第十四話 中学時代とセネス病
混沌とする意識の中でマオは昔のことを思い出していた。
◆◇◆◇◆
中学時代のマオは特異な病気をからかわれ不良グループからいじめにあっていたのだ。
そんなマオをある同級生が助けたことにより、その同級生が不良たちに連れ去られる事件が起こる。
自分の事で巻き込んでしまった責任から同級生をたった一人でマオは助けに向かう。
『ぼ、僕が相手になってやる!』
不良の溜まり場である廃ビルに単身乗り込んだマオ。
威勢はいいが、小学生から身長が全く伸びないマオと、背の高さも力の強さも差がある不良相手では全く敵うはずもない。
なす統べなく身体を抑えられ羽交い締めにさながら、暴行を受けるマオ。
不良たちは本気で殴っているわけではなかった。
マオがセネス病による症状で少し触っただけでオーバーなリアクションをするのを不良たちは面白がった。
普段ならば気を失って倒れるだけなのだが、断続的な暴行でそれも出来ない。
その時、死を覚悟したマオの中で何かが弾けた。
『……あ……あ、れ…………僕は……どうなった?』
気が付くとマオの周りに不良たちが倒れていた。
全身に激しい殴打の痕。
何が起こったのかマオにはわからなかった。
その一部始終を目撃した同級生によると.、不良たち全員を一瞬の内にマオが倒してしまったという。
全員が病院送り。
やりすぎとも言える惨状に自分のしたことを恐怖するマオ。
これがきっかけでマオは、セネス病による新たな症状を知ることになる。
◇◆◇◆◇
いわゆる“火事場の馬鹿力”と呼ばれる一定状況下で瞬間的に筋力を最大限に向上させる事象に近いが、セネス病のマオのそれは常人とは遥かに違った。
百メートルを八秒台で走り、砲丸を三十メートル先まで投げ、跳躍力は十メートルを切る。
記録だけを見ればトップアスリートになれること間違いなし。
だが、この力はセネス病の発症による肉体が限界を越えようとする際に発揮されるものである。
これを何度も繰り返し使うことになれば死に至るかもしれない危険なモノだ。
その事実を知ったマオは更に人との距離を離して生活するようになった。
超人的な運動力があるのだとしても、インドア派でスポーツには疎く興味がないマオには必要のない力である。
また人を傷付けてしまう可能性だってあるかもしれないのを恐れた。
ソーシャルディスタンスなんて古い言葉を理由に自ら孤独を好み、孤立し、荒んだ中学時代を送るマオ。
そんな彼を救ったのが幼稚園から幼馴染みである右京光希だった。
『どうせ僕はずっと一人で生きていくんだ』
『大丈夫! マオは私が守るから!』
友達も作れないマオが唯一、ミツキだけは気を許せる身近な存在であり、セネス病での身体であっても一緒にいて落ち着ける“友人”だと思っている。
友人と表現したががミツキに対して好意が微塵もない訳ではない。
はっきりと言ってしまえばとても好意を抱いているし異性として“好き”なのだ。
だが結局のところ、人と親密になり距離を詰めようにも壁となるのはこの病だった。
マオの青春は恋愛という感情を殺した。
◇◆◇◆◇
それから年月が経ち、ミツキや妹ミヤビが懸命に支えてくれた甲斐もあって、中学三年生になった頃、マオの性格は明るさを取り戻していった。
相変わらずセネス病が治る気配はないが、ミヤビが毎朝マオにちょっかいを出すことで少しずつリハビリになって症状が多生なりと和らいでいる。
そしてマオとミツキの二人は揃って同じ高校を受験し見事、合格した。
中学時代、マオがセネス病のせいで人が大勢が行き交う通学時間帯から遅れて学校に来ていた事を不憫に思ったミツキは、夏休みになるとバイクの運転免許を取得する。
校則の厳しい高校ではないので、学校から許可が降りればバイク通学も問題はなかった。これが不良生徒ならば別の話である。
ミツキが真面目な生徒である事とマオの特異な病気については学校側も認知しているので許可は直ぐ降りた。
こうして二学期から二人のバイク通学が始まり、現在に至るのだ。
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