第八話 隣のアパート・フルカスタム

 翌日の早朝。


 登校時間になってミツキは、いつものようにマオをバイクで迎えに行くと騒がしい声が真宮家から聞こえてきた。


「もー! 一体アンタ誰なのよぉ!」

「レフィはレフィ。ムリョウに頼まれた」

「何でさ?! パパを何で知ってるの?! まーにぃに何の関係があるのよっ?!」

「まー……にぃ……? マーニィ違う、マオ君」


 ミヤビはいきなり現れた謎の少女に向かって叫び散らす。


「誰かぁ、まーにぃが変な女に拐われるぅ!!」

「むぅ……マオ君はレフィが連れていくのー!」


 稲妻マークのバイクが真宮家の前に颯爽と到着する。


「み、ミツ……キぃ……!」


 マオが青白い顔で助けを求める。

 そこで起きたのは項垂れるマオの腕を、左右から引っ張り合うミヤビとレフィの姿だった。


 昨日の二の舞にするわけにはいかない、とミツキは死にかけているマオを二人から救出する。


「ちょっ……何で貴方がここにいるのよ!?」

「……朝だから……?」

「そうじゃなくてぇ!」


 マイペースなレフィは首をかしげる。

 このゆっくりとした独特な間にミツキは調子を狂わされてしまう。


「むぅ……日本の言葉はムズカシイ」

「あぁもう! だから昨日はでっかい車に乗っていたでしょう? あれで登校、学校に来てたんじゃないの?」

「必要ない。横の家、買った」


 レフィは真宮家の右隣に建つ古ぴたアパートを指差した。


「買った、って借りたの間違いじゃ……いやいやだってここ確か築五十年の木造で相当古いし、一部屋だってかなり狭いでしょ」


 困惑するミツキ。


 真宮家との交流は幼稚園からだ。

 その時に建てられた新築で二階建ての一軒屋。

 左隣は道路を挟んで三階建ての雑居ビル。

 コロコロと店が変わり現在、喫茶店のみとなっている。

 問題の右隣にあるアパートはミツキが初めて見たときからオンボロで、幽霊が住んでいると噂もあった。


「中、見て」


 ガチャリ、と見た目より重い扉を開ける。


「どうぞ」

「……え? なにこれ?」


 ミツキは目を疑う。

 想像していた四畳半の和室ではなく、部屋一つを丸々使った清潔感の溢れる大理石の広い玄関だった。


「スリッパ履いて、土足厳禁」

「二階も……ぶち抜かれてる?」


 更に扉を開けて入ると、そこはオンボロアパートの中とは思えない白い壁に覆われた広くて綺麗なリビングダイニングだった。

 ロフトの付いた高い天井に、まるでホテルにあるようなガラス張りのバスルームまで完備されている。

 置かれている家具も高級そうなものばかりだが、その中で異彩を放つ戦国武将が付けていそうな鎧兜だ。

 漆黒の刀を携えて部屋の中央に置かれた台座に仰仰しく鎮座していた。


「お客さん、沢山来ても安心。敵来てもサムライソードでエイヤーとやっつけられる。これが一石二鳥」


 色々と間違った感性のレフィは鼻息荒く言う。


「すごーい! ソファ大きーい! クッションも超柔らかーい!」


 早速くつろいでいるのはミヤビだ。

 一体どこに売っているのかわからない謎のおにぎり型ヌイグルミ──鮭味──を抱いて高級ソファを堪能している。


「気に入ったならあげる。レフィは梅味があればいい」

「本当? ヤッター!」


 一名陥落。

 一旦冷静になろうとミツキは一度外に出る。

 何度見ても外観はどう見ても古びた木造アパートそのものだった。


「一体どういうトリックを……いや、待って!」


 ミツキは何気なく壁に触れると違和感があった。


「これ……木じゃない?!」


 接近してよく見るとそれは木目調デザインをした樹脂素材だった。

 所々、ささくれだって見える所も凹凸は全くないツルツルとした表面をしている。

 他にも各部屋の扉が並んでいるがドアノブがなく開けることは出来ず、窓ガラスもダミーで中は覗けない。

 そして極めつけに防犯カメラがあらゆる角度に設置され、敷地に入る者をバッチリ捉えていた。


「レフィ用にカスタマイズした日本のハウス。でも中身は最新アップデート」

「…………ははは」


 無駄な技術力に圧倒されてミツキはただ笑うしかなかった。


「うおわぁぁぁぁーっ!?」


 突然の悲鳴が轟く、マオの声だ。

 ミツキとレフィは声がしたアパートの反対側に走る。


「な、何なんだよもうー!?」


 木の上で網に絡まったマオが逆さまでぶら下がっていた。

 

「……トラップもある」

「「今すぐ外して!」」


 これから起こる波乱の幕開けだった。

 

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