第五話 みんなの前で「合体」を?
「レフィって名前、もしかして外国人!?」
「髪がキレイ……スタイルも日本人離れしてる」
「うちの制服じゃないけど、外国の学校のか?」
突然、現れた美少女に沸く教室。
特に男子生徒は皆、他のクラスに聞こえるぐらい大きな歓声を上げている。
興味のないマオを除いては。
「ねぇ、どこ出身?」
「アメリカです。父は日本の人、母はアメリカの人です」
「好きな食べ物はなんですかー?!」
「フォックスウドン」
「ユーはどうして日本に?」
「それは……彼です」
質問攻めレフィの突然マオを指差す
「…………え?」
窓の外を見ていたマオが視線に気づくと、レフィは脇目も降らずにマオの席へと歩いていき、机の横でしばらく見詰める。
「………………」
「は? えっ……なんなの?」
「マオ・マミヤ君?」
「……あぁ……うん、そうだけど」
レフィは顔を近付けマオの顔をじっくり観察しながら尋ねる。
今日初めて会ったばかりの転校生に突然、名前を聞かれて何事かと困惑するマオ。
「マオ……知り合いなの?」
怪訝な表情でミツキは聞くがマオは顔を横に振る。
その他クラスメイトたちも転校生レフィとマオ、二人の様子を固唾を飲んで見守っている。
「…………たい……」
「ん? 今なんて言ったの?」
レフィは大勢が見ている前で真顔でその言葉を言った。
「ワタシと“合体”しましょう」
「……合……体……?」
時が止まったのかと思うぐらいクラス全員が、転校生の放った言葉が理解できず静まり返った。
「合体……してみる?」
レフィはいきなりマオの頭にぎゅっと抱きついた。
「ムリョウに言われた。ワタシのとなら合体できるって」
「ムリョウ……もしかしてマオのお父さん?」
「んぅぐ………………んふおぁぁぁぁーっ?!」
突然の事にわけのわからなくなったマオは、レフィの慎ましくも柔らかい胸の中で叫んだ。
「ま、マオっ!?」
「「「うおおおぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!!!」」」
転校生の口から飛び出した“合体”と言う言葉とマオへの抱擁に男子生徒たちの悲鳴が轟いた。
「ちょっと、ちょっと! いきなり何てことを言うのよ! こ、こんなところで……合体……なんて!」
恥ずかしがりながらミツキな叫ぶ。
「ガッタイ……レフィの日本語おかしい? 通じてない……イントネーションの問題? ムズカシイ、勉強が足りないかも」
「んふおっ、ぶおおぉぉ!?」
周りが何に驚いているのかわからず首を傾げるレフィ。
一方のマオは頭を力一杯、押さえられているせいで胸の中に溺れながら意味不明な言葉を上げる。
必死に抵抗をしてみるも、顔を覆う軟らかいものがマオをキツく包み込んで離さない。
「むぅー…………おかしい……早く出して?」
「おかしいのは貴方でしょ! マオから離れてっ!」
止めに入るミツキは手を伸ばした。
しかし、レフィはマオを抱き締めたまま後退りする。
腕の隙間から見えるマオの耳は真っ赤に染まり、頭部から大量に出た汗がレフィの制服の袖を湿らせている。
「どうして? 誰なんです、アナタは?」
「は、早くマオを離して!」
「むぅ……アイサツは大事。アナタの名前、聞いてる」
「……私は、右京光希」
「ウキョー…………ワタシは遊左レフィーティア。今後ともヨロシク」
ぺこり、と会釈するレフィ。
その一瞬、抱かれているマオの首が締まりレフィの腕を小刻みにタップした。
「よろしく……じゃあなくてっ!」
「もしかして、おこりんぼう?」
「もー! いいからマオを離してって言ってるのよ!」
近付こうと手を伸ばすミツキ。
だが、レフィは逆にマオを抱いたままミツキの出した手を伝って顔前に迫り、瞳を見詰める。
「……わからない」
「な、何が!?」
「アナタも合体したいのですか?」
「は、はぁぁーっ?! なっ、何を言ってるのよ君はっ!! いいからマオを離しなさいっ!!」
赤面するミツキは、マオの腰を持ってレフィから引き剥がそうと試みる。
だが意外にもレフィは強く、マオの首をガッチリと掴んで離そうとしない。
「いーやー!」
「嫌じゃない! マオはびょう……普通の人とは変わってるんだから! 」
「んーっ! んんーっ!!」
そして始まる現代の大岡裁き子争い。
痛がる子を思って離した方が本当の親である、と言う話だが、レフィもミツキもマオの悲鳴はすっかり無視して絶対に離すまいと必死だった。
「んふー! んー…………んぐ……ん…………………………」
上下から引っ張られて苦悶の声を上げるマオであったが次第にそれも弱くなっていく。
「う、右京! マオが!?」
「二人とも、真宮君を見て!」
そんなマオの異変に気付いたのは周りの生徒たちだった。
「キャー! 真宮くんがぐったりしてる!
「だ、誰か! 真宮を保健室に!」
「うわぁぁぁ! 真宮がまた死んだぞ?!」
「えっ……ま、マオっ!?」
しまった、と言う顔をして急いでマオを離すミツキだったが既に遅かった。
周りの騒ぎように困惑するレフィは自分の胸に沈むマオの顔を確認する。
「…………これが……ナムアミダブツ……?」
レフィはゆっくりとマオを元の席へと座らせる。
白目を向き、口から泡を吐いて気絶するマオは机に勢いよく突っ伏す。
(生まれ変わったら鳥になりたいな……)
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