#16

ノア「しゃーない、俺がやってあげるよ。」



ロイド、不服そうにノアと入れ替わる。

ノア、手際よくアクセサリーを取り付ける。



ノア「でーきた。」



クレア、左手をあげ、つけてもらったアクセサリーを見る。



ナツミ (クレアちゃんの白くて細くて綺麗な腕から指先にかけて、3人の友情の証がついている…。エモいな。)


クレア 「ありがとう。」



ノア、得意げに笑う。



クレア 「ロイドもありがとうね。」



ロイド、眉をゆせて困ったように笑う。



―パシャッ!



突然、保健室にシャッター音が鳴り響く。

見ると、シキが教室の奥の方に下がってカメラをこちらに向け、ファインダーを覗いていた。



シキ 「…あ、ごめんね。やっといつも通りに戻れたなって。」


リズ 「確かに、4日ぶりの3人の笑顔だろうからね。」


キャロル 「特待生は本当に笑顔が好きだね。」


シキ 「はい。特に3人の笑顔は写真映えするので。」



シキ、安心したように嬉しそうに顔を綻ばせる。



ロイド 「クレアはもう戻っても平気なんですか?」


キャロル 「うん。今のクレアちゃんは健康そのものだからね。もう寮に戻っても平気だよ。」


リズ 「瀕死の状態から4日。素晴らしい回復力だね。」


ノア 「よかったなクレア!サシでリベラ先生の相手しなくてもいいってよ!」


ナツミ (…。)


クレア 「…。」


ノア 「クレア…?」


クレア 「…あぁ、うん。なんだっけ?」


ノア 「おい、本当に大丈夫かよ。」


クレア 「ダイジョウブだよ。ちょっとぼーっとしちゃってた。」


ノア 「…本当?」


クレア 「本当本当。“ダメなときはちゃんと言うよ。”」


ノア 「…!…本当に覚えてねぇの…?」


クレア 「?」


ノア 「…なんでもない。」


ロイド 「本当にどこも問題はないのか?」


リズ 「そこまで不安がるのなら自分たちで確かめるといいさ。」


ロイド 「確かめるといいさ、と言われましても…。」


ノア 「そんなことできるんですか?」


リズ 「いいかい?君たちはいずれ大魔道士になるんだ。大魔道士にできないことなんてないのだよ。」


キャロル 「簡単だよ。まず、容態を見たい相手の手を取って、その手に向かって魔力が流れ、相手の体を巡ることを想像するんだ。」



ノア、ロイド言われた通りにそれぞれクレアの手をとり、ゆっくり目を閉じる。



ナツミ (あ、またサラサラとしたのが流れ込んでくる感じがする。今度は両手から。両サイドから体を巡って…そして、ぶつかる。)



―バチン!!



ノア 「痛って!?」


ロイド 「っ!?」


クレア 「!」


リズ 「馬鹿だね。両サイドから流し合ってどうするんだい。」


キャロル 「ありゃりゃ、お互いの魔力が体の中でぶつかり合っちゃったね。本来なら片手から魔力を流して、もう片方の手からはその魔力を逃してあげるんだけど。」


ノア&ロイド 「「っっっっ〜〜〜〜!!!!!」」


ノア 「それもっと早く言ってくださいよ!!」


ロイド 「スッゲェ痛かった…。」


リズ 「人の話を最後まで聞かず、浅はかな行動をする方が悪いのだよ。少し考えてみればわかることだろう?」


ノア 「くそぅ…。」


ロイド 「ぐぅの音も出ないな。」


シキ 「大丈夫?体の中で起こったからクレアちゃんが一番しんどいと思うんだけど。」


クレア 「あたしは平気だよ。」


ナツミ (確かに静電気みたいなビリッとした感覚はしたけど、痛みにはカウントされない。)


ノア 「クレアって変なところで鈍いよな。」


クレア 「えっ?」


ナツミ (そうか…。痛みを感じなかったんじゃなくて鈍くなってるんだ。根本的にクレアちゃんの痛覚や痛覚に対する認識が人よりも鈍いんだ。本来なら普通の人には耐えられないような痛みだったんだと思う。自分でつけた設定だけどいざ体感するとなんだか悲しいな…。)


リズ 「まぁ、両サイドから確認したのなら、どちらからも異常が検出されなかった限り問題ないということなんだろう。」


ノア 「まぁ、特には…。」


ロイド 「何もなかったですね。」


ナツミ (!この流れ、聞けるかも。)


クレア 「でもそれって物理的な異常だけですよね?」


リズ 「どういうことだい?」


ナツミ (カミングアウトするなら、今しかない…!)


クレア 「実は…あたしは本物のクレアちゃんじゃありません。クレアちゃんの体に入った、成り代わり…。」


「「…。」」



温度のない視線が集まる。凝視。この視線は…敵視。



クレア 「だったら、どうするんだろうなぁって…!」


ナツミ (無理無理無理無理!!これ以上は危険だって!めっちゃ殺気感じる!特にリズとノア!大魔導士に殺されるって!?プラン変更!!)


リズ 「どうするかなんて簡単なのだよ。…どんな手を使ってでもボクたちのクレアを取り返す。偽者なんていらないからね、その過程でどうなったってどうだっていいだろう。」


ナツミ (大変ご立腹でいらっしゃる!?それだけクレアちゃんが愛されているのは嬉しいけれども!!)


リズ 「君はこれからボクたちが何になるか知っているかい?」


クレア 「…魔導士の中でも最も優秀な大魔導士です。」


リズ 「で、君は何者なんだったっけ?」


クレア 「…クレアです。ほんの冗談のつもりでした、すみません。」


リズ 「よろしい。冗談は場をわきまえて言いなさい。」


クレア 「…はい。」


ナツミ (ガチで叱られた…。)


ノア 「はぁ~…冗談かよ、一瞬マジで真に受けちゃったじゃん。」


ロイド 「随分神妙な面持ちだったからな、僕もかなり焦った。」


シキ 「今の話が本当だったらびっくりだよ。だって今までのクレアちゃんに全く違和感がなかったんだから。」


ナツミ (そりゃ、あたしが創ったキャラクターですもの。クレアちゃんが何を考え、どんな行動をして、どういう言葉遣いなのか、手に取るようにわかりますわ。)


キャロル 「でも、それはありえないよ。この魔法は体中に魔力を巡らせるからね。精神と肉体の不一致は互いの魔力が別で感じ取れるからむしろ一番わかりやすいんだ。実はこの魔法は外傷よりも内傷を探るのに適しているというわけさ。」



爽やかな風が窓から吹き込み、キャロルの髪を撫でる。揺れる髪からは額にあるⅩの刻印が見え隠れている。しかし、爽やかな風はナツミのざわつく心を攫ってくれることはなかった。



ナツミ (じゃあ、あたしのこの状況はどう説明つけるの?異世界からの精神だから特異的な何かなのかな…?)


ロイド 「なるほど…。」


ノア 「うへーなんだか授業みたい。」


リズ 「そもそも、こんなことをしなくてもリベラ先生が見逃してる時点で何も問題は無いのだろうけどね。」


ノア 「なんでここでリベラ先生が出てくるんですか?」



リズ、ⅩⅩの刻印がくるぶしに入った右脚を上に脚を組む。



リズ 「何を言っているんだい。あの人はここの魔導学校のOBつまり大魔導士だ。大魔導士がそのくらい気づけないわけないだろう。」


ノア 「え!?リベラ先生ここのOBなんすか!?」


クレア 「知らなかったの?ここは大魔導士になるための勉強を教えてるんだよ?だからここの先生はほとんどこの学校のOBなの。」


ロイド 「言われてみればそうだな…先生のご出身なんて考えたことなかった。」


シキ 「あのリベラ先生がエリートなのもなんか意外だしね。」


リズ 「さぁさ、与太話はこのくらいにして。保健室は健康な人がたむろする場じゃないんだ。これ以上用がないのなら、退室を願おうかね。」


キャロル 「とくにクレアちゃんはまだ本調子じゃないこともあるだろうから寮に戻ってゆっくり休むといいよ。」


リズ 「寮に戻るのならついでにあの馬鹿ルイスもどうにかしておいておくれ。」


クレア 「ルイス先輩?」


ノア 「そうだった…!」


ロイド 「思い出したくないことを思い出してしまったな…。」


クレア 「?」


リズ 「本人はあれで隠したつもりなんだからまったくたちが悪いのだよ。」


ロイド 「平たく説明するとだな…クレアショックのルイス先輩にユグドラシルが感化されたんだ。」

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