#25
ノアの手にはミトンがはめられ、そこには彼らが作った特製おじやが収まっている。
ロイド 「大丈夫か?代わるか?」
ノア 「ミトン渡せないからいい。」
ロイド 「そうか。そういえばさっき追いかけていた時、ずいぶん離れたところでもいい匂いが残っていたぞ。大成果じゃないのか?!」
ノア 「ふふん。初めておじやを作ったっていうか、料理自体がほとんど初めてに近かったけど、このくらいならヨユーでしょ!」
ロイド 「これでクレアの疲れた体が少しでも癒えればいいな!」
ノア 「…別にそこまでは言わねぇけど、ただ、疲れて飯も食えないくらいなんてどうしようもないから、仕方なく…!…ん、待てよ?アイツすごく疲れてたんだよな?」
ロイド 「?あぁ。そうに違いないって。」
ノア 「それで早めに部屋で休めってなって…。」
ロイド 「それがどうかしたのか?」
ノア 「アイツ、ワンチャンふつーに寝てね?」
ロイド 「…。…それは…考えていなかったな…。」
ノア 「…。」
ロイド 「…。まぁ、でも着いてしまったし、もし本当に疲れて寝ているのなら、これは僕たちの夜食ということでおいしくいただこう。」
ノア 「え。」
ロイド 「?何か不都合か?」
ノア 「あ、いや。別に。でも、おじやなんて冷めても温め直せばおいしく食えるだろ?」
ロイド 「そうだろうな。でも、それがどうかしたんだ?」
ノア 「!いやいい!やっぱ何でもない!!」
ロイド 「?…じゃあ、ノックするぞ…?」
ロイド、クレアの部屋をノックする。
―コンコンコンコン
***
クレア 「っ!…。」
クレア、ノックの音を聞きつけ、バルコニーから離れて扉に向かう。
クレア 「はい。」
―ガチャ
扉を開けるとロイドとノアが立っていた。
クレア 「なんか用?…こほん。夜分にアポもなしにレディの部屋を訪ねるなんて何の御用?」
ノア 「お前のために来てやったんだろう?」
クレア 「は?」
ロイド 「ほら、クレア食堂に顔を出さなかっただろう?それで、夕食を食べ損ねているんじゃないかと思ってな。」
ナツミ (あ、そういえば確かにご飯は食べていない。何も感じていなかったから気づかなった。)
ノア 「それで俺たちがわざわざ持ってきてやったの。」
ノア、持ってきた特製おじやを見せつけるように突き出す。
クレア 「え…もしかして手作り…?」
ロイド 「あぁ。もうほとんどの人が夕飯を終える時間だし食堂に頼むのも悪いと思ってな。」
ノア 「俺たち料理なんてしたことないから味は保証しないけど。」
ナツミ (食べ損ねに気が付いて持ってきてくれるだけでなく、手作りなんて、なんて美しい友情なの…!ノアロイドの手料理が食べられるなんて、ノア担ロイド担にバレたら暗殺されかねない事案だな。…oh。でも、これ何作ってくれたんだろう…。なんというか、とても濃ゆいかほり…そして全体的に茶色い…。見てわかるのは肉、肉、肉…。黄色いのはきっと卵かな?あはっ、そうであると信じたい…。)
ロイド 「前に一度作ってくれたお礼もかねておじやに挑戦してみたんだ。」
ナツミ (あー、おじやね。おじや。わかるよ、うん。おじやだって茶色いときはあるよね、シェフの気まぐれ的な…。)
ノア 「へばったクレアのために野菜とか肉とか健康にいいものたくさんぶち込んで煮たんだぜ。」
ナツミ (なるほど…。気遣ってくれたことはとてもうれしい。でも、良い子のみんなはちゃんとレシピ通りに作ろうね。体にいいものも用量用法を守って適切に摂取しよう。)
ノア 「っていうか、まだ制服のまま着替えてもいないの?」
クレア 「あっ、これは今までちょっと休んでて、これから着替えようとしてたの!…レディをジロジロ見るなんてえっち。」
ノア 「はぁ!?そんなんじゃねぇよ!!あーあ、レディを自称する人が着替えもせずそんなんでいいんだか。」
クレア 「うるさいなぁ。」
ロイド 「やっぱりそれだけ疲れていたんだろう。表には出ていなくともな。」
クレア 「ま、とにかくわざわざ持って来てくれてありがとう。呼んでくれれば談話室まで行ったのに。」
ロイド 「それは休んでいたところ悪いだろう。」
クレア、ノアからおじやを受け取ろうとする。
ノア、クレアに取られる前におじやを下げる。
ノア 「まだ熱いよ?どーせここまで来たんだし、中まで運ぶけど。」
ナツミ (どうしよう…入れる?部屋を散策したとき確認しただけで特に何もいじってはいないから、部屋はモデルルームのきれいなままだけど…。考えろ。役として、クレアとして考えるんだ。場に流されてはいけない。…今のクレアちゃんはまだ誰も信頼していない。そんな中でつるんでいるだけの人をハリボテだらけとはいえ、プライベートの、いわば自分のテリトリーに入れるだろうか?)
クレア 「…。えー、ワルイよ。もう遅いんだし、二人もあたしに付き合ってないで早く休みな。」
クレア、さらに踏み込んでおじやの器に触れる。
クレア 「うん、このくらいならダイジョウブだよ。冷めたみたい。」
そう言って、ノアから取り上げるようにおじやを受け取る。
ロイド 「そうか。なら、これも渡しておこうと思っていたんだ。」
ロイド、ノートを取り出す。
ロイド 「クレアが休んでいた分の授業ノートだ。うまく纏まっているといいのだが…。」
クレア、おじやを片手に持ち替えロイドからノートを受け取る。
ノア 「…。」
クレア 「二人ともありがと。」
ロイド 「じゃあ、おやすみ。」
ノア 「ゆっくり休めよ。」
クレア 「わかってるよ。おやすみー。」
クレア、扉を閉める。
ノア 「…。」
ノア (あれは本当に冷めていたのだろうか?おじやから外された片方の手は見るからに赤くなっていたような気がするけど…。)
ノアの手にはまだ温かさが残っている。
ロイド 「いつも通りだったろ?」
ロイド、歩き出す。
ノア 「…ん?あぁ、うん。」
ノア、ロイドに合わせて歩き出す。
ノア 「ったく、心配して損したぜ。」
ロイド 「憂鬱だったみたいだな。」
ノア 「は?…なに、杞憂って言いたいの?」
***
クレア、閉じた扉にもたれかかる。
ナツミ (ふぅ、何とか追い返せた…。)
そして再び歩き出す。
ナツミ (申し訳ないけれど、やっぱりここには入れられない。ここに入るためには本当のクレアちゃんを知ってもらわないと。)
クレア、おじやを二人掛けにしては大きめのテーブルに乗せ、ノートはデスクに置いた。そこで、執務室でルイスからもらったボーロが目についた。クレア、それを何気なく手に取る。
クレア (あ、ルイスのテイクアウトボーロ…二人にもおすそ分けすればよかったな。まぁ、明日お礼を言うときにでも渡そう。ん…?手が、赤く腫れてる…?あ、そっか。思った以上に器が熱かったんだな。気が付かなかった。)
クレア、自分の手を見つめていると次第にそれは自然なものへと収まっていった。
ナツミ (さ、それじゃあせっかく作ってくれたんだし、冷めないうちにいただこうか。すごい匂いが立ち込めてるけど…はぁ、これは残るだろうな…。窓開けっぱなしだったことに気づいたけど、かえって正解だったかも。)
クレア、キッチンからレンゲを取り出し、席に着く。
クレア 「いただきます。」
クレア、おじやを一口掬い、口へと運ぶ。
クレア 「んっ…!はふっ…!…。」
ナツミ (なんというか、わかっちゃいたけど、濃ゆいな。匂い通り。いろんな味がするような気がするけど、群を抜いて塩味が感じ取れる。感じ取れる通り越して少し塩辛い。一言で表すなら…”男飯”。まぁ、男が作ったんだけどさ。美味しいかと聞かれたら、わからない。なんだか、味に薄い膜?靄があるような、輪郭がボヤ―っとして鮮明さがない感じもするし…。これはさすがに熱さのせいかな…?)
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