第三十三話 真紅の魔獣VS稲妻の鉄乙女

『急に呼び出すんだ、俺だって通常業務があるんだぞ』

「町の危機にそんなのは関係ないの!」


 高速道路を走る一台の大型トレーラー。

 元ヤン整備士の兄、右京灯夜(ウキョウ・トモヤ)は妹、ミツキに呼び出されて、巨大ロボット“ライトニング”を乗せるトレーラーを走らせていた。


「今後ろにいる。走らせながらそのまま、後部ハッチを開けて!」

『はぁ?! お前なにいって』

「いいから!!」


 妹の剣幕に押されてしまい、トモヤは周囲にぶつからないようトレーラーをミツキのバイクの速度に合わせて走行させながら、コンテナのハッチを開放した。


「同調開始、ライトニング……ゴー!」


 開かれたと同時にミツキはトレーラーの中へとバイクを突撃させ、中のライトニングと合体すると、高速道路から下の一般道路に飛び降りて目的の地に急いだ。


「待っててね、マオ。必ず助けに行く」



 ◇◆◇◆◇



 地上から高さ約15メートル地点の突風がマオの顔に吹き付けられる。

 身動きの取れないマオは、ミツキを待つしかなかった。


「く、くそっ……離せ! 化け物!」


 マオの体をキツく縛るは巨大な“赤い悪魔”の手だった。

 必死で抵抗するも腕の一本、抜け出すことは出来ない。


「これも真宮くんのためなんだ。ごめんよ」


 マンションの屋上からマオを見上げてトウカは申し訳なさそうに謝る。

 彼女が悪魔をゲームのコントローラで操作しているのだ。


「もうわけがわからない。夢なのか?」

「現実さ。小学五年生だったボクとキミ、そしてアカリさんの三人で怪獣と戦っていた。思い出さない?」


 トウカに言われるも、まだマオの記憶は夢の一件より以前は思い出したくても覚えていない。


「この悪魔みたいな怪獣……ボクは“魔獣ジーグレイツ”って今名付けた。こいつが最後だったんだ。ジーグレイツとの戦いはもう死闘だったよ。ボクのロボットは完成間近だったのにキミと合体しないまま終わってしまった……だからね」


 魔獣ジーグレイツは頭部の二本角から雷を発生させた。

 一瞬の閃光がビルや歩道の木々を黒こげにする。


「もう一度、やり直したいんだ。キミが“魔王”を駆り、ボクと合体して怪獣を倒す!」

「言ってる事と、やってる事が無茶苦茶だろ!」


 痛みに堪えながら掴まれている腕を何とか引き抜いてマオは叫んだ。


「ダイが操ってるのは怪獣だろ? ボクと合体したいなら町を壊す必要がどこにある!?」

「……敵もいないのに合体したって意味無いじゃないか。戦いを通して真宮くんと合体したかった…………それなのに!」

「マオォッ!!」


 どこからともなく鳴り響く唸るモーター音と共に、跳躍する山吹色の鉄乙女ライトニング。

 ホイールのついた脚部で雷を発生させる魔獣ジーグレイツの左角を叩き折った。


「あっ、ミツキ……うわぁぁー!?」

「マオッ!」


 怯んだ魔獣ジーグレイツがマオを掴んでいた手を離す。

 落下するマオを、すかさずライトニングはキャッチして魔獣ジーグレイツから距離を取った。


「な、ナイスキャッチ」

「良かった無事で」

「ウキョウ・ミツキ……っ!」


 下唇を強く噛み締めなからトウカはライトニングを睨み、コントローラのボタンを連打する。


「叩き潰せ、ジーグレイツ!!」


 魔獣ジーグレイツとライトニング。

 その大きさを比較するとまるで大人と子供、二倍以上の差があった。


「この間の怪獣とはわけが違うんだ! ぺしゃんこになりなよぉっ!!」


 負けるわけがない、と確信するトウカはコマンドを入力して魔獣ジーグレイツの巨腕をライトニングに向けて叩き付ける。


「二人をやらせるわけないじゃんかっ!?」


 ガァァーン、と重い衝撃音を響かせて魔獣ジーグレイツはビルに吹き飛んだ。


「だ、誰だッ!?」

「アタシ? アタシは芦田歩夢。マミヤンの“かのピ”なんでそこんとこヨロ!」


 それは魔獣ジーグレイツよりは小さいが建設重機にしては大きすぎる、全長十メートル、ターコイズブルーの“複合型人型作業重機”だった。


「さぁ行くよ、アシバリオン! 解体開始だッ!」


 コクピットは複数の操作レバーやスイッチだらけで複雑な操縦技術を要するアシバリオン。

 ギャル先輩ことアユムは馴れた手付きで意図も簡単にアシバリオンを操り、魔獣ジーグレイツに立ち向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る