#21
クレア、ティーセットを持って、執務室から出る。
ナツミ (ふぅ…これで寮の件は一件落着、かな?それにしてもレスティブル大会の話は耳寄りな情報だったな。たしかあれはメインストーリーに出てくる一大イベント。これでストーリーの大まかな進行状況と時系列がわかる。)
廊下を歩こうとするクレア。忍び寄る影。
クレア 「!」
その時、クレアの背後めがけて木の根が絡みつく。
クレア 「どわっ!?」
ナツミ (なになになに!?)
それは瞬く間にクレアを拘束する。手荷物は奪われ、縛り付けられるのに、クレアはとっさに首元に腕を入れ、首が締まることを防いだ。
ナツミ (敵襲!?どゆこと!!?)
木の根に全身を縛られる。
ナツミ (締め付けられる感じはないけど…クレアちゃんを背後からこんなにするなんて…何者!?)
その正体を掴めることなく、瞬く間にクレアはもの凄い力で根ごと引っ張り出される。
木目調の寮の風景が今までにない速さで過ぎ去ってゆく。
ナツミ (まずい、このままじゃ空に投げ出される!)
ナツミの予想は的中し、根に引かれるままのクレアはふわりと宙に浮く感覚がして外に投げ出される。気が付けば視界一面、夜の群青に染まりつつある空だ。
ナツミ (やっば!もう陸地から結構距離がある。身体じゃどうにも支えられない!箒?魔法?こんな簀巻きの状態じゃ何もできない!!落ちっ・・・!)
しかい、ナツミの考えとは裏腹にクレアが外に投げ出されると木の根はゴムが伸びきったかのようにピンと張った。
ナツミ (えっ?)
わずかな静止。
それも束の間、次の瞬間には先ほど来た方角に戻るような形で引き寄せられるのであった。
クレア 「うわ~~~~~~~!?」
第一階層のテラスを抜けて談話室へ。それはあまりにも一瞬の出来事だった。
そこでぴたりと木の根は止まる。クレアは今の間に何が起こったのか理解が追い付かず呆然としている。
ナツミ (と、止まった・・・?なんだか、とんでもないアトラクションやバンジーを体験したような・・・。というか、これはどういう状況だろう?巻き付かれた木の根にすり寄られている?いや、頭を撫でられているのか?)
ロイド 「珍しいな。クレアが声を上げるだなんて。」
談話室にいたロイド、ヴァル、ノアの三人が物珍しそうにクレアを覗き込む。
ヴァル 「いや、あんな手荒な真似されたら誰だって叫ぶだろ・・・。」
ノア 「おいおいユグドラシル、クレアは病み上がりなんだよ。だからあんま無茶させてやるなって。万全じゃないんだよ。」
すると、ノアの呆れた声に反応して木の根は引きさがり、クレアの拘束が解ける。
ナツミ (ん?ユグドラシル?そうか、寮と一体化して生きているんだっけか・・・。)
木の根は申し訳なさそうにその先をくねくねと曲がらせた。
ロイド 「でも、ユグドラシルも久しぶりにクレアに会えて嬉しかったんだよな。」
ロイドの言葉を肯定するように木の根は再びクルクルとマフラーのようにクレアに巻き付いて、撫でるようにクレアに触れている。
ナツミ (なんか・・・懐いている犬に舐められているような感覚だ。)
視界の端で別の木の根が動いているのが見えた。それはクレアから取り上げたティーセットを談話室のキッチンの流しに片づけている。
クレア 「・・・。心配してくれてたんだね、ユグドラシルも大変だっただろうに、ありがとうユグドラシル。」
クレアも木の根を撫で返す。すると、木の根はその先をハートの形に曲げた。
リズ 「おや、その様子だと無事解決できたようだね。」
リズ、箒をバッグチャームに戻しつつ談話室に入室する。
ユグドラシル、挨拶をするようにリズのもとに近付く。
クレア 「リズ先輩、おかえりなさい。お疲れ様です。」
リズ 「あぁ、ただいま。ユグドラシルも久しぶりだね。」
ヴァル 「あ、ユグドラシル戻ってきたってことは、もうアイツらに脅しが利かねぇじゃん。」
ロイド 「たしかにそうだな。ユグドラシルが正常に起動していないことが味噌だったし。」
ノア 「いや、アイツらは気づかないよ。ただ、ガチで落ちる可能性がなくなったってだけで、今でもブルブル二人仲良く震えあがってるんじゃないの?」
クレア 「もしかしてさっきの揉めてた人たちのこと?あれから結局どうしたの?」
ヴァル 「ふふん!聞いて驚け!オレ様の超スーパーハイパー制裁の元、完膚なきまでにとっちめてやった!!」
クレア 「・・・具体的に言うと?」
クレア、ノアとロイドを見る。
ノア 「・・・。」
ノアは知らぬ顔でクレアと目を合わせようとしない。
クレア 「ブルブル震えあがるような何をしたの?」
ロイド 「あぁ、縛り上げて寮の外に吊るしたんだ。」
ヴァル 「そうだ!ちゃんと反省するように二人協力しないと落ちちまうようにしてな!どうだ、完璧な策だろ!」
ノア 「バッカ!?素直に全部言うやつがあるかよ!!」
ヴァル 「あ?なんだよノア、お前が言い出して一番乗り気だったじゃねぇか。ゲッスい顔してよ。」
クレア 「・・・この空しかない寮の外に、行動の制限をかけて放り出したの?ましてやユグドラシルの管理がない時に?」
ロイド 「クレア、怒ってるのか・・・?」
ヴァル 「な、なんでだよ!?」
ノア 「アホ・・・。」
ナツミ (どう考えてもやりすぎだ。そりゃ何日も休めてなく、気が立ってる目の前で騒ぎを起こされたら余計腹は立つけれども・・・この発想にたどり着くヴァミラード生タフすぎるでしょ・・・。)
クレア 「はぁ・・・。ユグドラシル、その人たち降ろしてもらってもいい?」
ユグドラシル、木の根で頷く。
ヴァル 「なんで怒るんだよ。先輩たちだってよくやってるじゃねぇか。紐も何もなしに人を投げ出したり・・・。」
ヴァル、不機嫌そうに頬を膨らませる。
ナツミ (拗ねてる次元が・・・話のレベルがタフすぎる・・・!!)
クレア、リズを見やる。状況を呑み込もうと珍しく真面目に人の話を聞いていたリズと目が合った。
リズ 「安全が確保できないままやる、バカな真似は一度もしたつもりはないよ。万に一つ本当に落ちてしまったらどうするつもりだったんだい?」
ロイド 「それは・・・。」
ヴァル 「・・・。」
リズ 「この空の果てを知るものは誰もいないんだ。もしかしたら、陸地がなくて一生落ち続けるかもしれない。仮に陸地があったとしても、見えないほどに離れた陸地だ。そんなところに衝突でもすりゃ命なんてひとたまりもないだろうね。・・・どうお考えだったんだい?」
リズ、少し凄むと空気がピリつく。
ノア 「・・・っ。」
ロイド 「すみません。考えが足りませんでした。」
リズ 「まったく君たちまで帰ってきて早々クレアにいらぬ手間をかけさせて・・・。・・・そうだ、一番手間をかけさせたアホルイスはどこにいる?」
クレア 「ルイス先輩なら、まだ執務室にいらっしゃるかと。」
リズ 「そうか。・・・詳しい話は知らないが、どうやら君たちだけに責任があるわけじゃないようだ。そもそも君たち入学したてのほやほや1年生だけで問題を対処しているのがおかしい。諸々の処遇は執務室で詳しい話を聞かせてもらってからにするよ。僕についておいで。あぁ、一人でいい。状況を詳しく知っている者で。」
3人、黙って顔を見合わせる。
リズ 「・・・言わば責任者だ。その場を総括していた者。」
ヴァル 「・・・オレです。」
リズ 「よし。なぁに、そんな怯えた顔するんじゃないよ。君たちへの説教はこれでおしまいさ。ただ、寮内の詳しい話が聞きたくてね。」
ヴァル 「うっす・・・。」
リズ 「それともあれかい?ルイスがおっかないのかい?」
ヴァル 「な!別にビビってないっすよ!!」
リズ 「ふふ、アイツは無駄にデカくて貫禄があるからねぇ。君たちみたいな小さくてかわいい1年生は怖くてたまらないだろう。」
ヴァル 「オレは小さくもカワイくもねぇ!!」
リズ 「うんうん、どれ、ここは僕が一肌脱いでヤツのアホ話を・・・。」
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