第四話 緋色の転校生、来る

 時刻は八時十分。

 マオたちを乗せたバイクは市立真芯高等学校に到着する。


「はぁい。着いたよマオ」

「ん……あぁ、ごめん。ちょっと寝てた」

「ほらほら、起きて。そこ足元注意して降りてね」

「子供かっての!」


 学生用の自転車置き場にバイクを止めて、二人は下駄箱に向かった。


「マオ、シャツ出てるよ」


 ミツキはマオのブレザーの下から飛び出たシャツの裾を、手早くズボンに入れた。

 マオはミツキを睨んだ。


「…………」

「どうしたのマオ、薄目して?」

「よくもまあ気付くよね」

「目の付け所が良いって言って欲しいな」

「母親かって」

「おばさまからは『マオをよろしく』って言われてるもの」

「あのね、噂されるってことを考えないかな?」

「何を?」

「だからぁ!」


 キーン、コーン、カーン、コーン。


 長々と喋っているのを遮るように始業を知らせるチャイムが廊下に響く。


「……急ぐよ」

「うん」


 二人は急いで上靴に履き替え、自分たちの教室へと向かった。


 ◇◆◇◆◇


「おはようございます」

「……ちゃす」


 礼儀正しく挨拶をする二年A組のクラス委員長であるミツキと、その後ろで小さく会釈するマオ。


 二人が一緒になって学校に来ていることは学校中の誰もが知っている。


 ド派手な大型バイクを乗り回す、清純で知的な美人のミツキは男子生徒だけでなく女子生徒からも憧れの的だ。


 数々の男子生徒がミツキにアタックするが、尽く撃沈していく者が後を絶たない。

 それを邪魔している存在と言うのが、ミツキといつも一緒にいる見た目は小学生なマオだ。


 男子生徒らがする噂では、マオは中学時代に中京地区一帯の不良を全員ぶちのめした“魔王”の異名を持つ裏番長だと密かに恐れられている。


 しかし誰も二人が恋人同士であるとは思っていない。


 登下校、昼休み、休日と普段の二人を目撃した人からすれば、やり取りがあまりにも自然すぎて、付き合っていると言うよりかはどう見ても親と子、もしくは姉と弟のようにしか見えないのだ。


「課題やってきた?」

「まだ少し残ってる。三限目までには何とかする」

「ふーん、ちょっと見せてみて? マオぉ、もっと綺麗に書きなさいよ字」

「書いてるよ!」


 マオの席は教室の一番後ろで窓側。

 その前にミツキの席がある。


「ねぇマオ知ってる?」


 ずり下がった赤い眼鏡をくいっと上げながらミツキは、マオの隣の机をシャーペンで指す。

 ホームルームが始まろうとしているのに、その席には誰の荷物もなく座ってすらいなかった。


「今日、転校生が来るんだって」

「先週ぐらいに噂になってたな……まさかうちのクラスなんだ」

「そそそ。黒いリムジンが止まってた奴。なんか怖いよねぇ」

「ウチの高校って県内でも中の下ぐらいだよな? なんでまた……」


 マオは嫌な顔をしながら昨日までは無かった机を見詰める。


 一応、病気に配慮して最後尾の横列はマオ以外に生徒の座る席はない。

 もちろんマオが自分から言ったわけではなくミツキが気を効かせてくれたお陰でこうなったのだ。

 直接的に身体へ触れなければ問題はないのであるが、ミツキの心配性が少し行きすぎなのではないかとマオも困っている。


「はい、みんな席に着いてくださーい!」


 ガラガラ、と教室の扉を開けて担任の若い女性教師が入ってくると、生徒たちは会話を止めてそれぞれ自分の席に戻った。


「ホームルームを始める前に……」

「先生! 転校生が来るんですよね?」

「女? 男?」


 期待に胸が膨らむ生徒たちが一様にざわめき始める。


「はいはい静かに静かに!」


 騒ぐ生徒たちを手を叩いてなだめる女教師。


「みんな知っての通りですけど、今日はこのクラスに転校生が来ます……それじゃあ、どうぞ?」


 女教師は廊下で待つ転校生を呼ぶ。

 開かれた扉より現れたのは、鮮やかな緋色の髪と金色の瞳をした少女だった。

 予想以上だった美少女の登場に男子たちはざわつく。


遊左ゆさレフィーティア。ワタシを呼ぶときはレフィ……日本の皆さんヨロシクお願いします」


 黒板の前に立ち、ゆったりと少しつたない口調の日本語を話す転校生レフィ。

 歯車のようなデザインの髪留めが付いたツインテールを揺らしながら深々とクラスメイトたちにお辞儀をした。

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