#14

リズ 「結局、こうして当番を後輩から代わってあげたのも無駄足だったのだよ…。」


キャロル 「まぁ、まぁ。代わったおかげでこうしてクレアちゃんの元気な顔をいち早く見れたんだしさ。」



キャロル、クレアのベッドの脇まで移動すると跪き手を差し出す。



キャロル 「一応キミの身体に異常がないか確認してもいいかい?」


クレア 「?…はい。」



クレア、疑うことなく差し出された手に重ねるように手を置く。

キャロル、もう片方の手もクレアから受け取り握る。そして目を瞑る。



クレア 「!」



キャロルから、淡い光が放たれ、その光がクレアの手に流れ込んでくる。



ナツミ (何かサラサラしたものが繋がれた手から流れ込んでくるような感じがする…!でも、不快な感じはないな。どちらかというと清らかなものが体の血管を巡る感じ…。)



リズ 「…どうだい?」



光が止む。



キャロル 「うん。大丈夫だ。どこも問題ない。」


ナツミ (問題ない?あたしがクレアちゃんの体に入っちゃってることが一番問題だろうに…。あ、身体的問題のことかな?)



ノア 「特待生!早くしろよ!!」


ロイド 「おい!それ以上スピード出したらまたリベラ先生に叱られるぞ!」


リズ 「ふふっ、騒がしい子たちが来たね。」


キャロル 「心配で一目散って感じだね。」


ナツミ (そうだ!さっきノアたち放課後は特待生も連れてくるって言ってた!さっき色々考えちゃったけど、佳境にも差し迫っていない物語の黒幕を探るのはナンセンスだ。とはいえ、ゲーム内ではデフォルトの顔は無いし、前情報も何もない。一体どんな子だろう…。ちょっと緊張する…。)



リズ、隣の部屋に移る。キャロルもその後を追う。



リズ 「お望み通り叱ってあげようか?」


ノア 「えぇ!!リズ先輩!?」


ロイド 「リズ先輩!」


ナツミ (声しか聞こえない…。)


リズ 「まったく、君たちはどこにいたって騒がしいねぇ。」


ノア 「なんでいるんすか!?」


リズ 「君たち1年生と違ってボクたち3年生は授業が早く終わりがちなのだよ。」


キャロル 「それで暇だから忙しそうな後輩たちの代わりに保健委員の当番を代わってあげたんだ。」


ナツミ (委員会?…そんなのに所属してるの?聞いたことない。…?)


ロイド 「キャロル先輩もチワッス!」


キャロル 「こんにちは。特待生もこんにちは。」


特待生? 「こんにちは。」


ナツミ (特待生(仮)の声がする…。多分女の子だよね?公式じゃ男装系女子だったはずだし。でも、声だけじゃまだ判断つかない感じだな…。)


リズ 「一応ここは保健室なんだからあんまり騒がしくするんじゃないよ。他に患者がいたら追い出していたからね!」


ノア 「えー、学校の先生1喧しいリベラ先生が担当な時点で、それは守れてないんじゃないですか?」


キャロル 「まぁ、それは一理あるね。」


ロイド 「なんでも暇な時間に勝手に人生相談開催するらしいしな。」


特待生? 「あれ、なんやかんやためになるって結構好評なんだって。」


ロイド 「そうなのか!?なら僕も一度は…。」


リズ 「とにかく!クレアはまだ病み上がりで安静にしている必要があるんだ。あんまり騒がしくするんじゃないのだよ。」


ノア 「はーい。」


ロイド 「病み上がりの人間にケーキ食わせたのは先生だけどな…。」


リズ 「はぁ、あの先生は…。」


キャロル 「きっとクレアちゃんの緊張をほぐしてあげたかったんじゃないかな?目が醒めていきなり保健室じゃ、誰でもびっくりするだろうしね。」



ノア、ロイド、隣のクレアのいる部屋に入ってくる。



ノア 「クレア、来たぜ。」


ロイド 「変わりないか?」


クレア「ノア、ロイド。うん、ヘイキだよ。」


ノア 「そりゃ1時間で何か変わってた方が怖―よ。」


ロイド 「む、それもそうか。」


特待生?「クレアちゃん。どう?大丈夫?」



ノアとロイドの間からひょっこりと二人と比べたら背の低い子が顔を見せる。



ナツミ (この子が特待生…。ん?女子にしては短くて男子にしては長い黒髪に、糸目…。ローブみたいな制服着てて体格や骨格からもどっちだかわからない。背の低い華奢な男子にも見えるし、普通に女の子にも見える。男装女子としては成功なんだろうけど…。不思議な雰囲気だな。…まぁ、性別はどうでもいいか。性別で人となりが変わるわけでもないし。)


クレア 「うん。えっと…。」


ナツミ (あれ?特待生のデフォルトネームってなんだったっけ?)


リズ 「…もしかして、特待生のことは忘れてしまったのかい?」


クレア 「あ、いや…。ちょっと引っかかっちゃって…。」


特待生 「しょうがないね。こっちの世界ではあまり聞き馴染みのない音らしいから。シキだよ。」


ナツミ (シキ…。シキ…?そんな特徴的なデフォルトネームなの?ゲームのデフォルトネームってもっと定番な名前じゃない?…シキ。なんかな。言われてみれば、特待生のような…。一応プレイキャラクターだからかな…?)


クレア 「ごめんね、しき。」


シキ 「ううん、気にしてないよ。そうだ、クレアちゃんの荷物や着替えを持ってきたんだ。」



シキ、荷物を渡す際、クレアに近づいて耳打ちする。



シキ 「下着はカバンの中に入れておいたから。ごめんね、勝手に取ってきちゃった。」


クレア 「ううん、ありがとう。」


ナツミ (この気配りは女子だな。下着に抵抗感を抱いてなさそうだし。)


ノア 「飛行術の授業が終わってわざわざ寮まで戻ったんだからな?」


ロイド 「授業が早めに終わってよかったよ。」


クレア 「ありがとう。」


キャロル 「仕切りを締め切って着替えるといいよ。」


リズ 「あぁ。レディの保健着は見せ物じゃないからね。」


ナツミ (確かに白い緩い服を着てるけど、入院着だと思ってた。そんな寝巻きみたいな扱い受けるとちょっと恥ずかしくなってくるな…。)



クレア、仕切りを占めて姿見の前に立つ。



クレア 「…!」


ナツミ (待って。着替えるってことはクレアちゃんの制服姿を拝めるとともにあたしがぬ、ぬ、ぬ、脱がすんですか!?あたしがクレアちゃんをあられもない姿にしちゃってもいいんすか!?!?…いや、この発言は変態臭いから撤回しよう。ふぇ〜、理想のオリキャラの完全体が拝めるぅ…。)



ナツミ、受け取った制服をベッドの上に広げる。



ナツミ (アルカレッド・フォーストに定型の制服は存在しない。それは魔法と心が密接な関係にあるからという。自分が一番自分らしい状態であるとき心が解放されて魔法が使いやすくなるらしい。だから、定型の制服で生徒を量産するのではなく、一番似合う服を入学時に見立ててもらえる。ただ、そうすると制服の役割である、帰属組織の視認可ができなくなるから、学校の統一として緑が基調のカラーリングと定められている。それも、学年ごとに若干緑の色合いが変わり、1年生が若草、2年生が緑、3年生が深緑と学年が上がることに緑に深みが帯びる。)



ナツミ、広げた制服をベッドの上でなんとなく形作る。

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