきものも見当たらない。
ただ一直線に続く長い廊下があるだけだ。
意を決して奥へと進むこと五分後、行き止まりに到達する。
そこはレフィの身長の二倍はある鋼鉄の扉。
「むぅ……」
「そこから先へは行けませんよ」
大きな扉の前で立ち尽くすレフィに声を掛けたのはカイナだった。
「その時が来るまで彼女は寝かせといて欲しいの、マオさんのためにも」
「……マオ君を、魔王を呼び出したのは、貴方の薬で?」
背後を振り向きもせずにレフィは訊ねる。
いつでも刀を抜けるように手を柄に添えていた。
「彼には思い出して欲しいからね。彼女のためにも全てを」
「……全て?」
「うん、全てよ。何百年も昔から続く全てを」
そう言うとカイナは取り出したリモコンのスイッチを扉に向かって押し込んだ。
重い扉は鉄が擦れる嫌な音を発しながら徐々に開いていく。
「セネス様の“呪い”を受けた一族。レフィさんには特別にお見せしましょう」
扉の奥でレフィを待っていたもの。
広い空間の中で鎮座する瑠璃色の結晶。
見上げてしまうほど巨大結晶の中で眠る少女の姿だった。
「その方はセネス姫……魔王が愛してしまった、たった一人の女性よ」
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