第三十四話 集うヒロインの三機
右手に三段の刃が回転する掘削ドリル。左手には鋼鉄のチェーンが付いた巨大鉄球。
両肩のクレーンアームに強固な装甲で包まれる屈強な人型作業重機。
正式名称“スキャフォルド”こと通称“アシバリオン”はトウカの操る魔獣ジーグレイツの足を掴んだ。
「きたねえ体をウチが作ったビルに寄りかかんじゃ……ねぇッ!!」
力強いエンジンの唸る音を響かせ、アシバリオンより二倍も大きい魔獣ジーグレイツを引っ張ると、人がいない道路の方へと投げ飛ばした。
「ちっ、何なんだよ。このブサイクな箱ロボはぁ?!」
「お前かぁ?! 今までの建築費用まとめて付きつきてやるから覚悟しな!」
「くぅ……ジーグレイツ、焼き尽くせ!」
トウカは仰向け状態の魔獣ジーグレイツの状態を起こす。
魔獣ジーグレイツは残ったもう一本の角から放電させようとコマンドを入力するが、その角は弧を描いて吹き飛んだ。
「お……あ…………うわぁっ!?」
トウカの居るマンションの屋上に突き刺さり間一髪、避けるが腰を強く打ってしまった。
「くぅ、お前かぁ!!」
「……素材ゲットなりぃ。宝玉も出して、やくめでしょ」
大刀を肩に担ぎ、トウカを挑発するのは黒きサムライロボット、レフィのザエモンだ。
「おい、レフィ! オマエもそんなのあるなら先に言えよ」
「主役は最後に登場するのが決まり……」
「こっちはパ……親父に黙って持ち出したんだ! あぁ、絶対怒鳴られるぅ」
ズンズン、とキャタピラの付いた重い足で歩くアユムのアシバリオンはレフィのザエモンの肩を小突く。
そこにミツキのライトニングが合流し、二機の間に割って入った。
「二人は手を出さないで! これは……私が売られた喧嘩だから」
「はぁん?! 町でこんな怪獣が現れたなら皆で倒そうぜ?」
「フィニッシュを決めるのはレフィ」
二人の協力を断るミツキ。
皆で戦うことを提案するアユム。
マイペースなレフィ。
全員の意見はバラバラだった。
その内、勝手に喧嘩しだす三機を眼下に、無視されているトウカは顔を真っ赤にした。
「お前ら! ボクはお前たちに倒されるために怪獣を呼び出したんじゃないぞ!?」
「うるさいんだよ、芋女ァ! 倒されたくなかったら最初から呼ぶんじゃねぇ!」
「でもレフィは楽しい」
「くっ……ウキョウ・ミツキ! そいつらを黙らせろ!!」
「なんで貴方の言うことを聞かなきゃいけないのよ! それよりお姉ちゃんの死がなんだってのよ?!」
巨大物体に乗りながらも彼女たちの戦いは、ただの口論に発展していく。
収集がつかない舌戦を止めたのは、全ての発端となっていたマオだった。
「いい加減にしろッ!!」
その一言にシーン、となり固まる一同。
「……」
「……?」
「……っ」
「…………」
「僕は、何かを忘れている。それが何かはハッキリと思い出せないけど、そのせいで君達が争っているなら僕はこの場で謝る」
四人の前で、マオは深々と頭を下げた。
「マオ……」
「……マオ君」
「マミヤン?」
「真宮くん……」
「知っての通りセネス病って言う人に触れられない病気だ。だから、僕は誰とも合体しない。僕のことはもう放っておいて欲しい」
そう言ってマオは踵を返すと彼女たちの前から立ち去ろうとする。
しかし、マオの前に一人の女性が行く手に立ち塞がった。
「カイナ……さん?」
現れた長身の女性。
真宮家に仕える家政婦、クロガネ・カイナによく似ていた。
「真、宮……ま……オ……』
その瞳は赤く点滅し、口を開いていないのに、まるで機械のような音で喋っていた。
『マミヤ……マオ……』
「なんで、ここに……あっ」
デジャブ。
同じような目に二回も合っていたことに気付いた時には遅かった。
マオの腹部に触れたカイナの指先に電流が走る。
一瞬で気絶するマオを抱き抱える偽カイナは、体から煙を発して周囲一帯を覆う。
「なんだよ、これ?! 煙幕ってヤツかァ?! 何も見えないっ!」
「……Dammit! Was is hacked by YUSA?!」
「マオ……マオぉーっ!!」
特殊な成分なのか白煙はレーダーやセンサーをも無効可する。
三機はどうにかして煙を払い除けてみるも、目視で辺りを確認できる頃にはマオとカイナの姿は何処にもなかった。
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