第二十五話 二人の社長令嬢

 マオにとって構ってくれる人間が多いことは、それだけセレス病が発生するリスクが増えると言うことだ。

 だからと言って一人で生きていけるほどマオは強くはない。

 しかし、それは恋人が欲しいのか、それとも介護してくれる人が欲しいのか。

 とても微妙だ。


「帰ろ、マオ」


 下校時間。

 いつものようにミツキがマオを誘う。


「ん」


 マオの素っ気ない返事。

 還り仕度をして二人は教室を出て駐輪場に向かう。


「帰りはどこか寄ってく?」

「今日はレフィいないんだな」

「……マオはさ、レフィの事どう思ってるの?」


 ジト目で質問するミツキ。


「どうって言われてもなぁ…………悪いやつじゃないか?」

「それだけ?」

「……何を期待してんだよ」

「別にぃ……?」


 他愛もない会話続く。

 ミツキは毎日、文句も言わずにマオの送り迎えをしてくれている。

 この当たり前の関係がいつまで続くのか、マオはとても不安だった。


「……うっ……!」

「どうしたの? あっ」


 バイクに乗り込む二人が見たものは校門の前で待つススムの姿だった。

 眉間に皺を寄せ、前を通る生徒全員を睨みつけている。


「……どうする? 裏から帰る?」

「そうだね……って来た!?」


 ススムがマオたちに気付きズンズン、とした足取りで近付いてきた。


「女の子のバイクに乗せられて下校とはいいご身分だなァ?!」


 サイドカーに座るマオを見下ろして、ヘルメットをつつくススムの手をミツキは払いのける。


「何なんですか一体!?」

「あぁん? 五月蝿いな。アタシは真宮に用があるんだよ眼鏡」

「め、めが……マオには指一本も近付けさせません!」

「さっきはビビってた癖に威勢がいいじゃん?」


 獣のような鋭い眼光のススムを今度は負けじと睨み返してみせるミツキ。


「ふーん……じゃあさ、ちょっと勝負しないか?」

「し、勝負?」

「簡単な勝負さ。アタシが勝ったら真宮を好きに連れていく」

「なんで、マオを連れていく必要があるんですか?! なんの目的で!?」


 マオの腕をグイっと掴むススム。

 ミツキはマオを連れていかせまいと、バイクを降りてススムとマオの間に割り込んで立つ。


「実はな……ある人からウチの家、あぁウチは芦田建設って言うんだけど、そこに依頼があったんだ」

「芦田建設……」

「最近なにかと物騒だからな。新プロジェクトの立ち上げに真宮の協力が必要なんだ。公式発表前まで言えないけどな!」

「そちらの事情はわかりました。でもやっぱり勝負なんて受けません」

「ふーん、そんなこと言って良いのかなぁ」


 そう言ってススムはカバンから取り出したスマホを弄りだすと、ミツキにだけ見えるように画面を見せた。


「あの事件のとき、二人は何やってたんだろうな」

「一体、なんのこと?」


 それは美術室の中を窓の外側から撮った写真だ。

 写っていたのは開かれたロッカーの中で倒れるマオと、制服が捲れ上がり下着が露になっているミツキの姿だった。


「……こ、これはぁ……うっ!?」

「右京光希ちゃん。アタシが言うのもなんだけど、かなりのお嬢様らしいじゃん?」


 ニヤニヤしながら画像を拡大してミツキの下着姿を上下に舐めるように画面をスライドさせる。

 

「地味な眼鏡っ子の見た目のわりに大胆だなァ?」

「け、消してよっ!!」


 真っ赤な顔ですかさず手を伸ばすミツキだが、ススムはスマホを取らせまいと長い腕を高く上げて遠ざけた。


「成績優秀でクラス委員長も勤める、そんな子が狭ぁいロッカーで、こんな男子とイチャイチャ……コレばら蒔かれたら大変だなぁ?」

「二人でさっきから何を話してるんだ」

「マオは見ないでっ!!」


 ミツキはマオの頭をヘルメットごと押し込んだ。


「ぐえっ……!?」


 サイドカーのシートに沈み小さく呻くマオ。


「うぅ……わかった。受けるわよ勝負! 受けてやろうじゃない!?」

「グッド。楽しくなってきた。ついてこい……!」


 ミツキの誘導と従い。マオたちのバイクは発進する。

 その姿を後ろかな羨ましそうに少女は見ていた。

 

「……ふわわ…………むぅ、仲間外れ」


 あくびをしながらレフィはマオたちの三人、バイクを追いかけた。

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