#26

クレア「いただきます。」



クレア、おじやを一口掬い、口へと運ぶ。



クレア「んっ…!はふっ…!…。」


ナツミ(なんというか、わかっちゃいたけど、濃ゆいな。匂い通り。いろんな味がするような気がするけど、群を抜いて塩味が感じ取れる。感じ取れる通り越して少し塩辛い。一言で表すなら…”男飯”。まぁ、男が作ったんだけどさ。美味しいかと聞かれたら、わからない。なんだか、味に薄い膜?靄があるような、輪郭がボヤ―っとして鮮明さがない感じもするし…。これはさすがに熱さのせいかな…?)



クレア、黙々と食べ進める。



ナツミ(そうだ、デスクや鞄のチェックを忘れてた。きっと一番使う身近なものだろうから、もっと私生活のクレアちゃんを掴めるだろうし、もしかしたら今後の動きに関わる重要なものが見つかるかもしれない。そうでなくても、ロイドから借りたノートで休んだ分の勉強は補えるけど、それよりも前のことも頭に入れておかないと。急にお勉強ができなくなったら怪しまれるし、なによりクレアちゃんがおバカなんて解釈違いだ。それと、レスティブルの大会の話も聞いたし、時間軸がどのあたりなのかは大体わかった。それも踏まえてストーリー全体の流れも見ないとな…。…よし、早々に食べ終わろう。)



―ピロン♪



ナツミ(ん?)



ナツミ、食事の手を止め、音の発信源である鞄のサイドポケットからスマホを取り出した。



ナツミ(スマホだ!さっき本で読んだ。ゲームをしていた時にはさほど気にならなかったけど、この世界の生活水準は魔法の存在するファンタジーの世界にもかかわらず、あたしたちの世界とあまり変わらない。つまり、家電は普通に存在しているし、スマホが人々にとってなくてはならない存在なことは変わりない。ただ、一つ大きな違いとしては、どうやらこの世界に電気というものは存在していないらしい。じゃあ何で動いているかというと、この世界の人全員が多かれ少なかれ持っている魔力。その魔力に反応して稼働しているらしい。つまり、家電=魔道具…?まぁ、詳しい話はよく分からないけれど、魔力はみんなが持っていてこれがある限り使えるし、枯渇するものじゃないからサステイナブルで便利~って話。)



クレア、スマホの外観をさっと回して見ると、ホーム画面をつける。



ナツミ(この世界の流行り廃りはよく知らないけど、程よくおしゃれでセンスが良く、女子って感じのスマホケースとストラップがついている。んで、ホーム画面はおそらくデフォルトの設定のまま。通知の内容は…。)



ジンズ―:Aces0

シェイラ≪クレア復活したんだって??≫


ナツミ(シェイラ…シェイラ・ザード…!あたしが創ったオリキャラだ…!クレアちゃんと同じ学園で、学園に4人しかいない女の子のうちの一人。黒のAを持つ少女。当たり前かもしれないけれど、実在しているんだ…!!)



クレア、通知を確認するためにアプリを起動する。



ナツミ(えー、どれどれ…。このジンズーってのはアプリの名前か。動画や写真を投稿したり、個別にチャットもできるわけ、と。まぁ、スマホがあればこういうアプリは絶対にあるよね。それで肝心のチャットが…グループ宛で、グループ名はAces0(エーシーズ)。間違いない、名前からしてAを持つ女の子たち、つまりあたしのオリキャラちゃんたちのグループだ…!あれ?でも、所属は5人になってる。もう一人は…シキ、か。『乖離の箱庭』の主人公。原作だと唯一の女の子。つまり、アルカレッド・フォーストに所属する女子による女子のための女子グルか!)


シェイラ≪おーい、クレア起きてるぅ??≫


ニーナ≪さすがに休まれてるんじゃないですか?目覚めたのも今日ですし、きっとお疲れでしょう。≫


フィノ≪でもよかったぁ、しんぱいしてたんだ≫


シェイラ≪それなー!意識不明の重体って聞いたときはビビったわ~≫


ニーナ≪よりによってクレアさんでしたからね。まぁ、逆にクレアさんだったからこの程度で済んだのでしょうけど。≫


シェイラ≪確かに(笑)重体の人間が三日寝続けて復帰なんだからスゴいよねw入学前の騒動でもピンピンしてたし!≫


フィノ≪もうひとりいるのはしきちゃん?≫


シェイラ≪ん?ホントだー!既読、3になってる!≫


クレア≪あたしだよ。みんな心配してくれてありがとう≫


シェイラ≪クレアだー!!起きてたんだ?≫


ニーナ≪具合のほうはどうですか?≫


クレア≪うん、もう大丈夫!ありがとう≫


シェイラ≪じゃあきっとシキはまたスマホの充電切らしてるな(笑)≫


フィノ≪そうかもしれないね≫


ニーナ≪充電って概念が面倒ですからね。≫


シェイラ≪かわいそうだよねーろくに魔道具も使えなくって≫


フィノ≪うーん、でもしきちゃんもとからあまりすまほもちあるかないから…≫


ニーナ≪充電切れていても気にしていない、むしろ気づいていないことの方が多いですね。≫


シェイラ≪スマホなしでいけるとか尊敬するわー≫


ナツミ(賑やかだな。仲のいい女の子のグループってどこでもこんな感じだよね。)


シェイラ≪ねぇー、話変わるけどさ~クレアの復活祝いに集まろ~!≫


ニーナ≪ただ集まる口実が欲しいだけじゃないですか。≫


シェイラ≪まねーみんなで喋りたいのとクレアのおいしいお茶とお菓子が食べたいことは認めるー≫


ニーナ≪それが全部でしょうが貴女は。≫


シェイラ≪えへー!≫


クレア≪集まるってお茶会のこと?≫


シェイラ≪そうそう!女子会!!そんな訳でフィノ、中庭使えそう?ガーデン!≫


フィノ≪おにわならたぶんへいきだとおもうけど…よういしておくね!≫


シェイラ≪そんな訳でクレアぁ~≫


クレア≪わかったよ。お茶とお菓子を用意すればいいんだね≫


シェイラ≪さっすがクレア!話がはや~い!≫


クレア≪いつやる?あんまり急だと用意が…≫


シェイラ≪逆に最短いつ?≫


ニーナ《ちょっと、シェイラ。急かしすぎでは?》


クレア《うーん、明日は用事もあるし、そうと決まれば準備もしたいから明後日以降かな…》


シェイラ《じゃあ明後日!!》


ニーナ《貴女って人は本当に強引なんだから…。》


シェイラ《フィノもいいよね?まぁまぁ、無理ならまたズラせばいいっしょ!》


クレア《りょーかい!んじゃ、シキにはあたしから言っておくよ。》


シェイラ《すぱしーば!》


フィノ《たのしみにしてるね!》


シェイラ《ニーナは忘れてたらウチが引きずってくから!!》


ニーナ《はいはい。その時はお願いします。》



ナツミ(Aと会う約束をしてしまった…。しかもセッティングをあたしがやるのか…。お茶会なんてなんか高さがあって数段になっているお皿に一口で食べられるようなお菓子や軽食があることしか知らない。あとは何が必要なの?あ、お茶は必須かお茶会なんだから…。まぁ、でも紅茶の入れ方も知らないあたしがクレアちゃんになって初めてでもできたんだ。きっとどうにかなるだろう…と信じたい。)



クレア、会話が一段落ついたスマホの画面を落とす。

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