第十五話 忘れ去られたファーストキス

 怪獣との戦いが終わり、ミツキはライトニングを兄の運搬トレーラーに預けた。


「……上手くやれたかな、お姉ちゃん」


 ライトニング本体からバイクのライトニングを切り離すと、急いで学校まで戻るミツキ。

 街の人は避難したせいか道は空いている。


「マオを襲ったアンドロイドと怪獣の出現……これは偶然?」


 考えるも共通点のようなものは見えなかった。

 人造的な物体と巨大生物。


「そんなことより、マオはどうなったんだろう。急がなきゃ!」


 正門前から校庭を覗くと、女アンドロイド騒動で逃げ出した生徒や教師たちが集まり、警察官とパトカーが三台止まっていた。

 ミツキは見つからないように裏口から入り、バイクを来賓用の駐車場に起いて校庭の生徒たちの中へこっそり紛れ込んだ。


「……なんだろう、あれ?」


 見知った自分のクラスである2年A組の生徒たちが何やら一塊に集まっている。

 何事かとミツキは人だかりの中心を覗き込んだ。


「真宮、大丈夫なのか?」

「問題ない。王子さまはキスで目覚める……」

「それ逆なんじゃない?」


 そこには気絶して横たわるマオをレフィが抱き抱えようとしている光景だった。

 優しい眼差しでマオの顔に自分の顔をゆっくりと近付けるレフィ。


「マオ君…………目覚めの、ちゅー」

「だ、ダメェェェェーッ!!」


 ドン、とレフィを押し飛ばそうと前に出るミツキ。

 しかし空振りしてミツキはマオの上にのし掛かってしまった。


「痛たたた……」

「ミツキ、遅い」


 すっくと立ち上がるレフィ。

 行方を眩ましていたクラス委員長ミツキの登場には他の生徒たちが心配そうに駆け寄る。


「右京さんどこ行ってたの?」

「そうだよ。みんな心配してたんだから」

「あ……ごめんなさい。それでどうなったのこれ?」

「レフィが全部倒した」


 鞘に入った刀を掲げてレフィは自慢気に言った。


「レフィちゃんは俺たちのヒーローだよ!」

「もっと誉めて」

「それで今まで委員長はどこに?」

「それは……ちょっと…………外まで逃げてた、かな」

「怖がりすぎだろ委員長!」


 笑いが上がるクラス一同。

 ミツキも皆に合わせて苦笑いをするが、レフィだけは無表情で笑っていなかった。


「うっ……うーん……お、重い…………」

「マオっ!? あぁ、ゴメン!!」


 先程からずっとマオに身体を押し付けていたのを忘れていたミツキは直ぐに離れる。

 重さから解放されてマオは起き上がり、フラフラした頭で周りを見渡した。


「…………うぅ……あれ? ここは?」

「学校よ。よかったぁ無事で」

「無事でぇ、ってミツキが掃除道具入れに閉じ込めたんだろ!」


 マオの言葉に周囲がざわつく。


「委員長、本当になにしてたんだよ……」

「真宮くん何されたの?」

「それは……えーと、閉じ込められたあとなんかいきなり抱きつかれて、いつの間にか記憶を失って……やばい、なんかボーッとしてよく覚えてない」

「だ、抱き付かれた?!」

「……委員長…………あんたって人は……」


 クラスメイトたちの頭の中に二人が“いかがわしいこと”していたのではないかと言と想像が浮かび疑いの目が向けられるミツキ。

 どう言い訳したらいいのか、と冷汗をダラダラかきながら焦るミツキだったが、そこへスーツ姿の男二人がやって来た。


「すいませーん、ちょっといいですか?」


 男たちは警察官だった。

 取り出した警察手帳を見せると二人はレフィの前に立つ。


「君が遊左レフィさん?」

「……そう」


 少し警戒した感じでレフィは言った。


「学校を一人で守ってくれたのは非常に素晴らしい事だと思うんだけどもねぇ。君、ハーフ? 銃刀法違反って知ってる?」

「ハーフ……半分? レフィの国じゃ自分を守るために必要」

「海外じゃどうかは知らないけどさ、しかし普段から持ち歩いてるそうじゃないか」

「学校の中で何が起こったのか、ちょっとお話だけでも聞かせてもらってもいいですかな?」

「…………わかった」


 コクり、と頷くレフィはそのまま警察官らに先導されて停めてあるパトカーに向かった。

 心配したマオが追い掛ける。


「レフィ!」

「……ちょっと行ってくる」

「ありがとう。君が助けに来なったら僕はどうなってたことか、本当に……」


 命を救ってくれた恩人に心からの感謝の言葉を述べるマオ。

 すると、レフィは振り返りマオに飛び付いて熱い口づけを交わした。

 がっつりと抱き合い、何十人もの生徒や教師の視線が二人に釘付けになる。


「……れれ、レレレレ……フィ?!」

「レフィのファーストキスだよ、マオ君」


 顔を赤らめるレフィ。


 マオは卒倒した。


 消え行く意識の中、自分を抱き抱えながら叫ぶミツキの表情が焼き付いて離れなかった。

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