第二十九話 看病はお静かに出来ない
「ちょっと、今日四時から友達来るんだからもっと静かにしててよね!?」
兄の部屋に駆け込むなり妹ミヤビはベッドの上の布団ダルマに怒鳴り散らす。
「ミャーちゃん、お邪魔してるね」
「むぅ、マオ君……暑くない?」
「これが噂のマミヤン妹か? 兄に似てちっせぇな!」
掛け布団にくるまるマオの周りに三人、ミツキ、レフィ、アユムがくつろいでいた。
「はぁ……また増えてるし、もう」
やたらベッタリと布団ダルマのマオにシャツのはだけた胸を押し付けるギャル少女アユムをミヤビはキッと睨んだ。
「まーにぃを変なアダ名で呼ばないでっ!!」
「お、やんのか妹~!?」
アユムはマオのベットから降りて立ち上がり、ミヤビの前に来て仁王立ちする。
「……で……デカイ」
「そりゃこの中で一番デカイからな!?」
「むぅ……オッパイはミツキがナンバーワン」
「見比べなくていいのっ!!」
女子勢が楽しそうにしている影でマオは黙っていた。
先日の路地裏での一件以来、体調不良で高校を休んでいる。
寝ても身体の倦怠感が全く取れず、頭もボーッとする日が続いた。
「マオ、大丈夫? ポカリ飲む?」
「……うん」
「わかった。はい、あーんして」
マオはストローつきの容器に入ったスポーツドリンクをミツキに飲ませて貰う。
「うん、冷たくておいしい……」
「あんまり飲むと、おトイレ近くなるからほどほどにね?」
「むぅ……ママっぽい」
マオが高校を休んだ日からミツキは、マオを病院へ連れていったり献身的な看病をしていた。
だが、いつの間にか近所に住むレフィと、最近知り合ったばかりのアユムまで学校終わりに真宮家に押し掛けていた。
「大体よぉ、兄貴が寝込んでるのに友達呼んでんじゃねえよ!?」
マオへの見舞品で持ってきたお菓子の煎餅をバリバリ食べながらアユムがミヤビに言う。
「テストが近くて勉強会なの! ミャーは、まーにぃが何かあったとき家にいなきゃいけないし!」
「アタシたちがいるだろぉ!?」
「ミツキちゃんはいいの! うちにはカイナさんだっているし」
「怒るなよ。あ、そういやこの前、冷蔵庫にあったプリン、マミヤンと食ったけど上手かったぜ?」
「キーッ!! お前が犯人かぁっ!?」
大事に取っておいた手作りプリンを勝手に食べられて、怒りのミヤビはアユムに飛び付いた。
狭いマオの部屋の中で喧嘩が始まった。
「むぅ……レフィ、犯人にされた。謝罪を要求する」
「ちょっ、おまっバックはヒキョッ……うひ、あひゃひゃひゃひゃ!?」
背後からアユムを取り押さえたレフィ。
にじり寄るミヤビはアユムの靴下を脱がして足裏を思いきりくすぐった。
「やめひょひゃひゃひゃひゃぁ!? も、むっ無理ぃっひひひひぃっ?!」
「許さん……プリンの恨みを思いしれ」
「レフィもやる……こちょこちょ」
「あぁーふひゃっひゃっも、もうっ降参っ! こうさっはぁっはぁぁー!」
二人がかりの大爆笑地獄を味わうアユム。
あまりに強烈なくすぐり攻撃で、これ以上は色々と漏れてしまいそうなぐらいギリギリなアユムだったが、家中に響いたチャイムの音で突然中止になる。
「ミャーちゃーん! 来たよぉー!」
外から叫ぶ女の子の声がマオの部屋まで届いた。
「開けてぇー!」
「あっ、来た……はぁい!」
大きく返事をするミヤビは立ち上がりマオの部屋を出ていった。
時刻は午後三時五十五分である。
「ぜぇぜぇ、アッブねぇわ……危うく失禁するところだった」
「汚い……」
「もう静かにしなさいよ。マオがゆっくり出来ないでしょ」
「……どうでもいいから、一旦皆部屋から出てってくれない?」
マオはごろん、と寝転がり、枕にうつ伏せになって呟く。
「見舞いに来るのはありがたいけど静かにしてくれよぉ……」
「ごめんね、マオ……皆取り合えず出よう?」
ミツキの先導でレフィとアユムも部屋から退散する。
やっと静かになったマオは大きく深呼吸して、そのまま眠った。
◆◇◆◇◆
その日の夜。
マオは昔の夢を見た。
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