第二十四話 校舎裏のギャル先輩

「アタシが何を言いたいか、わかるか?」

「いえ、わかりません……」


 マオは謎の不良ギャルに連れてこられて校舎裏へとやって来た。

 逃げられないよう壁際に迫られ、ただでさえ小さい体が更に縮こまるマオ。


 位置的に不良ギャルの顔が見えず大きな胸が─ミツキよりは小さいな、とマオ思いながら──バルンッ、と揺れて喋っているように見える。


「…………てか、なんでそんなに汗掻いてんだよ!」


 自分の手が異様に湿っていることに気付き不良ギャルはスカートで手を拭う。

 教室から校舎裏へ引っ張って来るまでの間にマオの見た目がどしゃ降りの雨にでもあったかのようなずぶ濡れ具合に少し引いている不良ギャル。


「こ、これは体質で……」

「そうはならねえだろ」

「……て言うか、どちら様で?」


 ハンカチで額を拭きながらマオは恐る恐る名前を聞いた。


「アタシは芦田進夢(アシダ・ススム)。芦田建設って言えばこの辺じゃ名は知られてるだろ?」


 不良ギャルことススムは自慢げに言ってみせた。


「親切丁寧、スピード建築がモットーの芦田建設だ」

「あぁ……なんか最近、建物の工事が多いような? 見たことある」


 株式会社芦田建設。


 マオたちが暮らす真芯市に本社を置く、日本ではトップクラスの建築総合メーカーである。

 あの有名なタワーや、テレビで紹介されている話題のショッピングモールも全て芦田建設が手掛けている一流企業だ。


「アタシはそこの社長の娘だぞ」

「へぇ、そうなんだ」

「……って今はそんなこと関係ねェんだよ!!」


 何故か逆ギレのススム。


「自分から言い出した癖に……」

「何か言ったか?!」


 ススムは壁をドン、と叩きマオを威圧する。

 その勢いでマオの下顎をススムの胸がアッパーカットした。


「いえ、何も!!」

「それでだ、オメー……この間、学校に出た女サイボーグに追っ掛けられてたろ?」

「う、うん」

「それは何でだ?」

「聞かれても……わからないよ」

「理由もないのにあんな変なもんに狙われないだろう?!」


 正直に答えているマオだったがススムは納得しなかった。


「それは僕も知りたいよ! あんなの初めて見たし」

「ウチのグループ会社は警備サービスもやってる。ここ数日、近隣の防犯カメラ映像がこの間の女サイボーグらしき影を映してるんだ。それもオメーの家の周りでだ!」

「そ、そうなの?」


 驚くマオ。

 自分が普段から狙われている、などと全く思いもよらなかった。


「現場に行ってみると争った後がある。監視カメラも壊されて、何があったのかもわからない。ここ最近、仕事が増えすぎてウチのオヤジもイライラしてアタシに当たるんだよ!!」


 ススムの言うことは、もはや八つ当たりだった。


「だから知らないよ、そんなの!?」

「絶対オメーが何か関わってるのは間違いない! 正直に白状しやがれ!」


 マオの小さい肩を首ごと掴んで前後に強く振り回すススム。

 近すぎるためかススムの張りのある大きな胸がマオの顔を何度も往復ビンタしてきた。


「ぶっ……ぐるじぃ……絞ま、落ちるぅ……ぅぶっ!!」


 そんな時、マオの前に救いの女神が二人の間にニュッと現れた。


「マオ君」

「わあっ?! なんだァおまえ?!」

「ぜぇぜぇ……れ、レフィ……」

「授業始まる。行こ」


 眼前で真っ直ぐマオを見詰めるレフィ。


「近いよレフィ……」

「知ってるぞ、転校生。三年の間でも外国人が来たって噂になってる」


 レフィを見た瞬間、ススムの表情が険しく変わった。


「ふぁ……誰?」


 あくびをしながら、ススムの顔をまじまじと見るレフィ。


「確かレフィーティアって名前だよな?」

「うん、呼ぶときはレフィでいい」

「オメーか……ウチの仲介もなく、あのそこのアパートをリフォームしたらしいじゃねぇか?」

「快適マイハウス」

「そういうことじゃねえよ!」


 ブイサインするレフィに調子を狂わされるススム。


「どこがやった? あそこはウチのおじいちゃん、先代社長が建てたらアパートなんだ。それを勝手に改築しやがって……っ!?」

「レフィの家はレフィの物。マオ君、行こ」

「だ、だぁから掴むのはダメだってぇ、レフィぃぃ……!?」


 校舎からチャイムが鳴り響く。

 レフィはマオのビチョビチョの腕を握り締め自分達の教室まで走り去った。


「ゼッテー白状させてやるからな!? 覚悟しとけよォ!」


 二人の後ろ姿に向かって、ススムは見えなくなるまで叫び続けた。 

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