第二十三話 ギャル先輩に連れられて

 朝。

 今日はしばらく間、休校していたマオの高校の登校日だ。


「まーにぃ、おっ……起きてるのか。ツマンナ」

「そりゃ起きてるだろ。顔も洗ったし、歯も磨いた」


 ミヤビがマオの部屋に飛び込むと既にマオは制服に着替えていた。


「ほら、どいたどいた」

「う……うん」

「どうした? 元気ないぞ」

「えぇ? いやだなぁ、そんなことないかも。ミャーはいつでも元気だよ!」


 ぎこちない顔でミヤビは笑ってみせる。

 妹に不自然さを感じながらもマオは自室を出て、台所でトースターに薄切りの食パンを突っ込んだ。


「カイナさんは?」

「さ、さぁ。今日はもう帰ったかな?」

「そうか……ミャー」

「はいっ?!」


 冷蔵庫からヨーグルトを取り出そうとしたミヤビがビクッと跳ねる。


「スマホ鳴ってるぞ」


 テーブルの上で震えるピンクのスマホを慌てて取るミヤビ。


「はい! …………あぁ、マコちゃんか……うん、今出るから外で待ってて」

「友達か? まだ早いだろ」

「うん、最近物騒だから集団登校しろ、って学校の決まりなんだってさ。まーにぃは憧れるよね」

「別にどうでも……さっさと行ったら?」


 しっしっ、と追い払おうとするマオにミヤビは背中から軽く抱き締める。

 突然のことに固まるマオ。


「……ちょっ!?」

「まーにぃはミャーだけの物なんだからね……ミツキちゃんにも渡さない」


 そう言ってミヤビは椅子に引っ掛けていた学生鞄を持ち出ていった。


「はぁ…………シャツ着替えよう」


 水を一杯飲んでマオは自室に戻った。



 ◇◆◇◆◇



 普段の日常。

 いつも通りミツキのバイクに乗せられてマオは学校に登校する。


「……やけに静かだな……」


 休み時間。

 机に伏せながらマオは横目で教室を見渡す。

 今日はミツキは他の生徒との会話を楽しみ、隣の席のレフィはいつにも増して眠たそうな顔をしている。


「たまには、こういうのもいいか……ふぁ」


 レフィのあくびに釣られて大あくびをするマオ。

 もうすぐ五月末の天気は少し暑く、制服のブレザーを脱いで一眠りしようとした、その時だった。


「おいっ!!」

「ひっ?」

「なんだぁ?!」


 ガン、と強い音を立てて教室のドアが開かれると、更に大きな声を上げて女生徒がマオのクラスに入ってきた。

 近くにいた生徒が小さな悲鳴を上げる。


「このクラスに真宮ってヤツはいるかっ?!」

「……ま、真宮?」


 金髪に耳に大きなピアスを下げ、如何にも“不良ギャル”な制服を着崩した少女だ。

 上履きの色から上級生である三年であった。


「真宮は誰だって聞いてるんだよッ!?」


 外の廊下に聞こえるほどろ声で叫ぶ不良少女。

 その迫力に圧倒されて生徒たちは一斉にマオを指差した。


「お前が真宮かぁ!?」

「……そっ、そうだけど?」

「ちゃっと面ァ貸しな……っ」


 不良少女はマオの服の襟を掴んで簡単に持ち上げると、そのままマオを連れて教室から出ようとした。

 そんな不良少女の前にミツキが立ち塞がる。


「マオ!? あなた、待ちなさい!」

「あァんッ……なんだァ?!」


 鋭い眼光で不良少女はミツキを思いきり睨む。

 ミツキも背は高い方だが、それよりも大きな不良少女のプレッシャーに思わず目を反らしてしまった。


「な……なんでも、ないでしゅ…………」

「……チッ……ほら、こっち来いや!?」

「た、助けてくれミツキ……ミツキぃぃぃ!」


 助けを呼ぶ声も虚しく、不良少女は強引にマオを連れて何処かに消えていくのだった。

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