第二十八話 怪獣コントローラ

「マオ君……マオ君、起きて?」

「ん…………うんん」


 自分の名前を呼ぶ声と身体中がガタガタと揺れる振動でマオは目覚める。

 何故だが身体中の疲労感が激しく、間接の節々がミシミシと悲鳴を上げていた。


「……痛っ……た…………レフィ?」

「やっと起きた」

「起きたけど…………ふえあっ?!」


 マオは重い荷物を運ぶ台車に座った状態で乗せられていた。

 しかも素足に上半身裸にボロボロのスカート状態と言う変態チックな姿であった。


「な、なにこれはっ?!」

「マオ君、倒れてた」

「倒れてたって……そうだ、トウカちゃんは?」

「むぅ……マオ君、知らない女の子と一緒だったの?」


 口を尖らせ不機嫌そうにレフィは言った。


「質問返しはなし! 僕、この間の女アンドロイドに襲われたんだ!」

「知ってる。でもレフィが来たときはマオ君一人だけ。敵は倒されてた」


 そう言ってレフィはスマホで撮影した動画を再生しマオに見せる。


「綺麗に撮れてるでしょ?」

「……僕をじっくりと撮さなくてもいいだろ」

「むう……ほら見て」


 倒れている半裸のマオに機械の残骸が大量に散らばっている。

 それも一体分ではない。

 頭部を確認できるだけでも五体分のアンドロイドが見るも無惨な姿を晒していた。


「バラバラになってる」

「誰がこんな、レフィ?」

「違う。レフィが来たときにはマオ君だけだった」


 マオは再び画面を見詰める。

 レフィが女アンドロイドを倒したのなら剣による切断されてなければならない。

 だが、画面の中の残骸はパーツがひしゃげていたり、力任せに引き千切ったのような跡が出来ていた。


「とってもオイル臭かった」

「うーん……じゃあ、トウカちゃんが…………ん?」


 ふと、マオは周りが気になってスマホから顔を上げた。

 帰宅時間で人通りが多い歩道のど真ん中。

 台車に乗った半裸少年の横を、通り過ぎる人たちはクスクスと笑いながらチラ見していた。


「れ、レフィさん加速ッ!!」

「合点承知の助ぇ~。どいたどいたぁ」


 マオの合図でレフィは勢いをつけて押し出すと、台車は夕暮れの町を疾走した。



 ◇◆◇◆◇



 その夜。


 高さ約四十メートル、地上十階階建ての真芯市で一番の高級マンション。

 町の復興作業が急がれる中、怪獣の出現地域であるにも関わらず唯一、被害を免れていた。

 最上階に一人で住んでいるトウカは不自由のない生活を与えられていたが、そこに自由などは存在しなかった。

 つい先日までは。


『ダイくん、今日はどうだった? 我が息子は元気にしてたかい?』

「とっても元気してましたよ。今日はコスプレをやってました」

『コスプレかァ、それは見たかったよ』


 風呂上がりのトウカはスマホのスピーカー音量を最大にして男と会話をしていた。


「でも、ユサのアンドロイドに襲われて大変でした」

『アイツらねぇ、本当ムカつくよ。いきなり手のひらクルクルさせやがって……どうやって切り抜けたの?』

「……………………真宮くんの力を使いました」


 トウカがそう言うとスマホの中の男はしばし黙ってしまった。


『うーん…………それで“魔王”は目覚めたのかね?』

「そこまでは……真宮くんも覚醒時の記憶は覚えてないみたいで」

『まだコントロールは出来ないか。君の方はどうだい? 怪獣コントローラは素晴らしい発明だろう? もう操縦も馴れた?』

「そうですね。次に来るときはちゃんと使いこなして見せます……怪獣次第ですけど」


 トウカは机の上の怪獣フィギュアと一緒に並べれたコントローラを見る


「そもそも怪獣って何処から来るんですかね?」

『難しい質問だねぇ……別次元からやって来る侵略者、地球の文化を模造した獣、イミテーション……一説には平行世界の人類とも言われていたり様々な説があるけど、どれを聞きたい?』

「長くなるなら大丈夫です」

『そうかい? かつての驚異も人類によって使われる側になりましたとさ。いやぁ技術の進歩は次元も越えるねぇ!』


 男は上機嫌に笑う。


『破壊の後に再生がある。犠牲があるからこそ人類は新たな一歩を踏み出せるんだ。それを忘れちゃダメだよ、ダイくん?』

「……前も言いましたけど、ボクを“ダイくん”と読んで良いのは真宮くんだけです。止めてくれませんか?」

『ままま、私だって真宮くんだよ…………はいはい、じゃあトウカさん暖かくして寝なよ』

「はい……それではおやすみなさい、ムリョウさん」

『うん、おやすみだね。よい夢を……』


 トウカは通話が切れたスマホと一緒にベッドへ飛び込むと、たった十秒も経たないまま眠りに落ちた。

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